14話 蝶光高校での捜索(2)
コスモス展覧会から翌日の朝のことだ。アゲハは自分の犯した過ちに気がついていた。なぜ戦闘服などに入れていたのだろうと後悔した。そして些細なことなら基本的に黙っておくアゲハも、この件についてはすぐに仲間に報告すべきだと思った。
スマホを手に取り三人に連絡した。帰ってきた返事は珍しく全員一致していた。
『何やってんだよバカ!』
────キルズはここで大きな誤算をしてしまう。
『とりあえず放課後、シロの家に集合しましょう』
ミナからのメッセージを見た三人はそれに同意した。
まさか結社と同じ高校に通っているとは露知らず、四人はいつもと変わらず一日を学校で過ごした。
学校で四人が一緒に過ごすことは少ない。クラスが同じな故アゲハとシロは一緒に過ごすことが多いが、学年の違うミナとシアは一人で行動することが多い。普段からキルズの拠点はシロの家になっているため、そもそも学校で関わる必要は無いからだ。
■
シロの家にて。
「……アゲハちゃん、早速ですけど、生徒手帳を無くしたというのは本当なんですよね?」
シロの部屋にはキルズの四人が集まっていた。テーブルにはジュースだけ置かれているが、誰も口をつけていなかった。シロの部屋は白を基調とする家具が多く、それだけでもお金持ちの雰囲気を醸し出している。
「うん、一昨日コスモスに行く前まではあったはずなんだけどね」
アゲハは自分自身に呆れている様子だった。しかし、そんな姿を見せても許される訳が無かった。
「……なんで生徒手帳なんて持ってたの」
シアは問い詰めるように冷たい口調で言う。
「いやー、偶然入っていた的なねー?」
「意味が分からない」
そういうと大きく溜息を吐いた。シアも呆れていた。部屋の空気はまさに修羅場。シアは今にも殺しに来そうなオーラを出し、アゲハはやれやれと言わんばかりの顔をして、ミナは困ったように両者を見る。
そして、シロはいつもと変わらず、こんな状況になっても全く危機感を感じていなかった。
「まあまあ、そんなに気ー張っても健康に悪いですよ? そもそも結社に拾われたかなんて分かんないじゃないですか? それにもし怪しいヤツが近づいてくれば“殺っちゃえばいい”んですよ」
シロはそう言うと一口ジュースを飲む。
シロの言葉を聞いて、シアは一瞬フリーズする。
こんなに楽観的に考えていること、いつも通りのこと、事の重大さを分かっていないこと、シロの言っていることもあながち間違いでは無いのかもしれないと思ったこと、シロの言葉に様々な感想が浮かんだ。
「変わりませんね、シロちゃんは」
ミナは優しい目付きでシロを見る。
「変わらなすぎでしょ、その心の余裕はどこから生まれてるの?」
最近は自分の姉が結社にいるということも分かり、ただでさえキルズはピリついるのに、彼女は変わらなかった。
─────シアは考える。シロの言っていることも、あながち間違えではないのかもしれないと。
確かに敵に自分達の情報が漏れたのは無視できない話だが、ポジティブに考えればこれは敵に情 報という餌を与え釣るという作戦だと考えることもできる。
起こしてしまった過ちは変えられない。そのミスにどう対応するかが、強者と弱者の違いである。
「……それで? どうするんですかアゲハ先輩。先輩がやらかした張本人ですけど、キルズのリーダーもあなたですよ」
シロにそう言われたアゲハは一層真剣に考える。
「……そうだね、今回のミスは全部私の責任。それは本当に申し訳なく思ってるよ。それと謝って済む話じゃないのも分かってる。さっきシロちゃんが言った通り、もしも周りで私達の事を嗅ぎ回っている人がいたら私に教えて、責任はとるから」
こんな表情もするんだなと、三人は思った。どうやらそれ相応の覚悟は出来ているらしい。
「……だそうですよシア先輩」
シロはそう言いながらシアを見る。
「……だそうですよって、別に僕はアゲハに責任を取れとは言ってない……」
「確かにそうですね、でもどうせそういうこと言おうと思っていたでしょ?」
「シロちゃんにしては珍しいですね、なんだか別人みたいですよ」
ミナは成長した子供を見るような目でシロのことを見る。
「はぁ、なんか調子狂うなぁ、もういいよ、探っている奴らがいたらそいつが結社、それでいこう」
シアは頭を掻きながらやれやれと言わんばかりに困り顔を見せる。
シアの同意も得られたことでキルズのこれからの方針は決まった。今回のミスを逆手に取って、結社を逆に追い詰める。
「そうと決まれば気合い入れて頑張りましょう!」
ミナは元気よく言う。
「アゲハちゃんももう気にしなくていいですよ、変な気遣いは本調子を出せない原因になりますからね」
「……うん……分かった、分かったよ! 結社を捕まえるためにも私はいつも通りの私に戻るよ!」
アゲハは一気にジュースを飲み干す。
こうしてキルズは今回の過ちを結社を捕えるチャンスへと活かすことにした。
結社にとってキルズの生徒手帳は敵を追い詰める大きな証拠だ。この証拠を持って結社はキルズの捜索を開始した。しかしまさかキルズもそれを利用して結社を見つけようとしているとは考えてもいないだろう。
結社とキルズの探し合いはこれから始まる。




