表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

16話 蝶光高校での捜索(4)

8月17日 夜中。


 真っ暗な部屋の中で一人。シアはスマホを耳に当て誰かと電話をしていた。親しい人との口調ではなく、言うなれば上司と話すような態度で話をしている。


 キルズでの活動以外は一人で過ごすことが多いシアにとって、上の立場と言える知り合いはいないはずだ。キルズの誰に聞いてもシアが誰と話しているかは答えられないだろう。


 スピーカー越しから聞こえてくる相手の声は上の立場の者とは言ったものの話し方に覇気は感じられず、どちらかと言えばアゲハと同じような適当さ、もしくは余裕さを感じられる。


 だがアゲハとは明確に、その余裕さが違がっていた。自分に敵う相手などいない。声だけでその気持ちが伝わってくる。


 つまり、吸血鬼の力を持っているアゲハより、声の主は自分に自信がある強者ということだ。


『あぁ、順調に信用は得ているよ、あと少しと言ったところかな』


「そうですか、では例の件はそのままでいいんですね」


『あぁ、“蝶光高校の生徒を一人殺せ”、それが彼女からの命令だからね。でもただ殺すだけじゃもちろんだめだよ?』


 電話越しに聞こえてくる声はまるで明日修学旅行へ行く学生のように浮かれている声だった。


『それは酷く残酷に、あぁ、犯人はもう救いようのないほど悪に染まってるんだなって思わせるくらいの殺し方をしろ』


「分かってます、それに関しては問題ないです」


『おや意外な反応だ、てっきり多少ばかり億劫になるかと思っていたんだけど』


 シアは至って無表情で答える。


「まぁ、殺すに丁度いい人が見つかったので」


『へぇ、それは良かったじゃないか、まさか例の結社のことかい?』


「いいえ、ただの反社ですよ、くだらない復讐心に駆られている反社です」


『ほう、反社が、それは確かに丁度良い。なんの罪悪感もなく殺すことができるしな。ま、そういうことで明日は頼むよ、血紅夜(げっこうや)シア君』


 その言葉を最後に通話は切断された。


 シアは切られた電話をベットに投げる。


 時刻は25時、奴らを殺す決行日は今日だ。しかし先程は問題ないと言ったが、決して乗り気という訳ではない。むしろこれからシアが起こそうとしていることはキルズにとっても褒められることでは無いのだ。


 そしてこれが終わればシアは裏切ることになるだろう。


(世界を変える為に、私はキルズを裏切る)


 シアはナイフを持ち、戦闘服に着替える。そしていつもの仮面も手に取って、反社が暴れ静まることの無い夜の街へと踏み出した。





8月18日


 ────────生徒が出入りする昇降口の上には、大きな時計が壁に埋め込まれている。時計の針は八時二十分を指している。


 そして少し下の方、真っ白な校舎の壁には雨筋のような赤い線が作られていた。それはどこからどう見ても血であり、血筋を辿って行くと見えてきたのは……


「磔はりつけに……されてやがる」


 蝶光高校の女子生徒一名は、磔にされて死んでいた。


 クゼツは殺された生徒を知っていた。それはつい最近知り合った結社で、昨日もキルズの捜索を行っていた。


(キルズっ! お前達はどこまでやるつもりなんだっ……)


 ヒカリは苛立っていた。今までキルズが殺してきた人間は全て悪に手を染めていた者達だった、しかし今日ここまで非人道的な、まさしく反社のような行動をするとは思っていなかったから。


 なにか裏があるのか、それとも本当に私達を脅しているのか、本当の狙いは不明だが少なくとも私達結社のせいであの生徒が殺されたということだけは紛れもない事実である。





 もちろん今日の授業は休校のため無くなり、いつもの部室が使えない結社はヒカリの家に集まっていた。結社は重苦しい空気の中昼食を取っていた。しかし食はほとんど進んでいなかった。


「どうしてエルリが殺されたのか、私には分からないんだが」


 パープル色のツインテール、身長はクゼツと比べると10センチほど小さかった。手のひらに杭が打ち込まれ磔にされていたエルリの表情までは見えなかったが、あんな死に様を見ればどんなことを想いながら死んだかは容易に想像出来る。


 『死んでたまるか』、そう思っていたはずだ。


「キルズに探られていることがバレて殺された、と考えるのが普通ですけどどうにも納得できませんよね……わざわざあんな惨い殺し方するなんて、キルズらしくない……」


 クゼツの苛立ちと呆れが混ざった言葉に、ミミはちょこんと座ったまま答えた。


 キルズは殺しという行為にそれほどのこだわりを持っていない。むしろ必要最低限の殺ししか行っていない。しかし今日の殺しは、わざわざ学校の生徒を、しかも校舎に磔にするという悪逆非道の殺し方をした。明らかに何か狙いのある殺し方だ。


