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38話 最終決戦(5)

 なんて速さだと、キルズの四人は思っていた。彼女──摩耶の速度について行かなければこの戦いには勝てない、今のままでは絶対に勝てないのは間違いない。摩耶を倒すにはこの戦いの中で成長しなければならなかった。


『あなたの妹は目の前にいますよ。ですがヒカリさんはそのことに気がついているようですが』


 吹き飛ばされたクゼツを他所に、未来はヒカリを見ながら言う。その言葉の意味を、ヒカリは深く考える。そんなことしている場合ではないことは分かっているのに、なぜか未来の言葉には耳を傾けてしまう。


「どういうことだ、それは」


「適当なこと言わないでください!」


 ミミはそう叫び拳銃を未来に撃つ。ハナはそれに合わせナイフを投げる。


「私達もいくよ!」


 アゲハとミナは未来ではなく摩耶に向かい、シロはその隙に未来に接近する。プロキオンは槍を構え、しっかりと摩耶を狙っていた。


 全員が合わせた攻撃、ホコリのひとつでもつければいいと思っていた。しかし、


 ミミの発砲した五発の弾丸は軽々と避けられ、ハナのナイフは人差し指と中指で掴み、その勢いのまま接近してくるアゲハとミナへ投げる。


『ヒカリさんの妹は今この場で戦っています。守ってあげなくて、いいのですか?』


 ヒカリは無意識に拳銃を構え、アゲハの方へ発砲した。その弾丸はアゲハの元へ飛んでいたナイフにあたり、ナイフの軌道をずらした。そのままそのナイフはミナに向かっていたナイフにあたる。


「ヒカリ……」


「薄々気がついていたんだ。アゲハは、私の妹なんじゃないかって」


 ヒカリはそう言いながらも攻撃をやめない。


「雰囲気は変わったが間違いない。アゲハ、私の勘は、当たっているのか?」


「…………そっか。うん。その勘は正しいよ()()()()()。久しぶりだね。ずっと近くにいたけど」


 アゲハは間に摩耶を挟んだまま会話をする。


『そう、これで平等ですね。姉妹同士、正々堂々戦いましょう』


 未来は無垢な笑顔を見せた。姉妹同士の戦い、その意味をヒカリとアゲハは理解できなかった。これは姉妹同士の戦いではなく、元鬱とその他の戦いのはずだ。


「話したいことは腐るほどあるが、今はこいつらを倒すことに集中しよう。できるはずだ、キルズとの完璧な連携を」


「やれるものなら、倒してみろ」


 神速の攻撃。九人がいてやっと対処できている。摩耶の攻撃を避けつつ防ぎつつ、未来への攻撃を狙う。しかし全て摩耶によって阻まれる。


 ────その均衡は崩れる。一瞬の隙をつかれミミに強力な一撃を与えられた。


「ミミ!」


 身体は簡単に吹き飛ばされる。床に倒れ込んだミミはピクリとも動かない。


「倒せるものから倒す、戦い方としては当たり前のやり方だが、やはり気分は悪くなるな」


 ヒカリの声色は暗かった。


「あぁ、同感だ。今すぐにでもぶち殺してぇ」


 クゼツは摩耶に接近する。クゼツ渾身の一撃。今まで溜め込んでいた怒りを全てぶつける。


「はっ!」


 全てを破壊するその一撃は、摩耶の手ひとつで止められた。そしてクゼツもまた、摩耶の攻撃をモロに食らうことになった。


 入ったヒビは広がっていく。仲間は次々と戦闘不能とされていく。


 今や立っているのはヒカリとアゲハ、そしてプロキオンだけだった。


 正確に言えば、今はプロキオンと摩耶がタイマンしていた。その戦いは次元が違った。立ち入る隙もない最強同士の戦い。ヒカリとアゲハはプロキオンが勝つことを祈ることしかできなかった。


 親友同士の戦い。しかし命を懸けた戦い。


「摩耶、結構疲れたんだが、そろそろやめないか」


「またお得意の嘘かい? 君は昔から嘘をつくのが得意だったね。おかげでシアが裏切り者だと気がつかなかったよ」


「違うだろ。気がついていたけど信じたくなかっただろ」


「あぁ、そうかもね」


 そして戦いは終わりを迎える。


「摩耶、お前は、いつの間にそんなに強くなったんだ?」


 プロキオンは怒っていた。その理由は二つ。妹を傷つけられたことと、摩耶を倒せなかったことだ。既にプロキオンの体は言うことを聞かなかった。


 こうして残ったのはヒカリとアゲハだけになった。幸いにもプロキオンが戦っていたおかげで少しは体力を回復させることができた。しかしずっと戦い続きの摩耶は全く息を切らしていなかった。そして未だ戦いに参加していない未来、彼女の実力は未だ未知数だった。


