第255話 姉の心妹知らず
町中を歩いていると、イルヴァ達が泊まっている宿屋に着いたので中に入る。
すると、受付のおばちゃんと目が合った。
「いらっしゃい。泊まりかい……って、昨日のお兄さんじゃないか」
イルヴァ達を送っていった時に軽く話をしたのだ。
「ああ。昨日ぶりだな。イルヴァ達と話をしたいんだが、いるか?」
「あー、なんというか……まあ、ちょっと待っててよ」
おばさんは微妙な表情だったが、頷き、近くにある階段を上っていった。
「どうしたのかしら?」
アニーが聞いてくる。
「別れってやつだ」
「上には知っている魔力が2つしかありません」
AIちゃんのサーチでもそうらしい。
「あー、そういうこと」
アニーは納得したようだ。
そのまま待っていると、おばちゃんと共にロザリアが下りてきた。
「こんにちは、ユウマさん。あとお姉ちゃん……」
俺には笑顔だったが、メレルには微妙な表情で挨拶をした。
「ふっ、あなたは苦労しますよ」
メレルが鼻で笑った。
「何が?」
「いーの。それよりもユウマさんと話をしなさい」
「ふんだ。ユウマさん、よく来てくれました。上で話しましょう。ちょーっとイルヴァさんの体調が悪いですけどね」
そうだろうな。
「こんな時にすまんな」
「いえ……」
俺達は階段を上がり、奥にある部屋の前に立った。
「ここか?」
「はい……イルヴァさん、ユウマさん達を連れてきましたけど、どうします?」
ロザリアは扉をノックしながら声をかける。
『大丈夫だ』
「そうですか……では」
ロザリアが扉を開け、中に入ったので俺達も続く。
部屋はかなり広く、ベッドが4つあった。
そのうちの1つにイルヴァが腰かけているが、残りのベッドには誰もいない。
それどころかこの部屋にはイルヴァしかいなかった。
「やあ、ユウマ。元気かい?」
イルヴァが挨拶をしてくる。
「お前は元気そうじゃないな」
イルヴァは頭を抱えており、顔も若干、青い。
そして、目の下には隈があった。
「まあね……座ってくれよ。話をしたいのはこちらもなんだ」
イルヴァに促されたので俺とAIちゃん、アニー、メレルはテーブルについた。
そして、ロザリアはイルヴァの横に座る。
「シーラとフェリシアは?」
予想はついているが、敢えて聞く。
「王都に帰ったよ。朝早くにな」
やはりか。
「随分と早いな」
「この宿も安くないし、ずるずると滞在しても別れが辛くなるだけだ。昨日、お別れ会と結婚祝いをしたよ。おかげで頭が痛い」
飲みすぎたな。
「泣くなよ……」
目の下の隈はそういうことだろう。
「私は泣く気なんかなかったさ。でも、フェリシアが泣き出したもんだから連鎖さ」
あー、まあ……
「嫌な別れじゃなくて良かっただろ」
生きて、さらには幸福の別れなら良い。
もっとも、仲間を失っているこいつらはよくわかっているだろうが……
「そうだな。しかし、飲み屋の周囲の客と店員には悪いことした。女共が泣き、浴びるように酒を飲んでいる姿はさぞ迷惑だっただろう」
俺なら出るな。
「仕方がないさ」
「そうだな。さて、私の悲しみはもういい。君が言うように嫌な別れじゃないし、王都ならいつでも会える」
イルヴァの実家も王都だしな。
「じゃあ、話をしようか」
「ああ。敢えて今まで聞かなかったが、ロザリア、君は魔族なのか?」
イルヴァが隣に座っているロザリアに確認する。
「はい。軍部に所属している密偵です……あ、密偵でした。軍部は潰れちゃったようなので」
職を失ったわけだ。
「そうか……それでそちらの女性がお姉さん?」
イルヴァがメレルを見る。
「ええ。姉です。私も同じく軍部に所属する密偵でしたが、命がいくつあっても足りないと考え、軍を抜けました。その後は反軍部であるレジスタンスに加わり、ユウマさん達と軍部のボスであるフォルカーを討ったわけです。その後は魔大陸の辺境の地で過ごしていたんですが、ユウマさんの奥さん方に料理を教わっていたんですよ。そうしたらなんか妹がいるから来いと言われ、この地に来たわけです」
メレルが長々と説明する。
「なるほど……魔族の脅威は私も知っているし、子供の頃から恐ろしい者と教わった。しかし、君ら姉妹はそんなことないな」
「ふっ、あなた程度なら簡単にやれますけどね」
メレルが鼻で笑った。
「ほう?」
イルヴァが目を細める。
「メレル、かっこつけるな」
「そうですよ、そうですよ。泣きながら逃げ帰ったくせに」
「うるさいキツネ共ですね。まあ、私のことはどうでもいいです。それよりもロザリア、あなたはこれからどうする気ですか?」
メレルが話の本題に入った。
「どうするって言われても……ねえ、本当に今までの報酬はゼロ? 退職金は?」
「誰が払うんですか?」
スヴェンは……あいつ、金を持ってなさそうだな。
「ああ……」
ロザリアが落ち込む。
「仕方がないでしょう。それよりも魔大陸に帰りますか? 帰るなら一緒に送ってくださるとユウマさんがおっしゃってくれてますよ」
「送るって?」
「転移です」
まあ、いいんだけど、お前の口からばらすなよ。
「何それ? 一気に魔大陸に行けるの?」
「そういうことです。どうしますか?」
「いきなり言われても…………あー、でも、魔大陸は嫌かな。何もないし、やっぱり私はこっちで生きたい」
ロザリアは予想通りの答えを出した。
「そう……バレたら殺されますよ?」
「それでもいい。魔大陸なんて不毛な大地にいてもつまらないし、私はこっちのご飯が良い」
「あっそ。ユウマさん、私の話は終わりです。あとはどうぞ。ハァ……」
メレルがため息をつき、首を横に振った。
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