 それはこれ以上私達のことを探ると、次はお前達がこうなるぞという暗示かも知れない、またはよっぽど自分達のことを探られるのが嫌だったという可能性もある。


「そして、もう一人のメンバーとも連絡が取れてないと……」


 エルリの仲間であるミカとも、連絡が取れていなかった。


「あぁ、何度も電話してるんだが、連絡出来ない状況らしい」


「言いたくないが、既に亡くなっている可能性が高いな……」


「ま、だよな……」


 クゼツは大きなため息を吐いて床に倒れる。


「なーんか気持ち悪いなぁあいつらの狙いがマジでわからん」


「……それで、これからどうするの。多分私達のせいで殺されたと思うけど」


 一人黙々と昼食を食べていたハナは、食べ終わったパンのゴミを捨てながらヒカリに言う。遠慮の無い言い方はいつもの事なので、それに対して何かを言う人はいない。どうするか、もちろん結社の捜索についてだ。


 同じ学校の生徒が殺された中、これ以上殺されないとも限らない。もしもまた生徒が殺されれば、結社は責任を取ることができない。


「…………捜索は続けられない、また生徒が殺されればどうする。私達は結社だ、たとえ反社を捕らえるためでも民間人を犠牲にする訳にはいかない」


 断固とした口調でヒカリは言い切った。彼女がそう言ったのならば、三人はそれに従うまでだ。彼女はこの結社のリーダーで、彼女は間違ったことを言わないから。


「それとミミ、一つ頼みをしていいか」


「はい、なんですか?」


 ミミは知っている、このヒカリの顔は、なにか考えるがあると。


「殺されたエルリと行方不明のミカについて調べてくれ」


「二人について調べるんですか? いいですけど、どうしていまさら?」


 既に一人は死亡しており、もう一人の生存も絶望的だ。今二人について調べる意味が分からなかった。しかしヒカリは何か考えがあるかのように答える。


「あぁ、どうも引っかかるんだ────────実は彼女達が反社という可能性も考えられると思ってな」


「エルリとミカが反社? おいおいヒカリ、それ本気で言ってんのか?」


 最初に二人と知り合い、一番関わりが深かったクゼツはヒカリの言っていることを疑う様子で言う。


 それもそのはずだ、クゼツが彼女達を反社と疑った事は一度も無かった。それほど彼女達が反社だとは思えなかった。だが────


「仮に、彼女達が反社だったと仮定しよう。だとすれば彼女達の仲間が殺されたことも納得いくだろう」


 ヒカリは直感で、キルズは他の結社とは戦闘はしていないと考えている。もちろん根拠は何もない話だが。しかしあの二人が反社だったのなら、クゼツの感じた違和感の説明もできる。


 犯罪者である反社ならば、いくらキルズとてなんの躊躇いもなく殺すだろう。なぜならそれは害虫を殺すのと同義だから。


「仲間を殺されたってのは、結社としてじゃなくて反社として殺された……ミカの言っていた拠点ってのは反社の拠点ってことか?」


 現在行方不明であるミカは、先日拠点に侵入してきたキルズに仲間を殺されたと言っていた。


 結社の拠点にキルズが侵入し、仲間を一人だけ殺し何もせずに逃げる。全く意味の分からない行動だ。しかしこれが反社の拠点だった場合どうなるか。答えは『犯罪者を一人葬った』に変わる。


「それなら殺されたってのにはなんの違和感も無いね」


 聞きに回っていたハナは納得したように言う。


「にしても殺した理由についてはよく分からんが、なんにせよこれに関してはミミが調べてくれば分かるだろ」


「そうだな、これ以上の話し合いは無意味だ、私達は次やることを考えよう」


 時刻は13時。外は快晴。しかし外は相変わらず治安が悪く、今も多くの反社が街で暴れている。


「ミカを探すってことは、できないか?」


 クゼツは一途の望みに賭けるように言う。


「どうだミミ、探すことは出来るか?」


「そうですね、できるとは思います、ですけど……それはある意味キルズを探ることにも繋がるんじゃないんですか?」


 昨日のミカの動向を見れば、絶対にキルズのメンバーに連れ去られる、または殺される場面があるだろう。それは言わずもがなキルズを探ることと何ら変わりない


「あーそうか、もしもキルズにバレればまた生徒が殺される、ダメだな、ミカを探すのはやめておいた方がいいか」


「とにかく私達は次キルズが動くまで、ひたすら息を潜めておくしかない」


 既にヒカリの素顔はキルズに知られていることを、結社は知ることも出来ず、結社は今回の学校での捜索の撤退を余儀なくされた。しかし結社もなんの情報を得られなかった訳では無い。


 キルズの捜索は現時点で、全校1500人から、容疑者候補は7人まで絞った。この中にはアゲハとシロが含まれていた。だが結社もこの中にキルズがいる可能性は20%程度だと考えているため、アゲハとシロが特段怪しまられる可能性は少ない。


「そうだな、とりあえず、私は帰るよ、色々考えたいこともあるし」


「分かった、他の二人もしばらくは待機ということで頼む」


「分かりました」


「了解」


 キルズの狙いが分からない今は、これ以上下手に動くことは避けるべきだろう。それは自分達がバレるかも知れないからではなく、これ以上周りに犠牲者を出させないためだ。


 幽霊の力を持つ結社が隠れることに専念すれば、もはや彼女達を見つけることは絶対不可能である。


 かくして今回の、蝶光高校での捜索は結社の撤退ということで幕を下ろそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