「さて、これで残るは君たちだけだね。やっと決着をつけることができる」


「そんなに私達と戦いたかったんですか?」


「今となっては真の自由な世界を作る上で障害となるのは君たちだけだからね。君たちを倒せばあとはどうにでもなる」


「disasterから障害となると言われるとは光栄だな。いや、ただの煽りか」


「本心だよ。障害になると思っているのは」


 摩耶は未来の近くに寄る。


「プロキオンは強かった。しかし、愛が足りなかった。妹の為に戦うという愛が」


「真面目な顔して何言ってるんですか、この人」


「私がここまでしているのは全て妹の為だ。妹の為なら私は死すら厭わない。その愛が、プロキオンと宵花シロの間にはなかった。でもね。君たちの中にはそれがあると感じているよ。姉に見つけてもらうためにdisasterになろうとしたアゲハと、反社を撲滅させるために命を懸けているヒカリの間には」


 摩耶の目は真剣だった。


「そうだな、気恥しいがそれは同感だ。妹の為なら私は死んでも構わない。そして、アゲハもそう思っているんだろ?」


 ヒカリは妹に微笑みかける。


「もちろん。でも私はそっちの妹と違って姉の人形とは違うよ」


「……まぁいいさ、こんな話し合いも無意味だ。さっさと勝負を始めよう」


 摩耶は一瞬で近づき、ヒカリを狙う。しかしアゲハはそれを防ぐ。その隙にヒカリは未来へ近づく。幽霊の力により摩耶に気づかれるのが刹那遅れる。しかし未来は一歩も動くことなく、その対処を全て姉に任せる。


「アゲハっ!」


 アゲハに攻撃が当たる。摩耶の拳を防ぎきれず、右手の指が何本か逝く。それはヒカリに怒りという力を与える。


 摩耶には絶対叶わずとも未来となら戦うことができる。遠くから拳銃を発砲する。全ての弾丸が弾かれる。ヒカリに飛びかかった摩耶をアゲハは後ろから掴む。


「今のうちに!」


 再度未来への攻撃を試みる。


「妹ばかりを狙うのは、私の心を揺るがすためか? あぁその考えは正しい。正直ね、私は今イラついているよ」


 アゲハの髪を掴み、放り投げる。その隙にヒカリは未来の元まで行くことができた。そのまま未来の後ろに回り、喉に手を回す。銃口は頭に向ける。実の妹を人質にし摩耶の方を見る。


「動くな、私は躊躇はしない。一歩でも動けばすぐに引き金を引く」


 ヒカリの言葉に摩耶は動きを止めた。


「虹色ヒカリっ、その引き金を引いたらどうなるか、分かってるかい?」


 摩耶の表情は初めて余裕の表情をなくした。力強く握られている手は震えていた。


「もちろん、あなたは怒りで我を忘れた私達全員を殺すでしょうね。ですが、それになにか問題がありますか? 私達は全員死ぬか覚悟を持ってあなたを倒そうとしているんだから」


「なら、撃てよ。────撃てるものなら、撃ってみな」


 摩耶は笑っていた。それも今までとは違う。余裕のある笑みではなく、狂気に満ちた笑みだった。投げ飛ばされたアゲハは髪を撫でながら摩耶を狙える位置に陣取る。もはや摩耶が何をするのかは予測できない。ヒカリを守れるのはアゲハだけだ、死ぬ気で守るしかない。


「そうか、なら────」


『ダメですよ。ここで死んでは。あなた達は未来を創る者達です。命を捨てて私達を倒すのは勝利ではありません。kill's vampire、無名の結社、ハイパーノヴァがいなくなったこの世界を誰が救うのですか?反社は自我を失い結社との大戦争が始まります。そうなれば全てが壊れます』


 未来は突然、ヒカリの腕に触れながら諭すように言う。


「なんだ、妹の方が死にたくないのか。それとも、本心で言ってくれているのか?」


『どちらもです。わたくしはお姉様の願いを叶えなければなりません。ここでわたくしが死んでしまうとお姉様の夢は叶えられませんから』


 幼い声に感じた。年齢は不明だが間違いなくヒカリより年上のはずだ。大人の風貌も感じられていなかったが、ヒカリは幼女に諭されている気分になった。


「未来……さすが、私の妹だ」


 摩耶は一気に距離を詰める。すぐに反応しアゲハも走り出す。


「過ぎた怒りは戦いにおいては無用だ」


 摩耶の攻撃が当たる直接、ヒカリは未来を突き飛ばす。


 速度のある摩耶は停止することができず、未来の元へ飛び込んだ。

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