表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/241

第032話 報告 ★


「それでオークはどの辺に出たんです?」


 AIちゃんを撫でていると、パメラが聞いてくる。


「えーっと、ここ」


 俺は森に入ったすぐのところを指差した。


「え? ここですか?」

「ああ。それも2匹」

「2匹!? 本当ですか!?」


 パメラが驚く。


「本当。俺はそんなものかなと思ったんだが、ナタリアとアリスが異常って言うから報告に戻ったんだ」

「なるほど……だからこんなに早く戻ってきたんですね」

「だな」


 まだ昼にもなっていない。


「パメラさん、それとなんだけど、ユウマの探知能力によると500メートル以内にオークが10匹もいたらしい。さすがにちょっとおかしいよ」


 ナタリアが補足説明した。


「10匹も…………ん? 500メートル?」

「わかるんだって」

「そ、そうですか……あのー、あなたって本当に人間?」


 パメラがちょっと引きながら確認してくる。


「見ればわかるだろ」

『お母様のことを考えると微妙ですけどね』


 俺に尻尾なんかないわ。


「ま、まあ、優秀な方なんでしょう。当主様だっけ?」

「死んだし、子供に譲ったらしいから元だけどな」

「お貴族様?」

「そうだな……王族の末裔の一族だ。というか、親戚だな。ひいひい婆さんが王族だし」


 他にも婚姻関係があったし、そこそこ近いと思う。


「あ、そうですか……」

「……思ったより、偉い人だったね」

「…………12人の奥さんや子供達を養えるぐらいにはお金持ちだよ」


 ナタリアとアリスが後ろでコソコソ話している。


「まあ、金持ちだったんだろうな。金に困ったことはないし、それどころか金のことを考えたこともない」


 寺への寄付はいくらくらいにしようかなーと思ったくらいだ。


「すごいわね……」


 パメラが単純に感心している。


「前世のことだ。今は居候でたいした金もない。だから依頼料に色を付けろよ」

「あ、はい。じゃあ、金貨10枚に加えて、もう10枚追加します」


 パメラが金貨を20枚も受付に置いた。


「自分で言っててなんだが、こんなにくれるのか?」


 たかが森に行って帰ってきただけなのに倍になっちゃった……


「それぐらいの価値がある情報なんです。すぐにギルマスに報告し、調査団を派遣することになると思います」


 森専門の調査団でもいるのかね?

