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21話 花鳥風月の悲劇(3)

 『私達の仲間になれ』、ラファエルからそんなことを言われたシアは辛かった。可笑しくて笑いそうになる顔を表に出さないことに我慢することがとても辛かった。


「……無視ですか? ま、嫌だと言うならあなたのお仲間を殺しますが」


 安い脅し文句だが、その言葉はとても重い。断れば仲間を殺す、そう言われても断ることの出来る人間は少ない。


「仲間じゃなくて、ここにいる全員の間違いでしょ。お前達の力じゃキルズを殺すことなんて出来ない」


 仕掛けているという爆弾を使えば、いくら吸血鬼の力を有しているとしても殺すことは可能だろう。


「そうですよ、それを分かっていて、悩みますか? あんまり時間をかけないでくれませんか、シアさんのその葛藤は全て無駄なんですよ」


 ラファエルはローブの後ろから細長い黒い物体を取り出す。手際よくそれを組み立てると、大きな鎌となった。まさに死神の持っている鎌が、ラファエルの両手には握られた。


「シアちゃん! 大丈夫! 私達はシアちゃんと一緒に戦いたいの! シアちゃんとは本当は戦いたくないんだよ!」


「悪いが、()()の戯言に従う気はない。我が魂は今すぐにお前を葬り去ることを渇望している。だからこそ、貴様も運命に抗う間もなく、早急に決断するがいい…」


 ルシファーとウリエルの言葉を聞くと、ウリエルの仲間になれという言葉も、本当に仲間として扱ってくれるのか怪しいと思える。


 仲間になると言っても、恐らくそういう扱いはされないだろう。しかし断れば、本気で爆弾を起爆するだろう。


 圧倒的詰み。どちらを選んでもろくな結果にはならない。しかしまぁ、それでもシアのする選択は決まっている。


「お前達は起爆出来ない、だから僕は君達の仲間にはならない」


「……私達に死ぬ覚悟がないから、起爆は出来ないと思っているんですか? ありえませんね、未だになぜそんな事考えられるのか……しかしまぁ」


 ラファエルは一呼吸置いてから、今までの声色とは全く違う声色で言った。


「舐められたものですね。こちらが一生の恨みを抑えて交渉していると言うのに、あなたはまるで応じようとしない。こんな会話が実現していること自体が本来はありえないんですよ。ですが、分かりました、シアさん、いえ、血紅夜シア。私はあなたを許さない」


 そう言った途端、死神堕天使は構えていたアサルトライフルを投げ捨てる。


 そしてシアとの間合いを一歩で詰める。大きな鎌を持ったラファエルは勢いそのままシアの胴体に向けて振る。


 それをシアは体を低めて避ける。しかし、ルシファーとウリエルの攻撃がすぐに来る。左右から縦に振られた攻撃は、そのまま床を破壊する。当たればいくらシアでも軽傷では済まない。


 攻撃を外したラファエルはすぐに次の攻撃に移る。しかしそれは予想外のやり方で、ラファエルは持っている鎌を投げた。


 クルクルと回転する鎌は、またもシアの胴体を狙う。


 この予想外の攻撃に0.2秒遅れたシアは間一髪で避けるが、腹部に浅い傷を負う。


「ナイス攻撃です! ラファちゃん! こちらもいきますよ!」


 ウリエルのその声を聞いて、すぐにシアはそちらを向く。ラファエルが投げた鎌をキャッチしたウリエルは、なにか攻撃をしようとしていたが────


 アサルトライフルの銃声音が聞こえてきたのは後ろからだった。


 戦う前に床に落としたアサルトライフルを、ラファエルは再度拾い、発砲する。


 『仕留めた』。ラファエルはそう思った。しかし、発砲音が鼓膜を振動させた瞬間に、シアはナイフを手に取り弾丸を弾く。人外の技。弾いた弾があらゆる方向へ飛んでいく。


 人質の方へと飛んで行った弾丸はキルズが処理する。


 ラファエルは驚愕する。死神堕天使のプライドを捨ててまで渾身の攻撃が、どうしようもなく、笑うしかない力によって防がれたことに。


 彼女が人外の力を有していることは前々から知っていたことだ。しかしいざその力を目の当たりにすると、結局自分は驚いている。情けない。これでは死んだ仲間達に顔向け出来ない。


