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第045話 失敗 ★


「クソッ! クソッ! クソッ! あの男は一体何なのだ!?」


 俺は森の奥で木に手をつき、項垂れていた。


 楽な仕事だと思ったらとんでもない目に遭った。

 もし、脱出の判断が少しでも遅れたら結界は破られ、あの金色の炎に焼き尽くされていただろう。


「スヴェン様」


 とある声が聞こえたので振り向くと、部下の女が立っていた。

 この部下は町と魔物の攻防を見張るのが役目だったはずだ。


「どうした? 町は落ちたのか?」


 途中で魔物を送り込むのと狂化の魔法を止めてしまったが、町を滅ぼすには十分の数の魔物を送っている。


「そ、それが……その……」


 部下が言い淀む。


「ん? どうした? 何があった?」

「……町は落とせませんでした」

「ハァ!?」


 どういうことだ!?

 あの数の魔物を対処できる戦力はあの町にはいないはずだ!


「何故だ!?」

「そ、それが……」

「言え!」

「は、はい! 突如として巨大な蜘蛛の魔物が出現し、魔物共を潰走させました」


 はい?


「お前は何を言っている?」

「ただ見たことを言っているだけです……すみませんが、私にもよく……」


 部下は混乱しているようだ。


「落ち着け。ゆっくりでいいから詳細に教えてくれ」

「はい…………魔物の群れは終始、優勢に町を攻めていました。思いのほか町の兵士や冒険者共が奮闘しておりましたが、落ちるのは時間の問題だろうと思っておりました」


 まあ、そうだろう。

 いくら人族が頑張ろうとあの数は無理だ。


「それで?」

「はい…………夕刻になり、そろそろ終わりだろうと思っていると、突如として、巨大で醜悪な化け蜘蛛が町の近くに現れました」

「現れたとは? どこから来たんだ?」

「わ、わかりません。本当に突如として姿を現したんです。私自身もまったく理解できませんでしたし、それは魔物も人族もそうだったらしく、しばらくすべての者の動きが止まりました」


 まあ、わからんでもない。

 俺はこの話を聞いて、まったく理解できないし、こいつが嘘をついているようにしか聞こえない。

 俺ですらそうなのだから現場にいた者は固まるだろう。


「人族も固まったということは人族の味方ではないのか?」

「わかりません。ですが、あの蜘蛛はすぐに動き出し、魔物を蹂躙し始めました」


 蹂躙、か。


「その蜘蛛とやらの強さは?」

「…………バケモノです。あれは正真正銘のバケモノです。私ではとても敵うような相手ではないですし、恐ろしい魔力を持っていました。しかも、魔法を使い、平野を魔物ごと燃やし尽くしていました」


 部下は俺と同じ魔族だ。

 決して弱くはないし、魔力だって高い。

 そんな部下が震えながら言っている。

 それほどのバケモノか……


「神獣か……それとも古の厄災の獣の類か……」

「わかりません。ただ魔物が潰走したと同時に消えました。人族は襲われていませんし、当然、町の方にも被害が出ていません」


 明確に人族の味方をしている?

 そうなると神獣か……


「あの町か近辺に住む神獣、か……」

「い、いえ……あの禍々しい魔力は神のものとは思えません。どちらかというと、我ら魔族や魔物に近いかと……」


 我らに近い?

 何故、そんなものが人族の味方を…………ん?

 我らに近い……だと?


「他に何か気付いたことはないか?」

「他にですか? 特には……」

「でかい蜂を見ていないか?」

「蜂……いえ、そのようなものは…………いや、すみません。蜂かどうかはわかりませんが、上空に何かいたような気がします」


 認識阻害の魔法だな。

 そうなるとやはり…………あの男か!?


 あの男は最初、大きな蜂に乗っていた。

 俺が光線で撃退したが、確かに大きな蜂だった。


 大きな蜂に大きな蜘蛛……

 これを偶然と片付けられるほど俺はバカではない。


「チッ! 正真正銘のバケモノか……」


 その蜘蛛はあの男が出したんだろう。

 蜘蛛に町の護衛を任せ、俺のところに来た。

 そして、終わったら町に戻り、蜘蛛を消す。

 これ以外には考えられない。


「あ、あの、何か心当たりが?」

「うるさい!」

「す、すみません!」


 クッ!

 部下に当たり散らすほど動揺しているか……!


