今も昔も変わらない
裏山に行くのは何年ぶりだろう。子供の頃はさすがにあまりに遅くなる前に帰ったけれど、今は夜遅くまで外にいても咎める人はいない。より真っ暗な世界で星を見られる。
星の灯りだけを頼りに俺たちは裏山を登る。紛れもなく新鮮な冒険だ。木々を抜けて頂上に出ると一面に広い星空が広がっていた。
頂上の急斜面側には安全のため手すりのような柵がある。俺たちはいつもそこに腰かけていた。俺たちの定位置に腰かけて、流れ星の写真を撮った。
「こーちゃんとずっと一緒にいられますように」
スイが流れ星にお願いをし始めた。流れ星への願いはもう叶わないものを願う悲痛な声ではない。ようやく手に入った幸せへの感謝とささやかな祈りだ。
「こーちゃんとずっと一緒にいられますように」
「お前は本当に俺が好きだなー。お前はかわいいなー」
思えば小さい頃から流れ星を見るたびにそんな会話をしていた。
「変わらないな。スイは」
「僕はこーちゃんといられたらそれで十分だから。こーちゃんは僕の友達で憧れで命の恩人なんだよ」
命の恩人。俺は何もしていないのに。傷ついたスイに何もできなかったのに。
「こーちゃんもしかして覚えてない?」
「何を?」
「転校前にここに来て、ちょうど今みたいに柵に座ってたらさ、僕がここから落ちそうになったじゃん?その時に助けてくれたこと」
*
小5の1月、スイから東京に転校すると伝えられた。2月から東京の塾に通って名門私立中学に入れと母親が決めたらしい。スイは受験を望んでいなかった。プライドの高い母親のエゴだった。
三大流星群のしぶんぎ座流星群に俺たちはお願いしに行った。
「お楽しみ会のクラッカーみたいだな」
「流れ星、お魚さんみたいだね。こんなにいっぱい泳いでる」
「確かに。“空の魚”だったら、“軍神アンタレス”と“裁きのズベン・エス・カマリ”のお願いだったら聞いてくれるかもしれないよな」
空を泳ぐ魚の群れに向かって手を伸ばし、俺たちは叫び続けた。
「こーちゃんと離れたくない」「スイと離れたくない」
でも、何度叫んでも流れている間に3回唱えるなんて不可能だった。
「お魚さん捕まらないね」
スイが切なげにつぶやいたその時、少し動きがゆっくりな流れ星が見えた。スイはそれを捕まえようとして身を乗り出し、バランスを崩して柵の外側に落ちた。俺は斜面を滑り落ちそうになったスイの腕を慌てて掴んで引き上げた。
*
そういえばそんなこともあった。しぶんぎ座流星群に一緒にお願いをしたことは覚えているけど、なんとなく見ていて危なっかしいスイを助けるのはいつものことだったから、命を救ったという認識はなかった。
「死にたくなった時も、こーちゃんに助けてもらった命だから絶対自殺はしないって思えたんだ。だから、今僕が生きてるのはこーちゃんがいたからだよ。ありがとう」
あの頃と同じ澄んだ目で俺を見るスイがいつまでも笑っていられますようにと空の魚たちに人知れず願った。