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第003話 第二の人生


「なんで移動できるんだ?」


 俺は腹ぐらいまでの背丈しかない少女型の式神を見下ろしながら聞く。


「この術も私もマスターのスキルです。マスターのスキルならそういうことも可能です」


 ようわからん。


「つまり蜘蛛でもいいわけだな?」

「よくないです。どうせ化け蜘蛛でしょ。かわいい女の子がいいです!」


 術者に逆らうスキルってなんだ?


「まあ、化け蜘蛛はマズいか……質問を続けてもいいか?」

「どうぞ」


 式神がニッコリと笑う。

 非常にかわいらしいが、どうしても母上がチラつく。


「お前というか、俺のスキルはだいたいわかった。何故か若返っているのも記憶が微妙なのもそういうものだと納得しよう。だが、俺はこの異世界とやらで何をすればいいんだ?」

「それはマスターがお決めになってください。これはマスターの第二の人生です。前世のように過ごすのもいいですし、違った人生を歩むのもいいです。私がお手伝いしましょう」


 第二の人生か……


「うーん……」

「やり残したこととかないんです? もしくは、別の道に進みたかったとかは?」

「ない……というか、思い出せない。少なくとも20歳の俺は特に不満がなかった」


 ウチは代々陰陽師を輩出してきた名家だった。

 その次期当主だった俺は何の疑問もなく、親父の跡を継ぎ、如月の家と国を守っていくつもりだった。

 そして、おそらくだが、その通りな人生だったのだろう。


「マスターは人よりちょっと愛が多い方でしたが、根は真面目でしたからね。ならば、次の人生では好きに生きるのはどうです?」

「好きにとは?」

「マスターの人生はある意味で決められた人生でした。人々を救い、国を守る。それはとても立派で尊いことです。ですが、そのためにやりたいことを抑え、下の者を纏めてきたのでしょう?」


 当主になったのだからそうなのだろう。


「好きにねー……それもいいかもな」


 俺は子供の頃から食事一つにしても決められていた。

 良いものを食わせてもらったが、好きなものを食いたいという思いもなかったわけではない。

 あと、座学や礼儀の躾けも嫌いだった。


「好きに生きましょう。健康に良い野菜も魔力を上げるためのムカデや蜘蛛も食べなくていいんですよ?」


 野菜は嫌いだったが、実はムカデや蜘蛛は好きだったがな。

 炙ったら結構、美味いんだぞ。

 弟や妹達は当主になるための苦行と思い、可哀想な目で見ていたが、俺は何とも思っていなかった。


「まあ、わかった。そうしよう。と言っても、ここはどういう世界なんだ? さっきの餓鬼みたいなゴブリンも知らんし、よく見ると、草木も微妙に違うぞ」


 周囲にある木々や草は俺の国にあったものではない。


「その辺りは随時、教えます。まずは人里に向かいましょう」


 当然、人もいるのか。


「それはいいが、お前はその姿で行く気か? その髪は目立つからやめてほしいんだが」

「あー、それなんですが、この世界では金髪は普通です。マスターの世界は9割9分黒髪でしたが、この世界は色んな髪色の人がいますし、種族も多いです」


 成金髪が多いの?

 嫌な世界……


「種族とは?」

「人族だけじゃないです。人型の別の種族がいます」

「なんだそれ?」


 意味わからん。

 人は人だろう。


「会えばわかります。獣耳の人もいるんですよ」


 式神が両手を頭に持っていき、ぴょんぴょんと振る。


「それ、半妖化した母上だろ」


 普段は普通の人だったが、半妖化したらキツネ耳が頭にあったし、尻尾もあった。

 尻尾を枕にすると気持ちよく寝れるが、寝たら母上にくだらないイタズラをされるから要注意。


「そういう意味ではマスターも…………あれ? マスターって人です?」

「人だろ」


 他に何があるんだよ。


「うーん、ハーフ? 獣人になるの、か? うーん……いや、妖狐って魔物みたいなものだし……人類の敵?」


 なんか不穏なことを言ってるな……


「魔物ってさっきの醜悪なゴブリンだろ。母上をあんなのと一緒にするな。神と呼べ」


 母上だって、きっとお稲荷さんみたいなものだろう。

 絶対に違うだろうけど。


「デミゴッドみたいなものかな? まあいいです。マスター、お母様が妖狐なことは言わないようにしてください。ここは異世界ですし、マスターの世界の常識は通じません」


 まあ、郷に入っては郷に従えと言うしな。


「わかっている。俺の陰陽術はどうだ?」

「特殊な魔法ということにしてください」

「魔法?」

「この世界の人の中には数は少ないですが、火を出したり、水を出したりすることができる者がいます」


 俺もできるな。

 要はその仲間と思わせておけばいいわけだ。


「わかった。それでいこう」

「他にご質問はありませんか?」

「ああ、そうだ……実は最初から気になっていたことがある」


 聞く機会がなかったのだ。


「何でしょう?」

「マスターって何だ? 俺のことを指しているのはわかるんだが……」

「本当に最初ですね。要はご主人様、旦那様などの自分より上位に値する者への敬称です。他がよろしければ変えます。当主様、先生、悠真様……どれがよろしいでしょう?」


 悠真は俺の名前だ。

 如月悠真。

 本当はもっと長いんだが、基本的にはそれでいい。


 まあ、呼び方なんてなんでもいいか……


「マスターでいい。意味を知りたかっただけだ」

「では、マスターで。私はマスターの弟子という設定でいきましょう。娘は嫌でしょうしね」


 嫌だな。

 こいつの見た目は10歳前後だろうが、20歳で10歳の子供がいるのはヤバい。

 まあ、50歳下の奥さんがいたらしい俺が言うことではないが……


「お前は何と呼べばいい?」

「キンコちゃんはどうです?」


 母上じゃねーか!


「却下。そういえば、名前があったな。えーあいで」

「それはスキル名であって、名前ではないんですけどねー……まあ、AIちゃんでいいです」

「よし、AIちゃん。俺の第二の人生を始めよう!」

「おー!」


 AIちゃんが嬉しそうに手を上げた。

 俺はそんなAIちゃんを見ていると、微笑ましくなったので頭を撫でる。


「なんかほっこりするなー」

「マスターは気難しいジジイのくせにお孫さん達にはデレデレでしたからね」


 ただのジジイだな。

 そんな孫と同じくらいの年齢の子を娶ったスケベジジイのくせに……


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