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15話 蝶光高校での捜索(3)

8月14日 捜索一日目


 kill's vampireが秘密結社を警戒し始めて四日後。未だに自分達を探っている者は見つけてられていない。


 それもそのはずだ、そもそも結社は捜索を開始していないからだ。結社がキルズの捜索を始めたのは今日からだ。


 しかし四日何もなかったからこそ、キルズにはこの学校には結社がいないという先入観が生まれていた。いや、最初からそんなことは考えて

いないが、少なくとも結社が蝶光高校にいるということは予想していないだろう。


 結社は早速聞き込みから始めた。生徒手帳から考えたこと、一つ目は『2年生、もしくは3年生の生徒のモノ』二つ目は『所有方法が雑な1年生のモノ』だ。そして、四人組で行動していた人達。この条件に合う生徒の聞き込みをする。


 キルズには【幽霊の力】がある。この力の使い方を知っている結社はキルズに探っている事がバレる危惧は一切考えていなかった。


 そのため聞き込みは順調に進み、一日で多くの情報を得ることができた。しかし────


 2、3年生に怪しいと思われる生徒は14人、1年生は6人。合計20人。まだまだ絞り込む必要はある。明日からはこの容疑者達を徹底的に探っていく。


 ────────そして。容疑者の中には『アゲハ』『シロ』も含まれていた。結社は着実にキルズの元へと近づいていた。


 一方キルズもいち早く、本校の生徒が人を探していることを認知することができた。もしも気づくことが出来ていなければキルズはさらに追い詰められていただろう。


 しかし生徒の中に自分達を探している者がいると分かれば警戒することもできる、それに加えてそれが結社の可能性も高くなる。


 反社と結社の静かなる戦いは続いていく。


 ■


8月15日 捜索二日目


 今日も今日とてクゼツはキルズの捜索をしていた。しかし今日は運命の出会いというものが起こった。


 聞き込みをしているとなんと同じくキルズを追っている結社と出会った。校内に別の結社がいることは考えられなくもないが、キルズを追っている結社というのは信じられないほどの偶然だった。


「へー! お前らもキルズ追ってんのか!?」


 昼休み。人気の少ない空き教室にて。クゼツの目の前にいる二人の結社は、どちらも真面目そうな雰囲気を漂わせている。結社としてはとても優秀そうだ。


「はい、まさかこの学校に同じエネミーをターゲットにしていると結社がいるとは思いませんでしたよ」


 パープル色のツインテール、表情は明るく身長はさほど高くは無い。結社では偵察任務を担当してそうだなとクゼツは思った。


「おう、そうだな、私も驚いたよ、いつからキルズを追ってんだ?」


「先日のコスモスの事件からです。キルズ、あの反社を放置しておくのは危険だとあなたも感じているのですね?」


 一方こちらは丸メガネをかけ、黒いロングヘアを揺らしている。真面目には見えるが真面目過ぎて友人が少なそうな雰囲気がある。


「あぁ、てかそろそろ名前くらい言わないか? 同業者なら問題ないと思うが」


「確かに名前を聞いておいた方が今後も(らく)そうですね、私の名前はミカです。今後ともよろしくお願いします」


「私のネームはエルリ、よろしくね」


 紫ツインはエルリ、生真面目はミカ、クゼツも自分の名を名乗って話を続ける。


「実は私達はキルズによって一人、仲間を失っているんです」


 ミカはそれはそれは悲しそうな表情で言った。その告白にはクゼツも驚いた。驚いた理由は二つある。


 一つ目は単純にそんな偶然があるのかと思ったからだ。


 二つ目は同じような理由だが、キルズは確かに人殺しを行っている。しかし無差別に殺しているのではなく、邪魔、もしくは計画上仕方がない殺ししか行っていない。だからこそキルズが他の結社と戦っていることを、無名の結社は全く知らなかった。


 さらにその戦った結社が今目の前にいる結社ということが、どうしても信じられなかった。さすがに出来すぎている、それとも運命の悪戯なのだろうか。


「ルマは、たった一発殴られただけで死んだ。一体彼女がなにをしたのか! 勝手に私達の拠点に入ってきたくせに、キルズはルマを意味もなく殺したんです!」


 ミカは感情を露わにして、何かを訴えるように話した。ルマというのは殺された仲間の名だろう。


「……そうか、キルズがそんなことを……」


 クゼツは俯きながら思う。


(キルズ、他の反社とは違うと思っていたけど、無関係の人間すら殺っているのか?)


