02. アリアスとナルキッソス-02
一月はあっという間に過ぎ去った。合格の知らせに涙を流す子供たち、そして不合格の知らせに泣き叫ぶ子供たちの喧騒の中で、いつの間にか受験も終わりに近づいていた。ゆっくりと、ヘジュンの受験が始まろうとしていた。
日曜日の朝、ヘジュンは久しぶりに遅くまで寝ようとしたのに、なぜか早く目が覚めてしまい途方に暮れた。思い切り眠ろうとベッドの上でくるくる転がってみたが、眠気は訪れず、代わりに腰だけが痛くなった。勉強しようかとも思った。しかし、やはりあまり気が進まなかった。
しばらくベッドに横たわり、天井の壁紙の模様だけを数えていた。すると突然、ぱっと起き上がった。服を手早く身につけて家を出た。
「行ってきます。」
「ねえ、どこに行くの?」
「塾です。」
母の問いかけを背に受け流し、素早くエレベーターへ向かった。今日は休日。ほとんどの生徒も先生も来ない日だった。それでも塾の実技室の扉はいつも開いている。建物の入口で警備室のおじさんに生徒証を見せれば、誰でも入ることができた。先生の目を気にせず絵が描ける絶好のチャンスだった。なぜもっと早くこのことに気づかなかったのか。ヘジュンは自分の頭を軽く叩きながら、バス停へと走った。
塾に着くと、警備室のおじさんがにこやかに迎えてくれた。
「こんにちは。」
「学生か、絵を描きに来たのか? でもどうしよう、今まで受験生が使っていた1階の実技室は鍵がかかっているんだ。」
「あ、そうなんですか……?」
結局、塾の事務室と同じ階にある7階の実技室へ行くことにした。1階の実技室は鍵が必要だが、7階の実技室はパスワードさえ知っていれば入ることができた。
受験生たちが去った実技室はがらんとしていた。もうすぐまた高校3年生たちがやって来て、今年希望の学校に入れなかった子供たちは歯ぎしりしながら塾に戻ってくるだろう。その時まではまだ少し時間があったので、平日でさえ閑散としていた。ましてや休日など言わずもがなだった。
予想通り、実技室には誰もいなかった。ただ石膏像たちだけが、その白く冷たい顔で威厳を持ってそこに座っているだけだった。
普段は静物ばかり描いていて退屈だと思っていた。まだ対象物の描写を中心に習っていて構図の取り方を学んでいなかったため、その退屈さは倍増していた。しかし、今日はわざわざレンガや紙コップや缶などを描かなくてよかった。
石膏素描を正式に描いたことはなかったが、他の学生が描くのを横から覗いたり、先生が大声で説明しているのを聞いたことがあったので、だいたいどのように始めればいいのかはわかりそうだった。
高い石膏用の棚に置かれた石膏像たちを見上げた。
あのしかめっ面のおじさんはアグリッパ、あの美しい女性はヴィーナス、くるくるの髪はジュリアン、そして髪の束を垂らし、唇をわずかに開いた悲しげな表情のあれは……。
「アリアス。」
どうせ誰もいないのだから、うまく描けなくても誰に咎められることもないだろうと大胆にもアリアスの前にイーゼルを置いて座った。アリアスの正面にイーゼルを置くと圧倒された。顔の正面と髪の束。これを全部描くにはどれだけ時間があっても足りない気がした。いったい石膏素描クラスの生徒たちは、どうやってあれを2切りの紙に4時間半で描き込んでしまうのか、不思議でならなかった。
イーゼルを少しずつ移動させてみた。左側面に置くと描くものは半分になった。アリアスの顔もずっと美しく見えた。なんだかすごい発見をした気がして、誇らしい気分になった。
「石膏を描くときは、上の余白と下の余白をよく計算して残しておいてから、石膏の左端の位置、右端の位置を決める。そうやって重要な部分の位置を決めていきながら全体のかたまりを捉えていくんだ……。」
ヘジュンは耳にしたことを思い出そうと努めた。尖って細い鉛筆の芯が少しずつ丸まっていった。
――チーン――
昨晩、塾の近くに住むクォン先生の家で他の先生たちと酒を飲み、そこで眠り込んでしまったフィギュは、何気なく塾へ向かっていた。もともと絵を描きたいという思いで美大に入った彼は、絵を描くこと自体が好きだった。だから久しぶりに研究作品でも描いてみようと思って来たのだ。
エレベーターを降りて7階の素描実技室に向かった。確かに誰もいないはずの実技室から灯りが漏れていた。土曜日にクォン先生が見回りして退勤したはずなのに、変なことだった。もしかしたら生徒たちが出てきて遊んでいるのかもしれない。時々、中学3年生や高校1、2年生の中で、家には「塾に絵を描きに行く」と言っておきながら、ただ遊びに来ているだけの者もいた。絵も描かず遊んでいるだけなら、むしろ専門科目の勉強でもしてこいと言って帰らせなければならなかった。
校長は音に非常に敏感な人で、廊下の床には高級ではないがカーペットが敷かれていて足音が響きにくかった。さらに塾の全ての扉や窓には防音処理が施されていた。そのおかげで扉を開けているフィギュの耳にも音はほとんど聞こえないほど静かだった。そっと引き戸を開けてみた。
