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空の魚  作者: 天野つばめ
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僕は約束を忘れない

 しぶんぎ座流星群を見た夜、お楽しみ会のクラッカーから出てくるリボンみたいだと思った。スイは、流れ星を魚に例えていた。願い事を3回言えないことを、「お魚さんなかなか捕まらないね」と言った。

 夜空を魚たちが舞う中、女子みたいな小さくて白い手と指切りをした。



 2010年、2学期始業式の日。この頃ニュースは宇宙開発だとかスペースデブリだとかケスラー・シンドロームだとかやたらダイナミックな話をしていたが、俺たちには無縁の話だった。

「紅星は始業式どうする? サボる? ゲーセン行く?」

 友達数人に声をかけられる。

「ゲーセン一択」

「今日転校生来るんだろ? そいつも誘ってみる?」

「いいね」

 離島で暮らす高校1年生の俺たちにとっては、海外のどこかの村に宇宙探査機の破片が落ちたなんて話よりも、人間関係の確立された教室に転校生が来るということの方がよっぽどビッグニュースだった。

「広田翠星です」

 それは蚊の鳴くような声だった。転校生は酷く怯えた顔のままふらふらと歩き、廊下側後方に着席した。

 スイ、門倉翠星は俺の親友だった。小5の冬、名門中学を受験するために東京に転校していった。ケータイを中2で買ってもらったとき、教えてもらったスイの番号にもメアドにも連絡したけれど繋がらなかった。5年間も会っていなくて、卒業アルバムにも映っていなかったから写真もない。

 転校生は、スイだ。同じ小学校出身の奴等は気づいていないけれども。声も苗字も雰囲気もすべてが昔とあまりにも違っていたからだろう。

「広田君に色々質問したい気持ちはわかるけど、始業式の後にするように」

 担任の指示でクラスメイトはすぐに体育館に流れはじめた。

「転校生根暗そうだし、誘わなくてもいいよな。紅星、行こうぜ」

「うるせえな、黙れよ。勝手に行け」

 スイを悪く言われてムカついたので声にドスを利かせた。友達は気まずそうに教室を出て行った。


 人の流れに逆流するように、転校生が俺の元にふらふらとした足取りで駆け寄ってくる。

「こーちゃん」

 教室から人がいなくなると震えた声を発した。懐かしい呼び方だ。

「会いたかった」

 泣き出しそうな目で俺を見つめる転校生はまぎれもなくスイだった。

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