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第097話 野営


 俺達が馬車に揺られながら進んでいくと、昼を跨ぎ、ついには辺りが茜色に染まり始めた。

 すると、馬車が止まる。

 以前もそうだったが、夕方になると、勝手に馬が足を止めるのだ。


「今日はここまでね。野営をしましょう」


 アニーがそう言うと、皆が馬車から降りていったので俺とAIちゃんも降りた。

 そして、4人がテキパキと野営の準備をしているところをただ見ている。


「手伝った方がいいと思わんか?」

「思いますが、皆さん、何もするなって思っていると思いますよ」


 まあ、そんな気はする。


「ナタリア、手伝おうか?」


 テントを設営しているナタリアに声をかける。


「大丈夫だよー。ちょっと待っててね」


 ナタリアはニコッと笑いながら丁寧に断った。


「そうか……リリー」

「ユウマは座って待ってなよー」


 もう一つのテントを設営しているリリーに声をかけると、まだ何も言ってないのに断られる。


「お前はこっち側の人間だと思っていたのに」

「どういう意味!? 言っておくけど、この中で一番旅慣れしているのは私!」


 そういやそうだな。


「マスター、大人しく待っていましょう。それと狛ちゃんを出してください。夜になると、カラスちゃんはダメですし、見張りがいります」


 AIちゃんが空を飛んでいるカラスちゃんを見上げながら言う。


「カラスちゃんは鳥目だもんなー」


 俺はAIちゃんに言われた通り、護符を取り出すと、地面に投げる。

 すると、護符が狛ちゃんに変わった。


「狛ちゃん、見張りを頼んだぞ」


 そう言うと、狛ちゃんが頷き、おすわりをする。

 それを見た俺達は焚火を作っているアリスのそばに行き、腰を下ろした。


「俺もやる気はあるんだがなー……」

「…………私達がやるよ。ユウマは初めてだし、見ているだけでいい」

「というか、何もしないでほしいわ」


 アリスがフォローしてくれたが、夕食の準備をしているアニーがきっぱり言う。


「なんでだよ?」

「どう考えてもあんた、身の回りのことをしたことがない貴族様じゃん」

「やる気はある」

「普段、誰があんたの服の洗濯をしていると思ってんのよ」


 洗濯……洗濯?


「え? 誰?」

「私ら」


 んー?

 いつもAIちゃんが片付けてくれるから気にしたこともなかったわ。


「マスター、マスターがそのような些事を気にする必要はありません」


 うーん、考えたこともなかったなー……


「そう言われてもな……やはり俺もやるか」


 料理は断られたが、洗濯や掃除くらいはできるだろう。


「マ、マスターはいいですよ、こういうのは女の仕事です」

「1人暮らしをしているわけだし、そういうわけにもいかんだろ」

「やめましょうよー。99年間、実家暮らしで何もしてこなかった人ができるわけないと思います」


 何もしてないってひどいな。

 まあ、当主だし、何もしてないんだろうが。


「別にしなくていいわよ。洗濯も掃除もまとめてやるし」


 アニーがスープの味見をしながらきっぱりと告げてきた。


「やってみたいのに……」

「やってみたいでぐちゃぐちゃにされたらたまんないわ」


 ちぇー……


「ハァ……暇だ。そして、働いているのをただ見ているだけは罪悪感がある」

「めんどくさいわねー。どんと構えてなさいよ。あんた、リーダーでしょ。ほら、準備ができたから食べるわよ」


 アニーがそう言って、皿に乗せたパンとスープと肉を渡してくれる。

 すると、他の3人も準備を終えたようなので皆で夕食を食べることにした。


「夕食を食べ終えたらどうするんだ?」

「寝る。やることないし、明日は夜明けとともに出発よ」


 マジか……


「寝れるかなー……」

「マスター、お酒を持ってきていますからそれで寝ましょう」


 まあ、そうするか。


「普通は交代で見張りをやらないといけないからお酒はダメなんだけどね。まあ、狛ちゃんがいるか……」


 アニーがご飯をがっついている狛ちゃんを見る。


「狛ちゃんは寝なくていいの? というか、ほぼ交流スペースで寝ている印象だけど」


 リリーが聞いてくる。


「式神は寝なくても問題ない。まあ、狛ちゃんもパメラのところの子猫もやることがないから寝ているだけだ」


 待機しているだけで問題があればすぐに起きる。


「…………見張りをしなくてもいいというのは本当にありがたい。私、苦手」


 アリスはそうかもな……

 いつも眠そうな半目だし。


「AIちゃんもだけど、狛ちゃんもユウマの式神なんでしょ? すっごく助かっているから余計……やらなくていいことはしなくていいからね」


 ナタリアが言葉を選んで慰めてくれる。

 だが、やっぱり余計なことをするなって思っているのは確定した。


「そうか……ちなみに、あれの中で寝るのか?」


 2つ並んで設置されているテントを見る。

 大きさ的にそこまで中が広いようには見えない。


「あんたとAIちゃん、あとは私達ね」


 アニーがスープを飲みながら答えた。


「まあ、そうだろうけど……お前ら、狭くないか?」


 俺は小さいAIちゃんと2人だが、いくら女子でも4人は狭いような気がする。


「寝るだけだし、そんなもんよ。欲しいならナタリアをあげる」


 あげるな。


「お前らが狭くないならいいんだけどな」

「1日、2日の辛抱よ。旅人が休める小屋みたいなのもあちこちにあったりするんだけど、逆に危険なの」


 盗賊なんかに狙ってくれって言っているようなもんだしなー。

 ましてや、このメンツは狙われやすい。

 俺以外は女子供だし。


「大変だな」

「王都はまだ近い方だし、マシよ。それに旅をする冒険者なんてもっと大変だしね」


 この世界を回ってみたいと思っていたが、色々と考えないとなー。


 俺達はその後、夕食を食べ終えると、テントに行き、身体を休める。

 何もしていないし、そんなに疲れてはいないと思っていたのだが、ずっと馬車に乗っていたせいで思っていたよりも疲れていたらしく、すぐに寝ることができた。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「以前もそうだったが、夕方になると、勝手に馬が足を止めるのだ」 この馬車って、トイレに行きたくなったら、停めれるのだろうな。
[一言] 日が暮れ始めてから野営の準備ってどう考えても遅いだろ。
[一言] 小屋に泊まって家サイズまで縮めた大蜘蛛ちゃんを置いておけば安心安全でしょう。きっと誰も近寄らない。 後からギルドや国からクレームが入る?知りません、きっと野生の蜘蛛では?で行こう。
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