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39話 最終決戦(6)

 派手な音を立てて二人は痛々しくぶつかった。ぶつかった衝撃は強く、全面ガラスの近くまで吹き飛ばされていた。


「未来! すまない、大丈夫かい?」


『はい、大丈夫ですよお姉様』


 倒れた妹の元へすぐに駆け寄り無事を確認した。大きな怪我はなさそうだった。


「そうか、よかった」


 摩耶は立ち上がり、少し離れたところにしゃがみこんでいるアゲハを見る。その元にはヒカリが倒れていた。


「お姉ちゃん! しっかりして」


「あぁ大丈夫、少し掠っただけだから。それにしても右腕は痛む」


 摩耶の攻撃を受けてしまったヒカリはなんとか立ち上がるも、肩を脱臼させたようにだらんとしている。右手は使えそうになかった。


「摩耶ぁぁ!」


 アゲハは怒りに満ちていた。近くに落ちていたガラス瓶を握りつぶし投げる。ガラスの破片は手榴弾の破裂のように飛んでいく。広範囲に広がった破片を、摩耶は全てを防ぐことはできなかった。


 未来にも破片が掠める。頬から血が流れる。


 ────強大な敵を前にして、二人の姉妹は手を合わせて敵を見る。


 体は傷だらけで、目の前の敵にはこのままでは勝てないことは明白だ。


 しかしなんの問題もない、”姉妹の愛はどんな相手にも叶う最強の力を持っている“


「行くよ」


 隣に並ぶ姉は妹にいう。


「はい、お姉様」


 妹は仏のような笑顔を見せていた。


 二人は並んで前へ歩む。目の前の敵は決意を固めた表情をしていた。


 四人は【disaster】の名をかけた最後の戦いを始めた。


「ふざけたことを、もう終わらせようか!」


 破片を直撃した摩耶は血を垂らしながらアゲハに襲いかかる。先程握りつぶした片手は、血にまみれていた。その手で摩耶の攻撃を防ぐ。その隙にヒカリも攻撃に転ずる。


『わたくしは、お姉様の願いを叶えるために戦わなければ……』


「……やっと、動いたか」


 今の未来からは戦う気力が感じられた。といっても摩耶とは違い、圧倒的な強者感は感じられなかった。今までの未来をからしても戦うことは柄では無いのだろう。


「さぁやろうか、お姉様の為に、頑張りな。私も妹を守るために、死ぬ気で戦うから」


 二つの戦いが始まる。それはどちらの愛が強いかを競う戦いだった。


 アゲハの傷が増えていき、摩耶は息を荒くしていく。ヒカリは使えない片腕を封じながら、未来と戦う。戦い慣れていない未来は一方的に攻撃される。


「そんなもんですかdisasterってのは!」


「さっきまで手も足も出ていなかったくせに、これも姉妹の愛なのかな!」


 その時、未来がヒカリに抱かれるように倒れた。どうやらそちらの戦いは終わったらしい。


「この子の力は自分を信じさせる力だ。まさしく神のようにな。だから姿を現すべきではなかった。分かるか、摩耶。神は存在すると信仰されるもので実際に姿を見せることはないだろう、姿を見せればそれは神ではない。未来は元鬱宗の中では本当に神に近いものだったかもしれない。しかしお前が無理やり連れ出したせいでこの子はただの人間になったんだよ。未来は一度でも外に出たいって言ったのか?」


 抱きかかえられ目を瞑る未来を見ながら摩耶は思った。


(そうだ、未来は私の幸せを願い、自由になりたいとは一言も言っていない)


 未来も自由を望んでいたことは全部私の思い込みだったのかと摩耶は思う。


「本当に望んでいたのは私の幸せだったのか。そんなことにも気がつけないなんて、姉失格だな。しかし、それでも姉であることは変わりない。ここまで間違えてしまったのなら、今さら正しい道になんて戻れないだろう?」


「ですね、あなたはもう戦うことしかできませんよ」


 戦って、戦って戦って闇に墜ちるか、あの世に逝くかしか摩耶には選択肢はなかった。


「これが本当のラストバトルかな」


 お互いに満身創痍の状態のまま、無理矢理体を動かし戦いを続ける。


 摩耶が戦っている間にも、先にやられた結社とキルズのメンバーは体力を回復させている。仮にこの戦いに勝てたとしても、摩耶の運命は決まっているだろう。


「片腕も使えない、力もない。頼りない姉だが一緒に戦ってくれるか?」


「もちろんだよ、あの事件の仇、今討とう」


「ふっ、その姉妹愛、羨ましいね」


 動きをとめない。少しでも気を抜けば一瞬で殺される。会場は原型を留めておらず、窓が割れ風が入ってくる。陽は傾き段々とオレンジ色に染めていく。


 ────────そして戦いは決着を迎える。


 どれだけ傷を負っているのか分からない。なぜ立っていられているのかも分からない。この戦いが終われば死ぬのではないかという気もしている。死にかけの中最後の力を振り絞る。この攻撃で倒せなければもう動くことはできない。


