第235話 攻略
俺達はさらに奥に進んでいき、魔物を倒していくが、そろそろ厳しい時間になってきそうだった。
「AIちゃん、まだか?」
さすがにもうナタリアのことを考えると引き返した方が良い。
それにナタリアだけではなく、アリスも結構魔法を使っているし、そもそもアリスも体力はない。
「この先をまっすぐ行けば終点です。そこまで行って、帰還しましょう」
「わかった」
この迷宮ももうすぐ終わりかと思いながらそのまま進んでいくと、魔力を感じた。
「ん?」
なんだ?
「マスター、いかがされましたか?」
AIちゃんが聞いてくると、皆が足を止めた。
「んー?」
首を傾げながら壁をじーっと見る。
「どうしたの?」
「…………壁に何かあるの?」
ナタリアとアリスも聞いてきた。
「ちょっと魔力を感じてな……」
「そうですか? 私のセンサーには引っかかりませんよ?」
「本当に微弱なんだ。タマちゃん、ちょっと見てくれ」
「にゃ!」
タマちゃんが俺が見ている壁をカリカリと爪で引っ掻く。
「爪とぎしてるようにしか見えない……」
「…………可愛いね」
確かに可愛い。
パメラやリアーヌがぞっこんになるのもちょっとわかった。
「タマちゃん、どうですかー?」
AIちゃんが聞く。
「にゃにゃにゃー!」
「ほうほう。それは興味深いですね」
いや、通訳。
「にゃにゃにゃん!」
「ふーむ……」
AIちゃんが腕を組んで考え込み始めた。
「訳してよー」
「…………気になる」
2人も気になるようだ。
「あ、すみません。マスターが言うように確かにこの先に何かあるようです。これまで以上の隠蔽魔法がかかっているうえに微弱に感じる魔力も実際はかなり大きいだろうとのことです」
タマちゃん、よくわかるな。
「それで?」
「メレルが言っていた迷宮のコアがあるんじゃないかにゃって言ってます」
コアか……
「ありえるな」
「私もその可能性が高いと思います。迷宮は明らかに意思があり、しかも、狡猾です。そんな迷宮が心臓を隠すならわかりやすいところではなく、ただの通路に隠すのは十分に考えられることです」
もし、俺が迷宮でもそうする。
手前は怖いし、隠すなら奥だ。
でも、一番奥も怪しいからその手前付近の何でもない通路に隠すな。
「迷宮のコアと仮定して、放っておく、でいいな?」
「はい。やはり迷宮は残すべきでしょう。後の人が困りますし、睨まれるのも嫌です」
昨日、決めた通りだな。
「よし、スルーして、奥に行こう」
「ですね」
俺達はこの場をあとにし、奥に進んでいく。
すると、行き止まりだったのだが、宝箱が置いてあった。
「2つ目か」
運が良いな。
「きっとスルーしてくれた迷宮さんのお礼でしょう。タマちゃん、罠は?」
「にゃー」
「よしよし。では、私が開けてきます」
どうやら罠はないらしく、AIちゃんが宝箱に近づく。
そして、腰を下ろした。
「お宝と女はー、ぜーんぶ、マスターの物だー!」
AIちゃんが野盗みたいな掛け声で箱を開ける。
「………………」
AIちゃんは箱の中を見たまま何も反応しない。
「どうしたー?」
AIちゃんが箱の中身のものを取ると、こちらに戻ってきた。
「…………はい」
AIちゃんが握った小さな手を差し出してきたので手を出す。
すると、俺の手の中にコインが見えた。
「銅貨?」
しかも、1枚だ。
安い……
「マスター、迷宮を始末し、高い魔石を持って帰りましょうか……」
AIちゃんが真っ黒な笑みを浮かべ、提案してくる。
「やめとけっての。死んだ冒険者の持ち物が出てくるんだから銅貨だって十分にあり得るだろ。そういうこともある」
迷宮はナイフが落ちることもあれば、金貨80枚の杖が落ちることもあるのだ。
「ぜーったい、嫌がらせですよ! 殺しましょう! 偉大なる金狐様のご子息である如月家当主たるマスターへの侮辱です! 死あるのみ!」
「放っておけ。許すのもまた人の道だ」
当主ならそういうのも大事だ。
じゃないと、どっかの孤独な蛇になってしまう。
「マスターが許す……この迷宮さん、メスなのかな……?」
なんでだよ。
「いいから帰るぞ」
「はーい」
俺達は来た道を引き返していった。
だが、行きとはまったく異なり、罠が1つもなかった。
多分、AIちゃんにビビったと思われる。
そのおかげもあり、帰りは楽に戻れ、夕方になる前には迷宮を出ることができた。
「罠がなかったね……」
「…………うん。見事に」
外に出ると、ナタリアとアリスが俺をじーっと見てくる。
「AIちゃんが脅すから迷宮さんがビビったんだろ」
「絶対に庇ってくれたマスターに惚れたんですよ」
んなわけねーだろ。
だったら帰りで遭遇した魔物から良いものが出るわ。
魔石だけだったじゃねーか。
「そんなことより、地図は完成したか?」
「はい。バッチリです。金貨100枚は踏んだくってやりましょうね」
そんなに取れるかね?
「ユウマ、まだちょっと早いけど、どうする?」
ナタリアが聞いてくる。
「そうだなー……行きたいところでもあるか?」
「うーん、買い物? でも、リリーも連れていってあげた方が良いしなー……」
あいつ、好きだもんな。
「…………ユウマ、5-5迷宮を見に行かない?」
アリスが袖を引っ張ってくる。
「5-5? 5番ギルドの最難関か?」
「…………うん。5-1迷宮も終わったし、一番すごいところがどういうところかだけでも見に行こうよ。別に中は入らなくてもいいからさ」
うーん、ちょっと時間が余ってるし、覗いてみるだけなら行ってみるか。
「じゃあ、そうするか」
「…………れっつごー」
「「ごー」」
ごー。
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