長い実技室の片隅にあるアリアスと、その下で誰かが座って絵を描いているのが見えた。豊かな髪をきちんと束ねて垂らし、絵に集中している生徒の後ろ姿は美しかった。
突然、フィギュの胸が高鳴り始めた。彼の心臓は、今目にしている後ろ姿の主が誰なのかすぐに悟ったらしかった。彼は呼吸を整え、静かに彼女の後ろへ近づいた。
サラサラ……。
「ふう……うまくいかないな。こいつは本当に印象を掴むのが難しい。」
「どうしたんだ?」
「ひゃっ!」
ヘジュンは突然、後ろから誰かに肩を叩かれ、卒倒しそうなほど驚いた。その間も大声を出せず息を吸うだけだった。驚いて顔を上げると、フィギュがじっと彼女の目を見つめていた。
「あ、えっと、ただ石膏を描いてみたかったんです。」
「単調な静物ばかり描いていて退屈だったんだろ?石膏も描いてみないとね。でもアリアスは君には難しすぎるよ。君、アグリッパもちゃんと描いたことないじゃないか。」
ヘジュンは顔を赤らめた。久しぶりの休日に描きたいものを描くのが何か悪いことだろうか。でも口が利けなかった。笑っているのか泣いているのか分からない不思議な表情のアリアスを選んだせいで困っていたところに、いきなりフィギュまで現れて心が乱れたのだった。
「でも、初めてにしては印象はよく掴めてるよ。アリアスの表情が少し明るすぎるのが玉に瑕だけどね。」
フィギュの好意のこもった評価にヘジュンは思わず驚いた。フィギュの目には確かに好意と称賛があった。誇らしささえも覗かせていた。ヘジュンは突然、自分でも気づかない甘えた気持ちが漏れてしまった。
「先生、アリアスの印象を掴むのが本当に難しいです。」
ヘジュンの甘えたような駄々に、フィギュは穏やかな表情で静かに言った。
「君が悲しい恋を知らないからだよ。」
「え?」
「アリアスは……捨てられた女なんだ。ミノタウロスって聞いたことあるかい?」
「あの、迷宮に住む牛頭の怪物?」
「そうだ。アテネの王子テセウスは、クレタ島にいるミノタウロスの生け贄になる運命だった。実際はミノタウロスを倒しに行ったんだけどね。そこでクレタの王女アリアドネに出会う。それがまさにアリアスのことだ。アリアドネはテセウスを見た瞬間に恋に落ち、迷宮から脱出できるように赤い糸の玉を渡す。そしてテセウスが生還した後、一緒にアテネへ帰ることにするんだ。でもアテネへ向かう途中、ナクソスという島に一時停泊する。そこでテセウスは守護女神アテナに会うのだけど、アテナは何らかの理由でアリアドネを見捨てて去るよう命じる。そしてアリアドネが眠っている間に、テセウスは彼女を置いて去ってしまう。後にディオニソスがアリアドネに求婚し、最終的にディオニソスの王妃となる。ディオニソスはアリアドネをとても愛したのか、彼女が亡くなった後、彼女がつけていた冠を空に投げ上げて星座にして記念した。それが王冠座だ。どれだけディオニソスに愛されていても、やはり最初の恋人に理由もわからず捨てられたアリアドネが幸せそうな表情をしているはずはないだろう?」
フィギュが静かな声で語るアリアドネの神話は、まるで夢の中で聞くようだった。しかし、ただ優雅な表情の石膏像だと思っていたアリアスにそんな背景があると知ると、胸の奥がじんとした。悲しいアリアドネ、悲しいアリアス。
「……そうは言っても、アリアスの印象をちゃんと掴むために悲しい恋をしてみるのは嫌です。」
ヘジュンの言葉にフィギュは大きく目を見開いた。
「ヘジュン……君は……。」
「はい?」
フィギュの右手がヘジュンの左頬を包んだ。彼の突然の行動に驚いてもよさそうなものだが、彼女は微動だにせず静かに目を閉じた。
『先生、指先に覚えておいてくれますか?』
フィギュの指先が彼女の輪郭をなぞっていった。
ヘジュンは思わず目を閉じ、その手の感触に集中した。なぜかくすぐったいような気がした。だが、ふと彼の手が止まった。
「前から思ってたんだけど、その指輪……綺麗だね。」
フィギュが探るように指輪のことを話した。
指輪?
ヘジュンは何の話だろうと左手を見た。飾り気のない純金の無地の指輪が目に入った。その指輪にフィギュの視線が注がれていた。彼の表情は複雑極まりなく、焦りと好奇心が入り混じり、ほんの少しの嫉妬がスパイスとして加わったようだった。
「くっくっ、気になるの?」
「い、いや。ただ、綺麗だなって。」
「綺麗なわけないよ。全くデザインがない無地の指輪だよ。むしろ無骨だよ。」
フィギュは自分の本心を見抜かれた気がしてもじもじしながら視線をそらそうとした。
「これは、私が家庭教師をしていた生徒のお母さんがくださったお金で買ったんです。3年も家庭教師をして、その終わりに感謝の気持ちとしてお金をいただいて。それを使い切るのもどうかと思い、純金の指輪に替えたんです。そうすればこの指輪を見るたびにあの生徒とお母さんのことを思い出して、そのたびに感謝できるかなと思って。」
その瞬間、フィギュの瞳に光が走ったように見えた。それは確かに安堵の光だった。彼の表情はヘジュンが描いた明るい表情のアリアスに似ていた。




