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空の魚  作者: 天野つばめ
12/24

思い出は消させない

 翌日以降はスターワールドのカードを持ち込んで、スイの家に入り浸った。

「“軍神アンタレス”で攻撃。っしゃ、俺の勝ち!」

「やっぱり、こーちゃんには敵わないなあ」

 5年経っても、ルールは全部覚えていた。いくら遊んでも遊び足りなかった。


 今日はオンラインの家庭教師と勉強する日らしい。島への転校の際にスイの母親が出した条件が、ちゃんと受験勉強をすることだったので仕方がない。

 スイの誕生日まであと少し。今日は誕生日プレゼントを買いに行こう。5年分盛大に祝ってやろう。ぶらぶらと歩いていると、観光客向けの懐かしい土産屋が目に入った。



 スイの転校の1週間前のことだった。転校を嫌がっていたスイは思い出に残るような何かを欲しがった。小学生の安直な発想で、島のことを思い出すなら島の土産物を買えば島らしいものが手に入るんじゃないかと思った。

 土産物屋で見かけたのが、熱帯魚型のマトリョーシカだった。安っぽいプラスチックの魚の中にまた魚の人形が入った安っぽい置物は小学生のお小遣いでもギリギリ買えた。赤と緑があったから色違いで一緒に買った。

 スイは昔から女っぽいところがあった。転校前のナーバスな状態が余計にそうさせたのか、翌日女が好きそうなことを提案してきた。

「昨日買ったお魚さん交換しよ。中に3枚手紙書いて入れたから、毎年こーちゃんの誕生日に読んで」

「女子かよ……」

「だって、僕こーちゃんとタイムカプセル埋められないから」

 南小学校の6年生は卒業時にタイムカプセルを埋める。きっとその代わりなのだろう。そういうことならと、俺も3枚手紙を入れた。もっとも、あまり大きな紙は入らないし、手紙を書いたこともなかったので一言ずつ書いただけだった。

 スイからの手紙は毎年読んでいた。忘れっぽくてだらしない俺が、小6から中2までの3年間毎年誕生日になると俺たちだけのタイムカプセルのことをちゃんと思い出していたあたり、スイは特別だったのだと思う。



 さて、今年は何を渡そうか。あいつは何が好きだったっけ。


――こーちゃん、記念に写真撮ろうよ。

――ケータイ買ってもらったんだ。写真も撮れるんだよ。

――ケータイ壊されちゃったから、こーちゃんとの写真も消えちゃって……。


 スイの言葉を思い出す。俺たちのこれからの高校生活を形に残せたら、あいつは喜ぶんじゃないだろうか。もう、親や学校の先生のカメラに頼らなくたっていい。

 中古の安物だけど、ちゃんと夜空も撮れるようなカメラを買った。セルフタイマーも使えるから、2人で写真を撮ることもできる。ケータイで夜空を撮ったら何が何だかよくわからないことになったけれど、これなら空の魚たちを捕まえられそうだ。俺が赤、スイが緑。俺たちの新しい日々は今度こそ誰にも消させない。


 9月25日、誕生日当日。

「ハッピーバースデー!」

 スイの家で、カメラを渡した。スイが目を輝かせている。

「ありがと、こーちゃん。一生大切にする」

 スイがとびっきりの笑顔を俺に向けた。この笑顔をもう一度見たかったんだ。俺はシャッターを切った。カメラにおさめる記念すべき1枚目。

 今夜は流れ星が降る。天気は快晴。さあ、うお座流星群を撮りに行こう!

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