「――おいおい、ご機嫌斜めだなー!」


 ふと大きな声がしたので声がした方向を見てみると、縦にも横にも大きい男が立っていた。


「ドミク様……」


 部下が男の名前をつぶやくと、ドミクが部下を睨む。


「あーん? 誰が口を開いていいって言った!?」

「も、申し訳ございません!」


 部下がすぐに這いつくばるように頭を下げ、謝罪した。


「死ねよ、おい」


 ドミクがそう言いながら部下に近づいていく。


「ドミク。貴様、人の部下に何をする気だ? お前が死にたいのか?」


 そう言うと、ドミクが足を止めた。


「こんな奴、いらねーだろ」

「それを決めるのはお前じゃない。それよりもこんなところで何をしている?」

「決まってんだろ。お前が魔物を使って町を滅ぼすって聞いたから見に来たんだ。人族共の阿鼻叫喚を聞こうと思ってたな」


 ドミクはニヤニヤと笑いながら言う。


「どうせ憂さ晴らしにお前も参加する気だったんだろう? お前がどこで暴れようと勝手だが、俺の邪魔をするな」

「ははは! そうか! まあ、そら悪かったな。でもよー、さっき見てきたが、町は普通に残ってるぜ? それどころか魔物が散らばるように逃げている。どうなってんだよ、おい!」


 死ね!

 暴れるしか能のない豚が!


「そのまんまだ。失敗した」

「はっ! ははは! 偉そうなことを言って失敗だ~? お前、舐めてんのか!?」


 ドミクが俺の前に来て、笑いながら顔を近づける。


「黙れ。俺は気が立っているんだ。死にたくなかったら失せろ」

「おいおい! どうしたよー? いつもはくだらんって言ってどっかに行くくせに今日はやけにケンカを買うなー?」


 ドミクがニヤニヤしながら俺の肩を叩いてきた。


「ケンカ? 邪魔者を処分するだけだろう?」

「おい、マジでどうした? 何があったんだ?」


 ドミクが真顔になる。


「作戦は失敗。町は謎の大蜘蛛に守られ、俺は冒険者に撃退されて敗走だ」


 クソッ!

 忌々しい!


「つまんねー冗談はいいから本当のことを話せよ。なんで失敗したんだ? 例の鏡が不調だったんだろ?」

「冗談? 俺が冗談を言うような男に見えるか? 神獣か厄災の獣クラスの大蜘蛛に魔物共は撃退され、ユウマとかいう魔人と思わしき人間に焼き殺されそうになったわ」

「ははは! それはさすがにねーぞ、スヴェン。あんな町にそんなものがいるわけねー」


 脳筋のバカが……


「笑ってろ。俺はこのことを伝えねばならん」

「おいおい……油断したのか知らねーけど、負けたのならやり返さないのか?」


 油断、か……

 なかったとは言わない。

 だが、それ以上にあの魔力は……

 くっ! どうしてもあの男の金色の目が忘れられない!


「いずれはやり返す。だが、その前に作戦失敗の報告と情報を伝えなければならん」

「かー! スヴェンよー! お前、マジで何を言ってんだ? スタンピードなんてまどろっこしい作戦が失敗したことなんてどうでもいいだろ! それよりかも、その人族の始末が先だろうが!」


 もう救えんな、こいつ……


「知るか。俺は例の鏡を使ってスタンピードを起こしてこいとしか命令されていない」

「お前、マジか……けっ! 勝手にしろ! つまんねーわ」


 ドミクはそう言うと、俺達から離れ、町の方に向かって歩いていった。


「あ、あのスヴェン様……よろしいので?」


 ドミクがいなくなると、部下が立ち上がって聞いてくる。


「知らん。とはいえ、独断専行しそうな雰囲気だったな……俺は帰るからお前はあいつを見張ってろ」

「見張りですか?」


 部下は少し嫌そうだ。

 気持ちはわかる。


「ドミクは強いが、頭が足りない。余計なことをしそうになったら構わんから始末しろ」

「よろしいので?」

「構わん。どうせ言っても聞かんだろ」

「かしこまりました。では、そのように致します」


 部下はそう言って頭を下げると、ドミクが歩いていった方に向かって歩いていった。


 ドミクは魔力察知が不得手だからバレないだろう。

 問題はユウマの方だが……

 まあ、部下はドミクと違って無理をしないから大丈夫だろう。


 それよりもユウマ対策を考えないといけない。

 炎が効かないと言っていたし、俺の得意魔法が封じられたことになる。

 別の魔法か……


 俺は悩みながらもドミクと部下が歩いていった逆の方向に歩き出した。


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[良い点] スヴェンさん、なんか良い上司な魔族さん……そんで苦労人っぽい
[良い点] スヴェンが噛ませヤムチャ枠じゃなくてまさかのツンデレ常識魔族枠でワロタ そのうち共闘とかして盛り上げてくれそう
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