第241話 (男だったら絶対にオークションにしてたんだろうなー……)
「お前達が迷宮に来ている理由か?」
「ああ。もちろん、稼ぎに来ているというのは確かだが、それと同時にかつての仲間の遺品を回収したかった。昔から一緒だった子で大切な友人だったんだ」
イルヴァ、シーラ、フェリシアの3人は幼なじみらしいが、その子も含めた4人でパーティーを組んだんだな。
それで1人失ったからロザリアを入れた。
そんなところだろう。
「なるほど……しかし、1年も時間を空けたのによく残っていると思ったな?」
「これが人が多い中級や初級なら諦めた。だが、上級なら可能性はある。それに一応、ジーナにそういった品がドロップされてないかを確認した」
それでジーナがこいつらの事情を知っているわけね。
「ドロップされてなかったのか」
「正確にはされているものもある。それはもうどこかに売られているから回収はできない。だが、このレイピアと首飾りだけは可能性があった」
首飾り……
「あれじゃないよな?」
ジーナに確認する。
首飾りならドロップしてジーナに売っているのだ。
「違うよ。あれは別のパーティーだ」
なら良かったわ。
良かったって言っていいのかはわからんが。
「まあ、レイピアが遺品なのはわかった。それで?」
「譲ってほしい。もちろん、金は出す」
無料はさすがにないわな。
元貴族のAランクともなれば民度が高いわ。
「いくらだ?」
「金貨300枚出す」
倍か。
「いいぞ」
「確かに安いかもしれないが、それ以上は…………ん?」
イルヴァが首を傾げた。
「だから金貨300枚でいいぞ」
「え? いいの?」
自分で言ったくせに何を言ってんだ?
「マスター、少々、お待ちください。もっと高く売れます」
AIちゃんが止めてくる。
「ユウマ様、その通りです。何ならウチがそれ以上を出しても良いです。我が国にもオークションはありますし、質から見てももっと高くなるでしょう」
リアーヌも止めてきた。
「いくらぐらいになる?」
「金貨350枚はお約束します」
「リアーヌ、たかが金貨50枚で俺に品位を下げろというのか?」
ないない。
「え?」
「ここの迷宮なら1日潜ればそれ以上に稼げる。それだけの価値でしかないもののために面倒なオークションなんかをする必要はない。それに遺品だろう? イルヴァはなにも安く譲れと言っているわけではなく、倍の値段で引き取ると言っている。ならそれで良いだろう。俺達が損をしているわけでもないし、交渉も不要だ。金は大事だが、がめついてまで得るものでもない」
「そうですよ。品位です、品位」
AIちゃんがうんうんと頷く。
無視、無視。
「わかりました。そういうことでしたらユウマ様にお任せします…………おい、子ギツネ、覚えておけよ」
リアーヌがAIちゃんを睨んだ。
「イルヴァ、そういうことだから金貨300枚でいいぞ」
「すまない……感謝する」
イルヴァが頭を下げると、他の2人も頭を下げる。
「ユウマ、今回のことはギルドが間に入る。金は後日、支払おう」
まあ、ジーナはそのためにいるんだろうな。
「明日、迷宮に行くから夕方でもいいか?」
「いいよ。あなたらが死ななかったら金貨300枚を支払う」
死なんわ。
「わかった」
「イルヴァ、ユウマに金を支払った後にレイピアを渡す。いいね?」
「はい。それでお願いします」
先にレイピアを渡すと、良くないからだな。
持ち逃げもあるし、最悪は迷宮内で襲ってくる可能性がある。
「じゃあ、話は終わりだな。俺達は帰る」
立ち上がると、AIちゃんとリアーヌも立ち上がった。
「ユウマ、休みなのに悪かったね」
ジーナが謝罪してくる。
「別にいい。むしろ、お前が言うように儲かったわ」
「あんたがまともで良かったよ。足元を見る奴はいくらでもいるからね」
そういう信頼があったから金貨150枚も儲かった。
もし、俺ががめつい人間だと思われたらこの話はなかっただろう。
日頃の行いが大事なんだ。
「俺はそんなことせん」
「うんうん。イルヴァ達が女で良かった」
日頃の行い……
「言ってろ。じゃあな」
俺達は部屋を出るために扉に向かう。
そして、扉を開けると、振り向いた。
「イルヴァ」
「ん? 何だい?」
「引き際と選択を間違えるなよ」
それだけ言って部屋を出ると、扉を閉める。
そして、ギルドを出ると、おすわりして待っている狛ちゃんをあやすロザリアがいた。
「よう」
「あ、こんにちは。話は終わりましたかね?」
ロザリアが立ち上がりながら聞いてくる。
「まあな。レイピアを金貨300枚で売ることになった」
「そうですか……ありがとうございます」
ロザリアが笑みを浮かべながら頭を下げた。
「お前は話に参加しなくても良かったのか?」
「亡くなられたアクセリナさんを私は知りません。彼女の後にパーティーに加入しましたから」
やはりか。
「お前はソロだったのか?」
「ええ。各地を旅しながら冒険者業で路銀を稼いでました。世界中の食べ物を食べるのが夢なんですよ」
それで旅するイルヴァと行動を共にしていたわけか。
「イルヴァとシーラ、フェリシアの揉め事はどうなってる?」
「中身まではわかりませんが、話はしたようです。以前のようなギスギス感はなくなりましたが、まだ完全に和解したようではないですね。でも、今回のレイピアで決定的になりました」
シーラ、フェリシアはもう続ける理由がないからな。
「引退か……」
「ええ。とはいえ、まだですけどね。今回の迷宮探索で最後です。多分、もうひと月もないでしょうけど」
長居はしない感じだったしな。
「気を付けろよ。一番死にやすい時期だぞ」
「わかってます」
「じゃあ、またな」
「はい」
俺達はロザリアと別れると、宿屋に向かい、AIちゃんと狛ちゃんを寮に帰した。
そして、戻ってきたリアーヌと共に町を見て回り、夜には昨日行った星降る食卓に行き、夕食を食べた。
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