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12話 コスモス展覧会(4)

 【コスモス】から逃げ始めてから約15分、未だにキルズは逃げ続けていた。


 いよいよ反社の姿も無くなり、傍から見れば爆速で走る女子四人となっている。


「結社、全然来る気配ありませんね」


 シロはやれやれと言わんばかりの顔でそう言う。その前を走るミナも、さすがに来るのが遅すぎると思い始めている。


(いくらなんでも遅すぎる。慎重になるのも分かるがこれ以上時間をかけるればこちらのしようとしている事も分かるだろう。ならば結社はそれを警戒して姿を現すことはない?)


 もしも結社が今もキルズを追っているのなら思うはずだ。『なぜいつまでも道を走っているのだろう』かと。どこかの建物に入るわけでも、隠れようとする訳でもなく、ただ走る。その行動は何かを企んでいるとしか思えない。結社はそれを警戒して接近する可能性は少ない。


(だったらこれ以上逃げるのは無駄……)


 これ以上走るのは無駄だと判断したミナは、


「そうですね、もう走るのは無駄そうなので一旦別れましょうか、それからさっき説明した通りの作戦で、お願いしますね」


「よーし! どうやら結社はビビって逃げたようなので! 私達も逃げよー! それじゃまた後でー!」


 アゲハはそう言うと早速別の道を行く。


「じゃあー私も逃げますね」


 シロも軽い挨拶をしてからまるで翼が生えているかのように逃げていく。それを見るに今までの走りは全力の三割程度だったのだろう。


「…………ミナの考えはあながち間違っていなかったと思う、なぜ結社が来ないのかは分からないけど」


 結社の動向が気になっているシア。


「そうですね、何か緊急事態が起きたか、それとも単純に逃してしまったか、そもそも最初から追ってなんかいなかったか……」


「ま、考えても無駄だろうから、僕も逃げるよ」


 そう言い残し、仮面を被った少女はまた一人姿を消す。そして三人とは別の方向へ、ミナも駆け出す。



『作戦終了。全員お疲れ、反省会は後日行う。特にミミ、今日は助かった、ありがとう』


 アゲハから労いの言葉を貰う。ミミの付けているインカムから聞こえてくる声は落ち着いていて、今回の戦いの結果に不満は無さそうだった。もちろん、ミミもクゼツもハナも不満は無いだろう。


「いえ、自分の仕事をこなしたまでです。今日はお疲れ様でした」


『やっぱりミミはこういう時は凄く頼りになるね』


 ハナは相変わらずミミをからかう。


「こういう時って……私、普段から頼りになりません?」


『いいや、ならんな』


 そのツッコミを入れたのはクゼツだった。


「クゼツ先輩!?」


 いつもはミミとハナとの会話に絡んでこないクゼツがいきなり言ったためミミは驚く。


『おぉそんな驚くなよ、ただの冗談だって』


 クゼツは笑って答える。


 今回は私達の価値と言ってもいいだろう、それでクゼツも浮かれているのかとミミは思う。そして、この人たちは変わらないなとも思った。


「んじゃ私一応もう少しキルズ追ってみるので、失礼します」


 今も監視カメラでキルズを追っている。しかし団体行動から、個人行動に変えたため全員を追うことは難しくなった。そんな中ミミは今回一番活躍していたキルズを追う。


(彼女、絶対に私達を誘っていた、あんな馬鹿な逃げ方するなんて余程離れ離れになりたくないかわざと以外考えられない。そもそもキルズは一時不安定な状態になったはずだ、私ですら、()()()()()()()()()()()()()と聞いた時、驚いたというのに) 


 絶対にキルズも驚いたはず。すぐに行動して逃げるなんてできる状態では無かったはずなのだ。しかし、キルズは彼女を先頭に逃げ出した。


(やるなー彼女。ただ目立ちたいだけの反社……彼女はなんの為に反社をしているだろう、この世を壊したいって目的では無いのは確かだけど)


