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空の魚  作者: 天野つばめ
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友達の資格なんてない

 嘘だ、嘘だ。そう叫びたかったけれど、声が出なかった。あまりの衝撃に涙も声も出なくて、ただただ苦しくて息ができなかった。

 ベッドの脇に置いてあった荷物は、スイから預かっていたリュックだ。防水ケースに入っていたカメラは無事だった。


 精密検査の結果、脳を含めどこにもダメージはなかったので退院して島に戻った。なのに、声は出ないままだ。心因性の失語症らしい。

 俺はスイのカメラを持って毎日海辺に行った。海の近くで待っていれば、スイがふらっと現れてくれるかもしれないことを願って。

「紅星君」

 スイのおばあさんに声を掛けられた。

「学校のお友達からここにいるって聞いたの。無理して喋らなくても大丈夫」

 事故の詳しい状況は知らない様子だったのに、俺の声が出ないことは誰が伝えたのか知っていた。

「これ、紅星君が持っててくれる?」

 スイが今までに撮った写真のSDカードと、部屋に大事に飾ってあったデッキケースと魚のマトリョーシカを渡された。カメラを返そうとすると、断られた。おばあさんは、スイの母親が俺を蛇蝎のごとく嫌っていることを知っていた。俺関係のものは母親に捨てられてしまうかもしれないと思ったからと、全部俺に託そうと思ったと。

「翠星と仲良くしてくれてありがとう」

 おばあさんに言わなければならないことがあるのに、声が出なくて引き止められなかった。


 スイが何十回も何百回も読み返したと言っていた手紙、俺は何を書いたっけ。マトリョーシカを開けると俺の汚い字で書かれた3枚の手紙が入っていた。

「お前はすごいやつだから絶対受かる。がんばれよ」

 小6のスイあての手紙だ。行くなと言えばよかった。そうしたらスイは中学でいじめられることもなかったのに。同じ過ちを繰り返した俺のせいで東大に行くことになった。行くなと言えば、東京に行くこともなかったのに。

 流れ星の翌日、俺は記念受験する兄貴の北海道の大学の学部を調べた。宇宙工学はあの大学でも勉強できたらしい。俺がちゃんと志望校合格圏内だったら、どこでもいいなら一緒の大学に行こうと言えたんじゃないだろうか。そうしたら、事故には巻き込まれなかったのに。

「スイはずっと俺の自慢の友達。忘れないから忘れんなよ」

 自慢の友達、これを中1のスイはどう受け取ったのだろう。小6の時の手紙と合わせて名門校に通う秀才という意味で受け取っていたら、そのせいでスイは逃げられずに無理して学校に通っていたんじゃないだろうか。

「たまには戻って来いよ。待ってるからな」

 中2の時、俺に会いに来ようとしたきっかけの手紙。スイはあの日、台風に阻まれたことがきっかけで心が折れた。俺が追い詰めていたんじゃないのか。


 スイは俺を助けようとして消えた。あまり泳げなかったのに無理をして消えた。あの事故は、俺の運命の帳尻を合わせるための事故だったのに、それに巻き込んだ。アンタレスは火星に対抗する者という意味がある。火星探査機の墜落事故で死ぬべきは俺だったのに。星空を愛したスイがケスラー・シンドロームの影響で死ぬなんてあってはいけないことだったのに。

 俺は昔スイの心を殺した。そして、また殺した。俺にスイを友達だという資格なんてない。

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