第231話 やめろ
「まあ、わかったわ。このことはウチの王様にも伝えるぞ」
「いいよ。もうレジスタンスとは関係ないしね。田舎でのんびり暮らすから」
どうかねー?
俺には新たなる火種が生まれたとしか思えんな。
「頑張れ。くれぐれもスヴェンを止めるんだぞ」
「わかってる。未亡人はごめんよ」
「ん? 結婚したのか?」
「そのうち! 全然、構ってくれないし!」
こいつら、本当に付き合ってんの?
なんかそこも怪しくなったな……
「よくわかんないけど、メレルは種が欲しいんだよね? 買ってこようか?」
リリーがメレルに聞く。
「そうです。魔大陸で育つようなやつですね」
メレルがうんうんと頷いた。
「やっぱり芋だよね?」
「それが確実かな?」
リリーとナタリアが顔を見合わせる。
「ついでに芋料理を教えてもらえません? ウチの連中、ロクに料理もできないんですよ」
「お前は?」
「得意ではないです」
メレルも軍人だしな。
「それくらいならいいですよ」
「芋は調理も簡単だしね」
そうなの?
「ありがとうございます。ユウマさんはバケモノですけど、あなた達は人間が本当にできていますね……感謝するんですよ?」
なんか上から目線で忠告してきた……
「はいはい。じゃあ、ちょっと種でも買ってくるわ。ナタリア、リリー、付き合え」
そう言った瞬間、AIちゃんがコタツに潜っていった。
寒がりな子ギツネは外に出たくないらしい。
「わかった」
「いいよー」
AIちゃんとは違い、2人は快く頷いてくれる。
「ねえねえ、私も行っていい?」
メレルが聞いてきた。
「は? お前、魔族だろ」
何を言ってんだ?
「ちゃんと隠蔽するから。人族の生活が見てみたい。そして、参考にしたい」
この町を?
「この町は特殊なんだが……」
4つに分かれているという他国の者にすらバカにされている町だ。
「村を作ったんだけど、どいつもこいつも脳筋で困ってるのよ」
まあ、全員、軍人だしな。
「絶対にバレるなよ?」
「大丈夫、大丈夫。私の隠蔽魔法は超すごいから。実際、あなただって私が屋上にいたことに気付かなかったでしょ」
気付かなかったな。
屋上にいるカラスちゃんからも何も反応がなかった。
「じゃあ、まあいいか。お前らはどうする?」
一応、他のメンツにも聞いてみる。
「…………行かない」
まあ、アリスが行かないのはわかっていた。
「今、ちょっと手が離せなくて……」
「すみません」
パメラとリアーヌはタマちゃんと遊ぶのに忙しいらしい。
「狛ちゃんを散歩に連れていってあげてー……」
アニーが布団から両手を出し、お願いのポーズを取る。
「はいはい」
別に狛ちゃんは散歩不要な式神なんだけどな。
「あの人、なんで寝てるんです? 徹夜でした?」
「ちょっとな……」
「あっ……私としたことが……すみません」
この魔族、ちょっとうざいんだよな。
「いいから行くぞ」
俺達は部屋出ると、玄関に向かった。
「狛ちゃーん、散歩行くぞー」
エントランスの端の方で寝ている狛ちゃんに声をかけると、すぐに起き上がり、尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
「散歩、好きなのか?」
狛ちゃんが首を縦に振った。
「ふーん……」
俺達は狛ちゃんを連れて、外に出ると、ナタリアとリリーの案内で町中を歩いていく。
「この町はいいですよねー。程よく発展しているのに穏やかで。住みやすそうです」
「そんな町を滅ぼそうとしたのがお前らだけどな」
よく言うわ。
「そんなこと言われてもねー……仕事ですもん。お金を稼がないと生きていけませんし、仕事はきちんとしないと!」
「母上相手に尻尾を巻いて逃げたけどな」
そう聞いている。
「私は賃金に見合った仕事しかしないのです」
ああ言えばこう言う……
「その能力に見合った仕事はせんのか? 隠蔽能力があるし、こっちの大陸でも稼げるだろ」
「スヴェン様がいなかったらそういう生活をしていたと思いますね。冒険者にでもなって、適当に稼いで生きていきます。だって、こっちの方がご飯が美味しいですもん」
以前も美味そうに食べてたな。
「スヴェンはそういう生活をせんのか?」
「無理でしょ。スヴェン様は隠蔽魔法を使えませんし、あの人、戦うことしか頭にないんですもん。軍部に入った動機もそれですし」
脳筋だなー。
「そんな男のどこが良いんだ?」
「色々ありますが、あなたより誠実なところと言っておきます」
あっそ。
俺は魔族以下かい。
「AIちゃんがユウマは誠実すぎたからいっぱい奥さんがいたって言ってたね」
「ユウマは本当に誠実だもんね!」
素直なナタリアとリリーにそんな気はないんだろうが、嫌味にしか聞こえんな。
「私には理解できませんね。ユウマさんもあなた達も……」
「種族が違うからだな」
「絶対に違う……なんならリリーはエルフでしょ。10年後にあなたと再会し、周りに魔族がいてもまったく驚かないわね」
そこは驚け。
「もう魔大陸に行くこともないだろうし、魔族と親しくすることもないな」
「どうでしょうねー? そういえばですけど、今は何をしているの? 暇人?」
この前までは暇だったな……
「いや、仕事をしているぞ。昨日、一昨日とアクサ共和国に行ってた」
「アクサ? 隣の国じゃないの……あ、転移があったわね」
「お前って、この辺の国々に詳しいのか?」
「偵察に来たことが何回もありますからね。飛べますし、私は簡単に侵入できるんですよ」
こいつ、結構、危ないんだよな。
思想がなく、仕事に対してドライだからいいものの暗殺とかもできそうだ。
「町には入らんのか?」
「バレた時のことを考えればね……今は安心。最悪は捕らえた魔族ってことにして。ちゃーんと涙目でご主人様って呼ぶから」
それ、俺が変な目で見られないか?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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