 そう思いながら、では自分は? と、自問自答する。


 しかしその答えは三年前の大事件を見た時と変わっていなかった。


『あの事件を起こした反社が、多くの反社から伝説と語られる。それが”おかしい“から』ミミは結社をしている。


 ヒカリ先輩やクゼツ先輩のように、誰かを失った訳でも、ハナ先輩のような身内の為にその身を懸けている訳でも無い。それに比べてしまえばおかしいというただの疑問だけで、結社をしている私は大した事ないのかもしれない。


 それでも私は、この疑問を解消させるために、間違っている世界を変えるために、結社をする。


 追っていたキルズの一人はいつの間にか姿を消していた



 作戦通り、適当な建物に入り、監視カメラのない場所に行き、窓から脱出する。さらに仮面も取り服も変えた。


 時刻は昼過ぎ、まだまだ日は高く気温も高い。【吸血鬼の力】を得てしても暑さには耐えられない。ここから家に帰るとしても帰るのなら公共交通機関を使わなければならないほどだ、ならば一度とこかで休もうと、ミナは適当な喫茶店に入る。


 店内に入ると店員と客はテレビに釘付けだった。その中継映像はもちろん先程まで自分がいたコスモスを映している。アナウンサー曰く犯人は逃走、現在は行方不明。しかし宝石は盗むことが出来なかった模様。そして、これに乗じて各地で反社が暴走しているらしい。


 ミナはそのニュースをちらりと見るとすぐに角の席に座った。なんの飾り気もないこの喫茶店は考え事をするには丁度いい。


 ブロンドの長い髪の毛を触り、窓の外を見ながら考える。


 今回の結社は今までとは一味違った。今まではとにかくキルズを捕らえようという気持ちでいたが、今回は捕まえなくてもいいからじっくり追い詰めていこうと、そんな感じがした。


 そして、何よりも気にしなければいけないのはシアの事だ。


(シアさんのお姉さんが結社に)


 何度考えても信じられなかった。最初に聞いた瞬間は嘘だと思った。しかしシアの顔を見て、それが本当だと言うことはすぐに分かった。


 『妹を殺すために』シアの姉はそう言った。それはミナが反社をする理由と全く逆の理由である。


(世の中には会いたいけど会えない姉妹もいるのに、妹を殺そうとするなんて、悲しいな)


 ミナが反社になった理由、それは妹を眠らせた反社に仇を打つ為だった。





 大事件の日にグランドオアシスの近くを訪れていたミナとミナの妹は、その事件に巻き込まれた。


 二人がいた場所はグランドオアシスから300メートル程離れていた。しかし、510メートルの高さを誇るタワーが崩れると、瓦礫はそこまで飛んできた。


 歩行者天国の道路に立っていた二人は、崩れていくタワーを見るが、足は一歩たりとも動かなかった。それは夢でも見ているかのように有り得ない映像で、現実を受け入れることができなかった。


 建物が崩れる轟音と、多くの人々の悲鳴を聞き、ミナははっと我に返る。逃げようと妹の方を見ると、


「あ、あっ! あぁぁ!」


 野球ボール程のコンクリートの破片が、妹の頭に直撃していた。


 倒れている妹へかがみ込む。頭から血を流し意識を失っている。その怪我は無事に済むか判断できないほどの怪我だった。


 ミナは叫ぶ。また一つ、悲痛の叫びが加わった。その場は阿鼻叫喚の地獄絵図。中にはもっと大きな瓦礫が当たり、体の一部、また体の大部分を潰された人もいる。


「誰かぁぁ! 誰か助けてぇぇ!」


 ミナは必死に助けを求める。しかしそれは虚しく響くだけで、助けに来てくれる人などいなかった。


 そんな中、道路の真ん中にいるミナと妹の横を四人の少女が過ぎ去った。この場で浮く白く神々しい服装、こんな状況なのに崩れたタワーには見向きもせずに現場から離れていく、明らかに常人ではなかった。