 クゼツはほんの些細な違和感を覚えた。あの、キルズが、わざわざ結社の拠点に攻め込むとは思えなかったからだ。


「……ではクゼツさん、何かしらの情報が掴めたらその都度シェアしていきましょう、それではまた」


「あぁ、お互い頑張ろう」


「では、失礼します」


 そう言い残しミカとエルリは教室を出ていった。


 一人残ったクゼツは深く息を吐く。


(とりあえず今日のことは結社にも伝えておくか)


 しばらく話してみてもやはり彼女達のキルズへの復讐心は真なるものだった。本気でキルズを捕らえようとしていることはひしひしと伝わってきた。


 彼女達と上手く連携していけば更にキルズを追い詰めることができるだろう。普段は他の結社と協力しない無名の結社だが、今回ばかりはそうはいかないだろう。


「さーてと、また聞き込みすっかー」


 クゼツは教室から出ていった。


 刻一刻と変化する戦況の中、結社とキルズの戦いは続く。


 ■


8月16日 捜索三日目


 その日。長く続くキルズと結社の探り合いに大きな“事”が発生した。


 蝶光高校では二年生から選択科目があり、芸術科目では書道か音楽を選択する。それは三クラスが混ざって授業を行う。


 三年生であるヒカリは書道を選択している。書道室で行っている授業はその日、席替えをした。ヒカリの席は一番後ろの席になった。どこの席になったとしても何も変わらないが。


 そんなヒカリの隣の席に来たのはいかにも優等生な他クラスの女子。そして、自分が追っている人物だった。


「こんにちは〜、私は夢ノ世、あなたの名前は?」


 いくら幽霊の力を持っていて影が薄いヒカリでも、さすがにこの場面では声をかけられる。


「私は虹色、よろしく」


 わざわざ隣の席になったくらいで挨拶をしてくるとは、こんな世の中でも関係を築こうとしてくる人もいるのかとヒカリは思った。しかしまぁ常識人で良かったとは思った。この人が反社で何人も人殺しをしているようには全く見えないからだ。


「ニジイロ……変わった、良い名前だね」


「言い直さなくてもいいよ、私もそう思っているから、それにそっちも結構すごい名前だと思うよ」


「まぁそうだよね、私もそう思ってるよ」


 ミナは愛想笑いをうかべる。


 その後も何気ない会話が続いた。


 数十分後。授業が終わるまで残り五分といったところで、ヒカリはある質問をした。


「そういえば夢ノ世さんのクラスに()()()()()()()()()()()()とかいない?」


(はい?)


 ミナは危うく動揺を口に出しかけた。


(昨日シアさんから聞いた私達を探している人って、この人? ……間違いない。よく見たら見覚えのある顔だし)


 ミナは知ることができた。虹色と名乗った彼女が、結社の一人であることを。


 ヒカリは気づかれてしまった。キルズの一人に、自分の存在を。


「四人で行動してる人? うーん、どうだろうね、ごめんそういう人達は知らないかな」


「そっか、ごめんね変な質問して」


 ミナはそこはかとなく誤魔化した。


 そこから授業が終わる五分は永遠のように長く感じられた。ついさっきまで何気ない会話をしていたこの人が、実は自分達と長い期間戦っている敵の一人であることを知ってから。ミナは謎の緊張感をずっと感じていた。


 実は私がキルズとバレているのではないか、私の動揺が気づかれているのではないかと、不安で仕方がなかった。


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った時、ミナはこれ以上にないほどの安堵した。


 クラスへ戻る廊下で、とりあえずの危機が去ったことに安心するのと同時に、自分が得た情報の大きさに気持ちが昂っていた。


(結社がこの学校の生徒ってことにも驚いたけど、まさか直接会うことができるなんて……結社さん、申し訳ないですけどこの勝負、私達の勝ちです)


 苗字、顔、クラス、学年。これ程の情報を得ることができたのなら、もはやコソコソ動く必要は無くなった。彼女の情報をダシにすれば、いくらでも自分を有利にする策は浮かんでくる。


 (キルズ)を探していたのは結社の方だったのに、先に情報を得たのはキルズの方とは、全く不憫なことこの上ない。


 戦況は大きく変わっていき、日は落ちる。



8月17日 捜索四日目


 昨日得た結社の情報を伝えられたキルズはその情報をどう活かすか話し合った。キルズとしては結社を敵とは認識しているが、だからと言って殺したいとは考えていない。むしろ自分達を世間に広めてくれる道具だとすら思っている。


