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空の魚  作者: 天野つばめ
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やっぱり君には敵わない

 学校でもそれ以外でも、出来る限りスイの傍にいた。特に、スイにとってトラウマになっている雨の日は絶対に一人にはしなかった。

 雨の日に過呼吸を起こすことも、悪夢にうなされることも次第に減っていった。3月ごろにはだいぶ元気になって、体育を見学することもなくなった。


 クラス替えでスイは同じクラスになれるか不安がっていたが、俺は強運には自信があった。クラス替えの発表結果は同じクラス。俺はスイに言ってやった。

「だから言ったろ?ちゃんと世の中ラッキーの帳尻が合うようにできてるんだよ。天秤だってつりあうものなんだから」

 2年生から3年生の間でクラス替えはない。必然的に俺たちは卒業まで同じクラスだ。最初のホームルームでクラス委員決めが行われた。

「俺とスイで卒アル委員立候補」

 卒業まで同じクラスなので2年生の頃の写真もあった方がいいということで、俺たちの学校では2年生の段階で卒業アルバム担当の委員を決める慣習になっている。卒業アルバム委員に俺とスイで立候補すれば、学校公認で校内で写真をたくさん撮れる。


 春の球技大会の日、出場競技の合間を縫ってクラスメイト達を撮影した。女子がバレーボールで優勝したので記念撮影をしようとカメラを向ける。

「はーい、撮るぞー」

「えー、紅星じゃなくて広田が撮ってよー。広田の方が可愛く撮ってくれるんだもーん」

「ったく、しょうがねえな。おーい、スイ。女子はお前に撮ってほしいんだってさ」

 スイを呼び寄せる。スイは元々絵がうまかっただけあって、写真の構図が素人目にも綺麗だ。セルフタイマーで俺たち2人の写真を撮ることもあるけど、その写真ですらいい写真だ。


「こーちゃん!今朝のニュース見た?」

「何だっけ、またスペースデブリ落ちたんだっけ?」

 ここ1年でうんざりするほどスペースデブリ関連の事故が増えている。

「違うよ!小惑星探査機のシラユキヒメが帰還したんだよ!シラユキヒメが撮った写真がすごくてさ!」

 スイは最近、自分では撮れない宇宙の写真に夢中になっている。

「無事に帰還しただけでもすごいのにさ。もう感動しかないよね!」

「帰ってくるだけで?」

「すごく大変なことだよ!この間だってロシアの人工衛星がスペースデブリに当たって壊れて制御不能になって大西洋に落ちたって話題になってたよ」

「ケスラー・シンドロームだっけ?2月くらいにアメリカの人工衛星が壊れて墜落して国内のビルに当たって大問題になってたのは知ってる。掃除できればいいのにな」

「それ!スペースデブリ回収プロジェクトに世界が動き出してるんだけど、日本もその条約を批准するって話が出ててね……」

 難しい話だが、スイはそこまで難しい言葉は使わないので何となく何をいっているのかは分かった。本当に宇宙が好きなんだなと思った。

「スイって将来は宇宙飛行士目指してるの?」

「ううん。僕は、宇宙工学の勉強してさっき言ったスペースデブリの回収プロジェクトに将来的にかかわりたいなって思ってるんだ。長期的な計画になるだろうし」

 スイは不真面目な俺と違ってしっかりしている。生き方は不器用で見ていて不安になるけれど、頭はいいし色んなことを器用にこなすタイプだ。もう将来の夢が決まっているなんてすごいと思った。


 それでも、体育の授業で俺が僅差で勝つたびに、運が味方してスターワールドやゲームで俺が勝つたびに、

「こーちゃんには敵わないや。やっぱりこーちゃんはかっこいい」

 とスイは笑った。

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