第257話 蜂さん「………………」
「イルヴァ、ロザリア、ちょっと待っててくれ」
宿屋に着くと、2人に言う。
「わかったよ」
「ごゆっくりどうぞ」
2人が頷いたので宿屋に入る。
すると、宿屋の女の子が箒を持って、掃除をしていた。
「あ、おかえりなさい。今日は早かったですね」
女の子が輝くような笑顔で出迎えてくれる。
『完全にほの字です』
はいはい。
「ちょっと知り合いに会いに行っただけだからな。それと明日か明後日かでチェックアウトをすると思う」
「あー……そうなんですね」
女の子が落ち込んじゃったので頭を撫でてやる。
「良い宿屋だった。お前の仕事ぶりは完璧だったし、また来た時にはここに泊まるよ」
「ありがとうございます! ねえねえ、次はどこに行くの?」
可愛らしい子だ
「王都の方に行こうと思っている。その後はセリアの町に帰るだろうな。俺達は北のライズ王国の人間なんだ」
「そうなんですね。頑張ってください」
「ああ」
頷くと、階段を上り、自分達の部屋に入った。
「いやー、マスターはさすがですね」
「ホント、すごいわ。あの子、私達のことなんか眼中になかったわよ」
「こうやって増やしていくんですね。あの子が将来、セリアの町に引っ越してきても不思議じゃないです」
何を言ってんだ、こいつら?
「子供だぞ」
「子供でも十分に女の顔をしてたわよ」
「完全に王子様を見る目でしたね」
王子様じゃないわ。
「そうか?」
AIちゃんに確認する。
「マスターは実績がおありです」
そういえば、50歳も下の拾ってきた孤児を嫁にしたのが前世の俺だったな……
ホント、スケベ爺だわ。
「俺のことは良い。それよりもリアーヌを……あ、来たか」
リアーヌが転移してきた。
「すでに呼んでおります」
「ん? どうした?」
リアーヌが首を傾げる。
「なんでもない。リアーヌ、仕事中に悪いな」
「いえいえ、ソニアが淹れてくれたお茶を飲んでいたところですよ」
俺が一度も会ったことがないエース受付嬢さんね。
「そうか。リアーヌ、まずはアニーとメレル、それに狛ちゃんを送ってくれ」
「えっと……ユウマ様と子ギツネは?」
リアーヌがまたしても首を傾げた。
「実はイルヴァとロザリアがここを離れて、ライズ王国に拠点を移すことになった。それで王都まで連れていってやって欲しいんだよ。だから一度町を出てから転移を使いたい」
「あー、あいつら、ウチに来るわけですか」
王都のギルドの一番お偉いさんがリアーヌだ。
「すまんが、気にかけてやってくれ。特にロザリアはメレルの妹で魔族だ」
「わかりました。ユウマ様の頼みでしたらそうしましょう。では、私は2人と狛ちゃんを送っていきますのでまた蜂さんで合図をください」
「ああ。頼む」
頷くと、AIちゃんと部屋を出る。
『また増えるかと思ったが、王都なら安心だな』
『無理じゃない?』
『ウチの妹は面食いなうえに稼ぎのある男が好きだからもうダメなような……』
扉越しに何か聞こえたような気もしたが、よくわからなかったのでその場を離れ、階段を下りる。
そして、宿屋を出た。
「もういいのかい?」
「ああ。行こうか」
俺達は町中を歩いていく。
「イルヴァ、ロザリア、転移のことは誰にも言うなよ」
わかっていると思うが、一応、釘を刺すことにした。
「もちろんだよ。君達には多大な恩がある。君達が不利になるようなことはしないさ」
「どういうものかいまいちわかりませんが、他人に言える能力じゃないですよ」
2人は深く頷く。
「ああ。それと町を出たら紹介するが、王都のギルドのギルマスにお前らのことを頼んでおいた。何かあったら頼るといい」
「ん? ギルマス?」
「そんなお偉いさんと知り合いなんですか?」
知り合い、か……
「御二人も会ってますよ? 黒髪の小さい子です。あの方がライズ王国の王族であり、貴族のリアーヌさんです」
AIちゃんが説明する。
「王族で貴族って……」
「え? あの子供がギルマスなんですか?」
「ええ。ああ見えて立派な大人ですし、マスターにぞっこんでついてきたんです」
確かにリアーヌは大人だな。
「へー……君、本当にすごいんだね。よくもまあ、そんなお偉いさんを惚れさすもんだ」
イルヴァが感心する。
「流れだろう」
そういうこともある。
「いや、即落ちだったような……」
それ、リアーヌには言うなよ。
多分、怒るから。
「ユウマは本当に何者? あ、ジーナが言っていた強制引退ってそういうことか。惚れちゃって仕事を投げ出すんだ」
そうそう。
「いや、リアーヌさんは別に仕事をやめてませんよ。ケネスさんが頑張ってますけど……」
「イルヴァさん、強制引退はそういう意味じゃないです」
AIちゃんとロザリアが否定した。
「じゃあ、どういう意味なんだ?」
「え? あー、こ、今夜! 今夜にでも話します!」
「ふーん……なんでこの話題になると皆が私を母性ある目で見るんだろう?」
なんでだろうね。
「俺もわからん。さて、門が見えてきたぞ。もうすぐでこの町ともお別れだ。何か感じるものはあるか?」
この2人は俺達よりも長くこの町にいた。
「もう何も。今朝、ここでシーラとフェリシアと別れたんだよ。ギルドに挨拶をして、ここまで見送りに来たんだ」
昨日だけじゃなく、今朝も号泣だったわけね。
「あいつらは歩きか?」
「いや、馬車だよ。王都に行く乗合馬車があるんだ。君達も王都に行くなら利用するといい」
いや、俺達は蜂さんに運んでもらう。
頑張れ、蜂さん。
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