 しかし。正体を知られるとなると話は変わる。


 アゲハがキルズとして生きている理由は生き別れた姉に見つけてもらうためだ。反社として有名になればきっと姉が捕まえに来てくれると信じて、しかし。それと同時にこの世界を変えたいとも思っている。それはつまりdisasterになることを夢に見ているということだ。


 disaster、それは多くの人間から崇められ、憎まれる存在だ。


 そんな存在で顔や名前などが知られてて平穏に生きていくなど不可能だ。反社の多い現代でも、反社を憎み殺気に満ち溢れている一般人も少なくない。


 disasterはあの大事件の後、すぐに行方不明となったが、死亡したのか生き延びているのか分からない。


 とにかく自分達の情報はどんな小さな事だとしても知られてはいけないのだ。


 だからこそ、アゲハの生徒手帳を入手してしまった結社は、残念ながらただでは済まない。


「結社がこれ以上私たちを嗅ぎまわらないために……違うね、もう関わりたくないと思わせるにはどうすればいいか、なにか案のある方はいないかね?」


 いつもの部屋で、アゲハはリーダーとして話し合いを仕切っていた。


 どうすれば結社がこれ以上関わってこないか、これが今日の議題である。今日と言っても今までまともな話し合いをしていたのは見たことがなかったが。


「まぁ効果がありそうなのは『ニジイロさんとやらの情報を使って脅す』ですよねー」


 シロは誰もが考える案を言う。


「ふむ、まぁ一番妥当ってやつかな、他に何かある? ないならこれでいくけど」


「どうでしょう、それだけだと結社が引くとは少し考えにくいですね。結社は命を懸けて私たちを追っていますから、情報の拡散程度だと微々たる攻撃にしかならなそうと私は思います」


 ミナは落ち着いた口調で話す。


「ふーむ、確かにそうだねー、情報が何の役にも立たない訳じゃないけど拡散って使い方じゃダメそうだね。はい、他に案のある人ー」


「…………一番手っ取り早いのは()()事なんだけどね」


 シアの何気ない一言で、一瞬部屋に静寂が訪れる。


「そりゃそうだ! 殺しなんて一番楽だしぜーんぶ解決できる最高の案だよ、でもそれは出来ないよね?」


 隣に座るアゲハに上目遣いで言われたシアは口をつむぐ。


「そうですね、結社には敵であろうとシアさんのお姉さんがいますからね……殺すにはそれなりの覚悟が必要でしょう」


 確かにシアはキルズ最強の殺し屋だが、実の姉を殺すとなると話は違うだろう。


「でもお姉さんはシア先輩のこと殺そうとしてるんですよね? なら別にいいんじゃないんですか?」


 これまた部屋が静まり返る発言をシロはする。


「あー待った待った! 結社を殺すってのは無しにしよう! 今まで争ってた敵を殺すなんて逃げるのと同じようなもんだよ」


「そうですね、私も殺しは反対です」


「だったら、他の人間を殺せばいい」


 シアはナイフを回しながら言う。


「他の人? シアちゃんそれはどゆこと?」


「いやそのままの意味だよ。結社とは無関係の人間を殺す。結社にとってなんの関係もない人間が巻き込まれるのは一番避けるべき事態でしょ、だからそれを利用すれば結社が手を引く可能性はあると思う」


 シアは淡々とひとつの案として話した。しかしその内容はまさに反社のそれで、非人道的で許されない行為である。だがシアはキルズ最強の殺し屋、そう、殺し屋なのだ。今更人間として最低限の常識なんて守ってられない。それに、disasterになるならそれぐらいのことはしなければならない。


「……正直それぐらいはやらないとアイツらが引くとは考えられないからねー、シアちゃんの案に賛成の人ー?」


 アゲハの言葉を聞いてすぐには手は上がらなかったが、少し考えるような間を経てからシロとミナも手を上げた。


「と、言うことで、シアちゃんの案で決定でーす!」


 アゲハの言葉に反応したのはパチパチと拍手するシロだけだった。シアの作戦は決していいものでは無い。なぜなら無関係の生徒を殺すのだから、当事者を殺すよりもタチが悪い。


 ────しかし殺すのがただの一般人でないのなら話は別だが。


「ま、殺しに関しては僕に任せて、結社が手を引くよう上手く殺る」


 自信が感じられるシアの言葉に、他の三人も任せると頷く。


「シア先輩に任せておけば間違いないですねー」


「そうそう、殺しのプロであるシア先輩に任せとけばいいんだよ」


「二人ともシアさんのことを虐殺ロボットだとでも思ってます……?」


 その会話の横で、シアは何かを深く考えるように俯く。


 それはまるで人殺しを躊躇するような凡人の顔で、殺しを得意とする人間が見せる顔では無かった。その表情が何を意味するのか、誰にも理解出来なかった。


 かくして『kill's vampire』と『無名の結社』戦いは終わりへと向かう。

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