第230話 久しぶり
翌日は朝から皆が俺の部屋に集まり、思い思いに過ごしていた。
ナタリアは編み物をしているし、リリーは蛇の置物を彫っている。
アリスは本を読んでおり、その横でパメラとリアーヌがタマちゃんと遊んでいた。
なお、アニーは生首状態で寝ている。
「実際、いくらくらい稼いだら良いと思う?」
俺とAIちゃんは屋敷について話し合っていた。
「どうですかねー? ちょっと不動産屋にでも……ん?」
寝ているアニー以外が一斉に扉の方を見る。
何故ならノックの音が聞こえたからだ。
「どうぞー」
声をかけると、扉が開き、レイラが顔を出す。
まあ、この寮にいるのはレイラだけなのでわかってはいた。
「ちょっといいか?」
「どうしたんだ? お前がここに来るなんて珍しいな」
というか、記憶にない。
「いや、なんか屋上に変なのがいてな。ウチの蛇が捕まえたんだが、お前を出せってうるさい」
はい?
「何を言ってんだ、お前?」
「私も知らん。とにかく、お前の女かなんかだろ。こんなところに魔族を呼ぶな」
え?
「魔族?」
「ほら」
レイラがそう言うと巨大な蛇に巻き付かれた黒髪の女がしくしくと泣きながら入ってきた。
「メレルじゃん」
こいつ、何してんだ?
「助けてー……食べられるー……」
メレルが涙目で懇願する。
「あー、レイラ、こいつはこの前の魔族侵攻の時に味方だった魔族だ。解放してくれ」
「ふーん」
レイラが蛇を見ると、すぐに姿が見えなくなる。
すると、メレルが慌てて、部屋に入ってきて、ナタリアを盾にして隠れる。
「お前の蛇が怖いんだと」
ガチの人食い蛇だから気持ちはわかる。
目がめちゃくちゃ冷たいし。
「知らんわ。どうでもいいが、気を付けろよ。今はまだ魔族に対して敏感な時期だからな」
レイラはそう言うと、部屋を出ていった。
「あー、怖かった……私、どんどん嫌いなものが増えていきますよ」
メレルが腕で汗をぬぐう。
「いや、お前、何してんの?」
「あ、お茶もらえません? いつ食われるのかの緊張で喉がカラカラです」
可哀想に……
「ナタリア、淹れてやれ」
「うん」
ナタリアがお茶の準備をしだすと、メレルが以前に座っていたアニーの場所に行く。
「あ、いたんだ……起きてー。半分、譲ってよ」
メレルがアニーの首を揺する。
「なに……? 眠いんだけど」
「眠いなら布団に行きなさいよ」
「ったく……なんでこいつがいるのよ……」
アニーはコタツから出ると、そのまま布団に行き、掛け布団を被って寝てしまった。
「どうぞ」
ナタリアがメレルの前にお茶を置く。
「ありがとー。いやー、相変わらず、ただれた部屋ですねー。女の匂いしかしないわ」
うっさい。
「それを言いにわざわざ来たのか?」
「違う、違う。ルドーの町であなた達と別れたでしょ? その後すぐに芋の種をもらってないことに気が付いたわけ」
あー……そんな話もあったな。
「捨て台詞を吐いた後だったから戻れなかったわけね」
「いや、あっちはあっちで大変だったのよ。それはもう……」
まあ、ボスだったフォルカーは死に、大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんが大暴れしたあとだったもんな。
「あれからどうなったんだ?」
「それを教えるからそっちも教えて。フォルカーが言ってた地獄の魔獣ケルべロスとやらはどうなったの?」
あの三つ首の犬ね。
「ウチのAIちゃんが倒したぞ」
「わはは! 偉大なるツバキ山の金狐様に勝てる者はいないのだ!」
AIちゃんが高笑いをしながら胸を張る。
「あの化け物か……トレッタにいた軍は?」
「生き残りはいないと思うな」
AIちゃんとケルベロスの争いに巻き込まれ、さらには軍が追撃し、全滅させたはずだ。
「なるほど……じゃあ、軍部は完全に終わったわけね」
「そっちはどうなんだ?」
ちょっと気になる。
「ウチもレジスタンスが動いて、残っている軍を掃討したわ。フォルカーが死んだ時点でどうしようもなかったのに不満を持っていた町の人もレジスタンスに加わったから一気よ」
あのエロい宿屋の主人の反応からしてもそうだったな。
「へー、じゃあ、軍部を倒して、平和を取り戻したのか?」
「まあ……」
メレルが言い淀む。
「何かあったのか?」
「ほら、レジスタンスの連中が広場で処刑されたでしょ?」
「あったな。ひどいもんだった」
男は斬首、女は……
「レジスタンスがそれと同じことをしちゃった。捕らえた軍の者や降伏した者を引きずり出してね……」
復讐か?
「悪手だろ」
降伏した者は許せよ。
罪に問うのはいいが、殺してはダメ。
「まあ、そんな感じ。それでレジスタンスは悪名が付いちゃったし、降伏しても無駄と思った軍の生き残りは逃げちゃった」
「アホだなー」
不穏分子を残しやがった。
しかも、遺恨付き。
「まあ、所詮はレジスタンスも統率が取れていないからね。それでいて、レジスタンスのリーダーが内通者がいた件で猜疑心に苛まれちゃってるのよ」
そりゃダメだわ。
「お前はどうしたんだ?」
「これはヤバいと思って、さっさと料金をもらって逃げた。リーダーに引き止められたけど、元軍部の私は絶対にロクな目に遭わないと思った」
「正解だ。処刑で済めばいい方だぞ」
隠密は信用されないだろうし、メレルは気配を消すことや人に化けるのが上手すぎるのが良くない。
しかも、スヴェンという武闘派の幹部の彼女。
猜疑心に苛まれた男が信用するはずがない。
「あ、やっぱり? 絶対に嬲られてみせしめコースだと思ったわ。実際、逃げた時に追ってきたしね。まあ、あんな連中に捕まるわけないけど」
メレルは隠密に特化してるし、飛べるからな。
「それでどうしたんだ?」
「スヴェン様のところに行って、報告した」
「あいつは何て?」
「絶対にユウマは死んでないって言ってる」
そこかい……
あいつ、俺のことを好きすぎるだろ。
「諦めさせろよ」
「いやー、どうかなー? なんか風魔法を覚えてた。竜巻が起こるやつ」
しょうもな。
「それで俺に勝てると思ってんのかね?」
「思ってないから現在も修行中。今は山のふもとで一緒に暮らしているんだけどさ、なんか軍の生き残りの人達もスヴェン様を頼ってついてきていて、なんか村ができた」
新たなる軍部の誕生である。
皆に担ぎ上げられたスヴェンが第2のフォルカーになるのが見える。
「それで芋か?」
「そうそう。人が増えたし、肉とか魚だけではね……」
「お前、スヴェンにつけられてないよな?」
大丈夫か?
「大丈夫。スヴェン様は飛べないし、あの人は修行モード。おかげで全然相手してくれない」
「ダメな男だな」
「スヴェン様もあなたにだけは言われたくないと思う」
失礼な。
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