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第039話 大蜘蛛ちゃん ★


 俺とAIちゃんは森に行くことにした。


「さて、暗くなる前に行くか……」


 夜の森は危ないし。


「マスター、どうやって森まで行くんですか? カラスちゃんに運んでもらうのは無理だと思いますけど」


 AIちゃんがそう言うと、肩に乗っているカラスちゃんがうんうんと頷く。


「蜂かなー?」

「まーた虫ですか」

「空を飛ぶのって虫か鳥だろ」

「鳥でいいじゃないですか……でっかい鳥」


 でっかい鳥ねー……


 そう提案されたのでAIちゃんの肩に乗っているカラスちゃんを見る。

 すると、カラスちゃんと目が合い、カラスちゃんが首を傾げた。


「大きい鳥の式神を作ってもいいか? お前がほぼ役立たずになるが……」

「カー!」


 カラスちゃんが羽をばたつかせた。


「嫌だって」

「あー、それもそうですね。じゃあ、蜂さんで行きますか。しかし、目立ちませんかね?」

「それもそうだな……でも、仕方がないだろ」


 大きい蜂が空を飛ぶのはどうしても目立ってしまう。


「認識阻害の魔法をかけてあげるわ」


 アニーがそう言って、俺達に杖を向けてくる。


「認識阻害って?」

「完全に認識されなくなるわけじゃないけど、微妙に気にされなくなる」


 微妙なのか……


「まあ、ないよりマシだな」

「そうですね。先に大蜘蛛ちゃんを出しましょうよ。それなら注目がそちらに行くので認識阻害の効果が上がると思います」


 なるほど。

 さすがはAIちゃん。

 俺の頭脳なだけあって賢い。


「よし! じゃあ、ついに大蜘蛛ちゃんの出番だな! 行ってこーい!」


 俺は懐から護符を取り出すと、防壁から魔物の群れに向かって投げた。




 ◆◇◆




 ユウマが投げた紙はひらひらと上空を飛んでいく。

 私達はそれを目で追っていた。

 すると、上空に飛んでいった紙が突如、黒くて大きな塊に姿を変える。


 その姿は確かに蜘蛛だった。

 だが、大きさが異常であり、オークが小粒に見えるほどに巨大だ。

 そして、その蜘蛛から感じる魔力で背中が冷たい汗でびっしょりとなった。


 凶悪すぎる姿……怖ろしいまでの魔力……

 冒険者を始めて数年が経ち、Bランクになって1年以上が経つが、あんなバケモノを見たことがない。 


「何、あれ……?」


 どうにかして声を出す。


「大蜘蛛ちゃんだ。よし! 行くぞ」


 ユウマはそう言うと、またもや紙を出し、その紙を近くに投げた。

 すると、今度は目の前に人の身長くらいはある大きな蜂が現れる。


 防壁に巨大な蜂が現れたのだが、周囲にいる人達は誰も蜂を見ていない。

 私の認識阻害のおかげでもあるが、それ以上に突如として現れた化け蜘蛛を呆然と見続けているのだ。


「大きいですねー。この針に刺されたら毒とか以前に死にそうです」


 固まっている周囲の人を尻目にAIちゃんがしゃがんで巨大な蜂のお腹を見る。


「あ、毒はなかったりするな」

「え? 蜂なのに? この子、何のための式神です?」

「正直に言うが、虫型の式神はほぼ使ったことがない…………あれ? なんでだっけ?」


 ユウマが腕を組んで悩みだした。


「あー……マスター、そこは思い出さなくていいです」

「そういうことか……」


 よくわからないが、ユウマが納得する。


「ごめんなさい。行きましょう」

「そうだな」


 2人は蜂によじ登り、背に乗る。

 正直、よくこんなでかい蜂に乗れるなと思う。

 私は触るのも嫌だ。


「パメラ、ジェフリーに適当なことを言っておけ」

「わかりました」


 パメラがドン引きした顔で頷いた。

 すると、ユウマとAIちゃんを乗せた蜂が空高く飛び上がり、森の方に向かっていく。


「ね、ねえ……術者が離れちゃったけど、あれ、本当に大丈夫なのかな?」


 マズくない?