 だから、ラファエルは動じない。


「次、行くよ!」


 再度ラファエルはアサルトライフルを発砲する。無意味な攻撃、誰もがそう思った瞬間、ウリエルとルシファーが同時に鎌を投げる。先程よりも早い投擲。防御に徹していたシアはよけざるを得ない。


 いくら相手の武器が殺傷能力の高いライフルでも、連続して撃てば狙いはブレる。そのため避けることは容易である。上へジャンプするように避けるシアだったが、想定外だったことが起こる。


「安直な逃げ方、それでもキルズか」


 二人が鎌を投げた場所、そこにはちょうど二人の投げたアサルトライフルが落ちていた。それを拾い空中にいるシアに向けライフルを撃つ。


 改造されたアサルトライフルの装填数は90発、それを毎秒15発で発砲する。それを二方向から撃たれるシアは、初めて表情を変えた。



 笑っていた。



 やはり、どんな攻撃も血紅夜シアにとっては笑ってしまうほどの無意味な攻撃なのかとラファエルは思った。


 しかし。


「シア、ちゃん?」


 アゲハの呟くような、疑うような声の先には、“銃に撃たれるシアの姿”があった。


 キルズなら分かる、シアならあの程度の攻撃、全て躱すことが出来ることを。だからなぜシアがあえて当たりに行ったのか、アゲハはまだ理解出来ずにいた。


 大量の弾丸はシアの体を(かす)り、血が飛び散る。壁や天井には多くの穴が開き、展示品のガラスケースは破壊される。


 銃弾が尽きるのと同時に、シアは地面に()()した。


 シアの指先から、ポツリと血が垂れる。


「……私達を、舐めないでください。血紅夜シア、これ以上戦闘を続けても無駄です。あなたに私達は殺せない、そして互角に戦い続けることも出来ない。もちろん私達はあなたを許さない。あなたに残っている選択はおとなしく死ぬことだけです。もう、死んでくれませんか?」


 ボロボロのシアに対し、汚れひとつない死神堕天使の三人は一切の油断を許さず、戦闘態勢を崩していない。周りの民間人から見ても、シアに希望は無かった。


「……終わり、かな」


 シアの口から聞こえてきたのはそんな声だった。もう何もかもどうでもよくなったような、そんな弱気な口調を聞いた死神堕天使は、


(やった、やり遂げた)


 ラファエルはその喜びにゆっくりと浸かり、ルシファーは今にでも殺しにかかりそうにシアを睨み、ウリエルは見ていて心地いい笑みを浮べる。


 諦めるような言葉に加え、戦闘態勢を解いたシアを見た死神堕天使は、復讐の達成を確信していた。


 血紅夜シアが強いと分かっているからこそ、倒せた事への喜びは大きい。そして、実は倒していないなんて、考えたく無かった。だから無視をする。


 空中で笑った訳と、こんなにもあっさりこの怪物が諦めるのかという単純な疑問を。


 しかし、その答え合わせはすぐに行われた。



 大きな窓の外から、何か輝く物体が飛んできた。それは分厚い窓ガラスの一部を破壊する。



 ────────その刹那。ルシファーの体は槍に刺され建物の壁に突き刺さっていた。


 何が起こったのか誰にも分からなかった。いや、シアだけは知っていた。あの人が、この場の全てを破壊すること。


「やぁやぁみんなお疲れさん、突然だけどそこの人、もらっていくねー」


 そこの人と言いながら指さしたのはシアだった。


 突然の乱入者は青星プロキオン。世界を変えたdisasterのその一人である。

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