「「はぁぁぁぁ!!!!」」


 ヒカリとアゲハの同時攻撃が、摩耶に直撃した。


────。


 終わった。二人はそう思い倒れ込んだ。


 力を出し切りもう一歩も動けない意味と、摩耶を倒したと確信していった言葉だった。


 当の摩耶は、大の字になり一歩も動かなかった。


「疲れたぁ! もう一歩も動けん!」


「だな。だが大丈夫だ。もう全て終わった。ほら、アイツらもやっと起きてきた」


 横になったまま顔を傾ける。


「いやぁすまん、油断した!」


「油断したじゃないぞ、クゼツ、お前は十分に戦っていた」


「そうですよクゼツ先輩。私なんて一瞬で落とされましたから」


「いやぁそれにしてもまさか、結社と共闘するとは、なんとなくその時が来るとは思っていたんですけどねぇ。こんなに連携できるとはおもいませんでしたよぉ」


「ですね……シアさんも、大変な役お疲れ様でした」


「あぁ気にしなくていいよ。全部想定通りだったから。姉さんも、許してくれるよね?」


「突然いなくなったと思ったら、これがしたかったって訳か。終わりよければすべてよしって訳じゃないけど、今さら恨むなんてことはしないよ。あいつは倒せたんだから」


「摩耶、disasterのリーダー。さすがに強かったね。もう一歩も動けないよ」


「まぁな、摩耶の強さは人間じゃない。それはお前達もだが。んで、一応私は君のお姉ちゃんなんだけど、そう言われても実感ないよな」


 プロキオンは苦笑いを浮かべながらシロに言った。


「すいません全く信じられませんねぇ。母にも言われたんで間違いないんでしょうけど。あなたの話も詳しく聞きたいですねぇ」


「あぁいいぜ帰ったらいくらでも────」


 その時、九人は違和感を感じ先ほど摩耶の倒れた位置を見る。そこに摩耶はいず、いつの間にか未来の元へと移動していた。どちらも横になっている。


「すまなかったね、私の勝手な行動に未来を巻き込んで」


「いいえ、これは私が望んだことですから、お姉様を恨むことなんてこれまでも、これからもありませんよ」


 そこまで会話して、摩耶はポケットから細長い何かを取り出した。その先端には赤いボタンのようなものが付いていた。


「じゃあ、この行動も許してくれ。私の選択肢は一つしかないから」


 摩耶はそのボタンを押した。


 爆発音の後、地響きが起こる。


「まさか! またあの大事件を起こすつもりか!」


 ヒカリのその言葉で摩耶が何をしたのか全員が理解した。あの大事件の日と同じく、塔を破壊する爆弾を起爆したのだ。混沌の塔には今多くの反社と結社が残っている。この塔が倒れればあの災厄が再来することになる。


 ガタガタと地震が発生している時のように横に揺れる。


「せっかく勝ったのに! こんなことに巻き込まれるなんて!」


 アゲハは叫ぶ。もはやできることはなく、強いて言うのなら崩れないことを祈るしかできなかった。


 ────────しかし、ただ一人、プロキオンだけは余裕を見せていた。


「安心しな。元々摩耶を裏切ると決めてたんだから、当然爆弾の量も調整しておいたから、この建物が崩れることは無いよ……」


 そういい、眠る二人の方を見る。


(すまないな、摩耶。死に逃げはさせないから、許してくれ)


「……あぁいきなりそんなこと言われても戸惑うか、とにかくここは安全だ。さっさと動けよ、することは腐るほどあるんだからな」


「なんであなたが指示してるんですか。まだ状態が把握しきれていないんですけど、そういう事なんですね」


 揺れが収まった会場の中。それぞれの人達が次すべきことに取り掛かろうとする。戦いは終わったがこれからの世界のためにすべきことは多く残っている。


 元「disaster」を倒し、新たな『disaster』となった者が、差し当たりすることは。


 ヒカリとアゲハはゆっくりと割れた窓に向かって歩く。高さ500メートル。都心に建てられた塔からははるか遠くまで見渡すことができた。


 何機ものヘリコプターが飛行する中、二人は宣言する。


「「反社の時代は終わりにする」」


 と。


「アゲハ。話したいことは山々だが一旦はすべきことをしよう。本当に、生きていてくれてありがとう」


「……うん、こちらこそ生きていてありがとうね。世界が元通りになったらまたゆっくり話そう」


 二人は並び、街を見る。反社が蔓延る『混沌の世』の時代は終わったが、元の日常に戻るまではもう少し時間がかかるだろう。


 この場にいる全員があの何気ない日常が戻ってくるのを切に願っていた。

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