 確実にミナの目線に入ったはずだ。しかしその四人に対してミナはなんの違和感も抱くことは無かった。


 今のミナに周りを気にしている余裕なんてなかった。今はただ深い絶望の中にいた。


(どうしてこんなことに……誰がこんな悪魔的なことを……)


 ────────この大事件から、ミナは反社を撲滅させると決意した。しかしミナは自分に反社と戦う力が無いことを理解している。だからこそミナは反社を内部から撲滅させるために反社になった。


 反社を撲滅させるには二つの方法がある。一つは“結社”になって正々堂々戦って撲滅させる。もう一つは”反社“になり【disaster】になることでこの混沌の世を終わらせる方法だ。


 多くの反社がdisasterになった後に望むのは自分が()となった世界だが、そんな欲望を持っていないアゲハと出会ったのは偶然だった。disasterになる目的は違えど、自分の野望のために反社をしないことについては同意見だった二人はそこから共に戦うようになった。


 ミナ達はまだ知らなかった。実感の湧かないdisasterへの道のりを、自分達は確実に進んでいることに。





 彼女達はまるで何事も起こっていないかのように道を歩く。道路にいる多くの人々がこの状況に絶望していた。自分達の行いで、街は一瞬にして崩壊した。否、この世の常識、秩序、法律、日常の何もかもを変えた。


 今彼女達は何を思っているのだろうか。


「いやーまさかこんなことになるなんて、アタシもびっくりだ」


 高校生程の歳に見える少女は頭を掻きながらとぼけるようにそう口にした。【ハイパーノヴァ】これが彼女達の名前だった。極超新星、その名に恥じず程のことを彼女達は起こした。


「“未来”は怪我してないか?」


 少女は隣を歩く仲間に話しかける。


「はい、お姉様、(わたしく)は大丈夫です」


 未来と呼ばれた少女は神のような神聖な雰囲気で答える。雰囲気だけでは無い、声も、顔も、外見も、存在自体が神々しい。神が現実世界に存在するのならこういう見た目をしているのだろう。自分から話しかけにいくことすら愚かな行為だと考えてしまう。


「…………これが、お姉様のお望みだったことなのですね?」


 汚れひとつない服を着てカミは瞼を閉じたまま答える。


「あぁ、これでこのクソッタレの世界とおさらばできるよ」


「……お姉様のお役に立てて嬉しいです。お姉様が以前の世界を嫌うのなら、私も嫌います。今の世界を好むのなら、私はこの世界を愛します」


 妹は姉を(した)っていた。それは並大抵の気持ちでは無い。姉の意見は自分の意見。妹には自我が無かった。


「ありがとう。世界を変えるという目的を成し遂げた今、オレ達が表舞台へ出る必要は無くなった。さ、後は各々この世界を楽しめ、ま、何かあったら呼ぶかもしれないけどな」


「キャ! マジかよ!」


 ハイパーノヴァの一人、天狼(てんろう)と呼ばれている少女は心底嫌そうな顔を見せる。呼ばれることがめんどくさいのか、それとも……


「なんだ天狼、そんなに嫌か?」


「当たり前だろ! 私の性格を忘れたか! 私の好きなことは『好き放題された挙句そいつを殺す!』その快感がスキなんだぞ!」


 天狼は頬を赤く染めながら狂気的な笑みを浮かべる。それはまるで薬物中毒のようだった。そして嫌がった理由はめんどくさいなんて理由ではなく、人を殺せなくなるのが嫌だった。


「はぁ、安心しろ、これからの世界なら好きなだけできる。反社は今より大勢増えるからな」


「キャ! そうかそうなのか! だったらなんの不満もないぞ!」


 その答えを聞いてゼウスは笑みを浮かべる。


 そしてハイパーノヴァ、略してノヴァ四人目のメンバーであるプロキオンと呼ばれている少女は、先頭を歩きながら神妙な面持ちをしていた。


 このような事件を起こした後だ、多少の後悔という感情もあるのかもしれない。しかし、彼女が何を考えているのかは全く読むことはできなかった。


 この事件を最初で最後に、ハイパーノヴァは姿を消した。

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