「…………大丈夫でしょ。カラスちゃんもここにいるし」


 2人がかわいがっていた黒い鳥はいつの間にかアリスの肩にとまっていた。


「アリス、あんなのをパーティーに入れたの? はっきり言うけど、人間じゃないでしょ」


 あれだけ強力な魔法を放ち、剣も使えていた。

 そして、あんなバケモノを出すことができるのは人とは呼びたくない。

 もっと言えば、魔力を隠しているのだろうが、まったく魔力の底が見えなかった。


「…………パーティーは乗っ取られた。今はユウマがリーダー」

「えー……」


 どんだけ図々しい居候なんだ。


「…………問題ない。Aランクパーティーへの道筋は見えている」


 おんぶに抱っこか……

 というか、寄生……


「しかし、あの蜘蛛、全然、動きませんね?」


 パメラが化け蜘蛛を眺めながら言う。

 確かに化け蜘蛛はまるで動く気配を見せない。


「魔物達も動いていないけどね」


 あれだけ熱量を持っていた魔物達が完全に固まってしまっている。

 魔物だけでなく、下にいる兵士や冒険者達も動けなくなっていた。

 あの化け蜘蛛はそれほどまでの存在感があるバケモノなのだ。

 そんなバケモノが突如として現れたのだから皆、固まるだろう。


「…………あ、動いた」


 アリスが言うように化け蜘蛛が1本の足をゆっくりと上げた。

 次の瞬間、ものすごい勢いで振り下ろし、1匹のオークを踏みつぶした。

 いや、踏みつぶしたというより、突き刺したという表現の方が正しいだろう。

 当然だが、オークは息絶えている。


 魔物達は攻撃されたことで敵認定したらしく、すぐに咆哮を上げながら化け蜘蛛を襲い始めた。

 先程までの静かさは消え、魔物達の咆哮と熱量が戻ってきたのだ。


 魔物達は化け蜘蛛の足に取りつき、何とか登ろうとしている。

 化け蜘蛛の身体は長い足の先にあるため、ゴブリンやオークでは足を登らないと身体に届かないのだ。


 魔物達が足を登り始めると、化け蜘蛛が再び、動き出した。

 化け蜘蛛は1本1本の足を巧みに使い、確実に魔物達を突き殺していく。

 すると、徐々に化け蜘蛛の足元には魔物達の原型をとどめていない死体が積み重なっていった。


 私達は魔物達がなすすべがなく殺されている光景を見ていることしかできなかった。


「あれが例の化け蜘蛛か?」


 声がしたと思ったらいつの間にかギルマスのジェフリーが私達の横に立っていた。


「あ、ジェフリーさん。ユウマさんが出していかれました」


 パメラが答える。


「そうか……ん? あいつはどこに行ったんだ?」

「森の奥に魔物の発生源があるらしく、大きな蜂に乗って、飛んでいっちゃいました」

「意味わからん」


 確かに……

 実際に見ていないとわからないだろう。


「ん?」


 ジェフリーが私達同様に混乱していると、化け蜘蛛から魔力を感じた。

 すると、化け蜘蛛の顔の前に火花が散る。


「まさか……」


 嫌な予感がしていると、突如、化け蜘蛛の前方が燃え上がった。

 当然、そこにいた魔物達は焼け死んでいく。


「魔法……」


 あの化け蜘蛛、魔法も使えるらしい。


「ありゃ、Aランクどころか災害級のバケモノだな」


 ドラゴンと同列か……


 その後も蹂躙は続いていく。

 オークやゴブリン程度ではどうしようもない相手なのだ。

 というか、私達でも無理。


「ところで、この場にユウマさんがいないんですけど、あれって消えるんですかね?」


 パメラが暴れている化け蜘蛛を眺めながらそう言うと、皆でアリスを見る。


「…………知らない。カラスちゃん、知ってる?」

「カー?」


 何を言っているかはわからないが、知らないっぽい。


「しかし、あいつ、あんなもんを使役できるなんてヤバすぎだろ」


 確かにヤバい。

 ヤバいのだが……


「ジェフリー、ロクに魔法が使えないあなたに良いことを教えてあげる。式神だかなんか知らないけど、どんな魔法だって絶対に術者以上の魔力を持ったものは生み出せないわ。つまり、ユウマはあれ以上のバケモノってこと」


 これは絶対だ。


「どうしよ…………あいつ、大人しくしてくれるかな?」

「し、紳士な方ですし、大丈夫じゃないですか? それに優しいし……」


 確かに紳士だとは思う。

 自分で言うのもなんだが、扇情的な格好をしている私と話していても一切、身体を見てこないし。


「おい、アリス、大丈夫か?」


 パメラの様子を見て不安になったジェフリーがアリスに確認する。


「…………大丈夫じゃない? 目立ちたがり屋でもないし、そんなに野心がある人でもないしね。ただ、パメラとナタリアはもうダメだと思う」

「なんで私? ナタリアさんはわかるけど……」


 逆にナタリアはわからないけど、パメラはわかるわね……


「いや、お前ら、何の話をしているんだ?」


 女の話。


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