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空の魚  作者: 天野つばめ
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日常は永遠じゃない

 俺達は船に乗った。明日船が島についたら俺たちはまた日常に帰る。ずっと続いてほしいと願う日常がまた1日1日進み始める。

「ごめんね、ちょっとトイレ行ってくるから荷物預かっててもらってもいい?」

 船の後方出口付近にあるトイレは狭く、荷物をかける場所もない。俺はスイのリュックを預かった。


 突如、背後で爆音が鳴った。船が、震度7の地震でも起きたのかというくらい大きく揺れた。俺は転んで足を捻り、腕を強打した。振り返ると、数メートル先の甲板に穴が開いていた。何かが落ちてきたような跡だ。そして、もう一度大きな爆発音がなった。

「緊急事態発生、緊急事態発生。船内前方にて、火災が発生しました。船内後方の甲板に避難してください」

 足を引きずりながら、後方に向かおうとしたところ、穴の部分から火柱が上がった。火の向こう側で順番に救命ボートに避難している人たちが「隕石だ」と叫んでいた。そんなはずがあるかと思った。甲板の前方部から、後方部の間は区切られており、船内を経由しないといけない。早く避難しなければ。

 火の手が早い。冗談じゃない。こんなところで死んでたまるか。隕石が落ちる確率は何百万分の1%かだし、船舶事故の確率もそんなものだった気がする。だから、こんなことが起こりえるはずがないんだ。

 たまたま後方の出口近くのトイレにいたスイはすぐに避難できたようで、最初のボートに乗った姿が見えた。良かった。スイは無事みたいだ。俺はどうしようか。これは飛び込んだ方がいいのだろうか。ボート上のスイと目が合った。スイが立ち上がろうとするのを隣の人が制止した。

「バカ!来るな!そこで大人しくしてろ!」

 轟音の中、届いているかは分からないが俺は叫んだ。スイはほとんど泳げないのだから。直後、船が再度大きく揺れて、俺は海に投げ出された。泳ごうとしたけれども足も腕も動かない。

 思い出した。スイの父親が死んだ落雷事故も、宝くじ1等の当籤も、麻雀の天和も一般に隕石の衝突事故よりも確率が低いと言われていることだと。でも、それは確かに起こった。世の中に絶対あり得ないなんてことはないのだ。

 間接的にはじいちゃんが当てた宝くじのおかげで俺たち家族は暮らしている。ゲームだって人間関係だってラッキーの連続で、とにかく運のいい子供だった。大事な行事は必ず晴れた。世界が平等で、幸運の総量が同じだというのならきっと俺は一生分の幸運をもう使い切ったのだろう。

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