第242話 良い日もあれば悪い日もある
翌日は5-2迷宮に行くことになっているため、早くに起き、AIちゃん、ナタリア、アニーと共にリアーヌの転移で宿屋にやってきた。
そして、宿屋を出ると、看板を確認しながら5-2迷宮を目指す。
「ユウマさー、メレルっていつまでいんの?」
狛ちゃんに乗っているアニーが聞いてきた。
「知らん。料理を習うまでらしいが、逆にどこまで習う気だ?」
「さあ? ナタリア、どうなの?」
アニーが今度はナタリアに聞く。
「うーん、メレルって手先は器用だし、要領もいいからすぐにできるようになるんだよ。でも、圧倒的に食材や調味料なんかの知識がない感じ」
「魔大陸に住む魔族だからね……」
多分、そうだろうな。
不毛地帯って感じがしたし。
「メレルが邪魔か?」
「うん。狭い」
あー……アニーの隣に座っているもんな。
小さいアリスはパメラの隣にいても生首になれるけど、アニーとメレルは厳しいか。
「パメラに席を代わってもらったら?」
仲良く生首になれよ。
「ダメ。あそこは私の場所」
なんで決まってるんだろうか?
こだわりか、慣れか……
「まあ、ちょっとだけ我慢しろ。一緒に魔大陸を歩いた仲間じゃないか」
途中からだけど。
「あれ、絶対に彼氏持ちじゃなかったらコレクション入りよね?」
「多分……」
「絶対ですよ。でもまあ、マスターは男を殺して女は俺の物だーとかいう蛮族ではないのでご安心を」
嫌だわ、そんな奴。
それこそ品がない。
話をしながら町中を歩いていくと、広場に出た。
「やっぱりこんな感じか」
5-2迷宮前の広場は5-1迷宮と同じく、露天商が並んでいるものの冒険者はほとんどいない。
「うるさくなくて良いじゃない。私はナンパと『いくら?』って聞かれることが多いから助かるわ」
そりゃお前はな……
「にゃにゃ」
「服着るにゃって言ってます」
ついに猫にまで言われるようになったか。
「放っておいて。好きでやってんの」
「まあ、それも個性だし、良いと思うぞ」
「当主様は寛大で良いわね」
俺は柔軟なんだ。
「にゃにゃにゃー……」
「こら、そういうことを言わない」
AIちゃんがタマちゃんを叱った。
「……何よ?」
アニーがジト目になる。
「何でもないでーす。ささ、迷宮に参りましょう」
俺達はAIちゃんに促されたので迷宮に入り、階段を降りていった。
「中身まで一緒だな」
5-1迷宮とまったく一緒だ。
「当然、構造は違います。ですが、罠の種類も出てくる魔物も一緒ですね。5-1迷宮と5-2迷宮の難易度は僅差なんですよ」
なるほどねー。
「じゃあ、行くか」
「はい。タマちゃん、頼みますよ」
「にゃ!」
俺達は奥に進んでいき、迷宮探索を始める。
とはいえ、これまでと同じであり。タマちゃんが罠を見つけ、俺とアニー、それからAIちゃんが魔物を倒していった。
そして、ナタリアに回復魔法をかけてもらいながら適度に休みつつ、奥に進んでいく。
「魔石しか出ないわよー」
ちょうど10匹目の魔物を倒したところだが、ドロップしたのは魔石のみである。
魔石じゃないドロップ品は10匹に1つ出るか出ないからしいから出なくても不思議ではない。
「俺は価格が安定した魔石で良いと思うぞ」
「夢がないわねー……どーんっと金貨200枚くらいのを見つけましょうよ」
急にどうした?
「……ユウマ、ユウマ。昨日、アリスがレイピアを自慢してたの」
ナタリアが耳打ちしてくる。
「それでかよ……」
くだらんなー。
「いいから次よ、次」
「はいはい」
俺達はその後も進んでいったのだが、特に魔石以外はドロップせずにお昼となる。
そして、昼食の弁当を食べると、お茶を飲みながら一息ついた。
「おかしいわねー……何が悪いのかしら?」
アニーがお茶を一口飲み、首を傾げる。
「そういう性根が良くないんだと思います。無欲が大事なんですよ」
AIちゃんがうんうんと頷いた。
正直、俺もそう思う。
「正論を言うポンコツね……」
「ポンコツって言った! ナタリアさーん、アニーさんがいじめるー!」
「うん、そうだね。AIちゃんは優秀だもんね……」
ナタリアの顔にめんどくさいって書いてある気がする。
「こうなったら午後からマルチでハイスペックな私の力を見せてあげます! タマちゃん! あれ? タマちゃん?」
AIちゃんがキョロキョロと見渡す。
確かにタマちゃんがいないなーと思って、見渡してみると、部屋の端の方で壁を使って、カリカリと爪とぎをしていた。
「猫ですねー……」
「そりゃ猫なんだから仕方がないだろ……いや、待て」
前にも見たぞ、あれ。
俺は立ち上がると、タマちゃんのところに向かう。
そして、探知に集中していると、わずかながらに魔力を感じた。
「コアか……」
まさかセーフティーエリアにあるとは……
「え? コアですか?」
「5-2迷宮はここにあるんだ……」
「コアね……高く売れる……」
アニー?
「取るのはなしだぞ」
「わかってるわよ」
まあ、アニーはそんな短絡的なことしないか。
「これはスルーな。そろそろ再開しようぜ」
「ナタリア、大丈夫?」
アニーがナタリアに確認する。
「うん。アニーさんにもらったポーションも飲んだし、大丈夫」
「じゃあ、行きましょう」
俺達は午後からも探索を続け、奥に進んでいく。
そして、良い時間になったので引き返すことにし、来た道を戻ると、5-2迷宮を出た。
結局、この日は何故か魔石しか落ちず、ついてない日となってしまった。
「おかしいわねー? こういう迷宮?」
アニーがAIちゃんに聞く。
「そんなことはないですよ。でも、こういう日もあります」
「ふーん……ユウマ、ギルドに行く? 売るものが何もないけど」
確かになー。
「でもまあ、金貨を受け取らないとイルヴァ達がレイピアを受け取れんしな。行こう」
「絶対に嫌味かなんか言われそう」
言われるだろうなー。
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