 まあ、素人の俺達よりかはマシか。


「わかった。いつもありがとうな。今度、飯でも奢ってやろう」

「え? あ、うん……ありがとう……」


 後半の声が小さい。

 嫁が12人もいる男から誘われたから警戒してるな……

 AIちゃんも来るからそういうのではないんだがな。


「パメラ、明日の仕事で良いのはあるか?」

「あー、どうでしょう? 下手をすると、森への立ち入りが禁止になるかもしれません」


 確かにそれもあるか……


「他にはないのか?」

「西区の稼ぎどころは森なんですよ。一応、探すことはできますけど、お休みになられては? この町に来てからずっと働いてますよね?」

「休み? そうか……自由業だから休みも自由なのか」

「そうですね。人によりますが、数日働いたら休むことが多いです。体力のいる仕事ですし、休むのも大事ですよ」


 確かに森に行くだけで疲れるし、森の奥になんて行ったらもっと疲れるだろうな。


「休みか……休みという概念がなかったが、その辺も大事だな」

「マスター、リーダーなんですからその辺もちゃんとしないといけませんよ。見るからに体力のない御二人ですし」


 AIちゃんが忠告してくれた。


「それもそうだな」


 俺達は後ろにいる貧弱な2人をじーっと見る。


「え? 休みがないつもりだったの?」

「…………ブラックすぎ」


 2人は嫌そうな顔をしていた。


「いや、すまん。休みのことを忘れていた」

「えーっと、ユウマは前の世界では休まなかったの?」

「当主に休みなんかあるわけないだろ」


 当主じゃなくても、いつも勉強や訓練なんかがあった。


「それ、楽しい?」

「さあな。それが当たり前だった」


 記憶が微妙だが、別に苦労したという記憶はない。

 まあ、楽しかったという記憶もないんだが。


「…………休もうよ。おじいちゃん、死んでも働くつもり?」


 いや、働かないと食っていけねーよ。

 まあ、言わんとしていることはわかるけど。


「ナタリア、休みの日はお前が決めろ」

「私?」


 指名されたナタリアが自分の顔を指差した。


「ああ。お前らの基準でいい。俺は今、休みは月に一回くらいでいいだろと思っている」


 俺がリーダーを名乗っているが、元々はこいつらのパーティーだし、こういうのは体力がない方に合わせた方が良い。


「あ、うん……わかった」

「…………月一って」


 2人がちょっと引いている。


「どうする? とりあえず、明日は休みでいいよね?」


 ナタリアがアリスに確認する。


「…………いいと思う。というか、少なくとも、リリーが戻るまでは本格的に活動しない方がいいでしょ」


 そういや、リリーって子がいたな。


「そうだね。よし、明日は休みです!」


 休みらしい。


「わかった。パメラ、そういうことだから」

「わかりました」


 パメラが頷いたので俺達はギルドを出て、家に帰ることにした。




 ◆◇◆




 ユウマさん達がギルドを出ていったので立ち上がると、奥の執務室へと向かう。


「ジェフリーさん、よろしいでしょうか?」

『ん? いいぞ』


 部屋の中から返事が聞こえたため、扉を開け、中に入った。

 そして、デスクで仕事をしているジェフリーさんのもとに向かう。


「先ほど、森の調査に向かわれたユウマさん達が戻られました」

「先ほど? 早くないか?」

「森の浅いところでオークが2匹も出たらしいです」

「それは……」


 ジェフリーさんが腕を組み、悩みだした。


「いかがいたしましょうか? 調査団を派遣した方が良いと思うんですけど」

「そうだな。すぐに派遣しろ。それと王都のギルドにも報告を忘れるな」

「わかりました。それとユウマさんのことなんですけど……」

「あいつか…………どうした?」


 ジェフリーさんがちょっと嫌な顔をしながら聞いてくる。


「やはり上流階級の人間だったようです。王族の一族の貴族だそうです」

「そうか……まあ、驚きはないな」


 貴族なことはわかっていた。

 思ったより、ずっと上の人間だったが。


「ですね。でも、問題は能力です。森で500メートルの探知ができるそうです」

「すごいな……しかも、化け蜘蛛も出せるんだろ? 人とは思えん」


 化け蜘蛛のことは今朝、すぐに報告した。

 話し合いの結果、黙っておくことになったのだが……


「同感です。それと例の盗賊狩りですが、やはりやったのはユウマさんだと思われます」

「やはりか」

「はい。回収班の話では盗賊の遺体にはどれも剣での切り傷があり、それが致命傷のようでした。あの2人にはできません」


 ナタリアさんもアリスさんも強いが、魔法使いだ。

 剣はからきしなはず。


「つまりあいつか……」

「どうします? 依頼無効にもできますけど」


 盗賊狩りをした時はまだ冒険者じゃなかったはずだ。


「放っておけ。そんなことより、このギルドに縛り付けておくことが大事だ。あんなもんを他所に取られたらシャレにならん」


 やっぱりそう思うか……


「一応、ナタリアさん達と組んでいるから大丈夫だとは思うんですけど」

「あいつらもよそ者だろ。よその方が稼げるとなったらわからん」


 まあ、あの2人はそれでも残ってくれようとするだろうが、ユウマさんがどういう判断をするかだろう。

 なんかいつの間にかリーダーになっていたし、あの2人は大人しいから最終的にはユウマさんに従うと思う。

 リリーさんに期待かな?

 いや、無理か……

 あの子、バカ……いや、そんなに考えることをしないし。


「良い依頼を優先的に回しているんですけど、それで大丈夫ですかね?」

「さあな。転生者共は本当にわからん。とはいえ、それぐらいしかやれることはない。お前に任せるから頑張ってくれ」

「私ですか?」

「女好きなんだろ? お前の方が良いに決まっている」


 あの人、本当に女好きなんだろうか?

 男の人独特のいやらしい視線を一切感じないし、それどころかAIちゃんを可愛がっているおじいちゃんそのものだ。


 とはいえ、食事に誘われたな……

 本当に何を考えているのかがわからない。


「わかりました」

「頼んだぞ。俺も森の異常を他所のギルド長に話してみる」


 例に漏れず、ギルド間も仲が悪いのだが、そうも言っていられない状況か……


「よろしくお願いします。では、失礼します」


 私はギルマスの執務室を退室すると、受付に戻った。


「ねえねえ、パメラ。ユウマさんとご飯に行くの?」


 隣で聞いていたであろう色恋が好きな同僚が聞いてくる。


「行く」

「へー……ほー……」


 とりあえずは行ってみよう。

 変なことにはならないと思うし。

 …………多分。


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

週末のんびり異世界冒険譚 1 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~
週末のんびり異世界冒険譚 2 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

【販売中】
~書籍~
最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜(1)

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua
― 新着の感想 ―
[良い点] これはパメラさんがこの世界の嫁第一号か?
[良い点] 孫感覚じゃね?パメラさんを食事に誘うの
[気になる点] お腹ぽっこりの一番目
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