第220話 そんな気はない
俺達は顔を上げ、見合わせる。
そして、一斉にAIちゃんを見た。
「ご、ごめんなさい……任せておけと大言を吐いたのに……」
AIちゃんがしゅんとする。
「いや、お前のおかげで死なんで済んだわ」
俺やリリーなら対処できるかもしれんが、鈍い女3人は絶対に無理だ。
「そうよ。というかね、AIちゃんうんぬんよりさすがに対策をしなさすぎよ」
アニーの言う通りだと思う。
「舐めすぎたか……」
「あんたは何段も飛んでAランクになったからわからないでしょうけど、冒険者っていうのは一段一段学んでいき、少しずつ上に上がっていくの。この迷宮もそうでしょう」
初心者用の迷宮からやるべきなんだろうな。
「でも、それだと時間がかかるぞ」
「わかってるわよ。だから話し合いましょう。少なくとも、今の状態で進むのは良くないわ。傍から見たら私達って、バカなハーレムパーティーそのものよ」
うーん……
「嫌な称号……」
「事実でしょ。あんたのハーレム御殿のための資金集めで迷宮都市にやってきて、ろくに調べずに上級の迷宮に挑む……それでこれよ? 全滅フラグ満載」
「まあなー……」
ハーレム御殿は嫌な名前だが、概ねその通りだ。
「もう少し、調べましょう。出てくる魔物も上級なだけあって強いわ。魔大陸のゾンビよりも強い」
「アリスの火魔法で2発だからな」
「私でも同じよ」
それはそうだろうな。
「AIちゃん、成果は?」
「魔石が5個。シミターが1本ですね。ここまで1時間でそれですからかなりの儲けになると思います」
「いくらになるかは知らんが、すごいな」
「完全なハイリスクハイリターンですね。これに目がくらんだ者が死ぬんでしょう」
そして、死んだ者の装備を求め、また死ぬ。
「迷宮さんは賢いな」
そして、狡猾だ。
「…………ねえ、この部屋に来てからやけにリラックスしない?」
アリスがぽつりとつぶやく。
「してるな」
ドキドキ感もなくなり、かなり落ち着いている。
「心なしか疲れも取れている気がする……」
「まだいけると思うなー」
「そうね……これ、そういう風にして、もっと奥に行かせようとしているみたいね」
多分、そう……
「マスター、いかがしますか?」
「別にここがそうじゃなくても1時間では疲れない。だが、帰るぞ。今日はお試しだ」
その結果、AIちゃんが死んだ。
生きてるけどな。
「わかりました。帰りは来た道を引き返します。ですが、罠の可能性は消えておりませんので私の後ろを歩いてください」
AIちゃんには悪いが仕方がないか。
俺達は机と椅子をしまうと、来た道を引き返していく。
道中で罠にかかることはなかったが、魔物が出たのでさらに魔石を3つほど得て、迷宮から脱出した。
「なんか疲れたー……」
「…………帰りは緊張感がすごかったね」
「AIちゃんが死ななくて良かったよー」
「私達って基本的にユウマとAIちゃんの探知に頼っているからこういうのがダメなんでしょうね」
俺もちょっと疲れたなーと思っていると、町の方から4人組の冒険者パーティーがやってきているのが見えた。
そのパーティーは若い女性のみで構成されているのが気になる。
「お好きですねー」
俺の視線に気付いたAIちゃんがにやにやする。
「そういう意味じゃない。珍しいなって思っただけだ」
セリアでも王都でもあまり女性だけのパーティーは見ない。
「確かに珍しいですね。ましてや、ここは上級だというのに……そうだ!」
ん?
AIちゃんは何かを思いついたようでいきなりその4人のもとに走っていった。
「AIちゃーん、どこいくのー?」
リリーが声をかけるがAIちゃんはガン無視で走っていく。
すると、4人の横を通り過ぎようとした瞬間、AIちゃんが転んだ。
「わざとらしい……」
アニーがぽつりとつぶやく。
でも、俺もそう思う。
その証拠に4人の女性冒険者はAIちゃんを心配して、囲んでいた。
さらには鎧を着た金髪の女性に手を差し出されて手を握りながら起き上がり、赤髪の強そうな戦士の女性に服をはたかれ、さらには短い茶髪の子に背中をさすられている。
もう1人の青みがかかった黒髪の女性はそんなAIちゃんを心配そうに見ていた。
そして、AIちゃんが金髪の女性に手を繋いだままこちらにやってきた。
「君の子かい?」
AIちゃんと手を繋いだ金髪の女性が聞いてくる。
女性は長い金髪を三つ編みにしており、前に垂らしている。
白銀の全身鎧は絶対に高いし、腰に着けている剣も高そうだ。
そして何より、この女性を含め、4人全員からそこそこの魔力を感じる。
やはり高ランクの冒険者だろう。
「子供ではないが、ウチの者だな。迷惑をかけた」
「あまり子供を一人で走らせないことだ。ここはお世辞にも治安が良いとは言えない町だからね」
まあ、冒険者ばかりだからな。
「わかった。ほら、AIちゃん、お姉さん達に礼を言え」
「ありがとうございます」
AIちゃんがわざとらしく、しゅんとなってお礼を言う。
でも、いまだに金髪の女性の手を離さない。
「良いんだよ。これも騎士の務めさ」
騎士なの?
冒険者では?
「すまない。これからこの迷宮に行くところか?」
「そうだが……君達は見ない顔だね? 上級の迷宮に挑むのはそこまで多くないから顔と名前は憶えているんだが」
やはり少ないのか。
迷宮でまったく会わなかったしな。
「今日、ここに着いたんだよ。ライズのセリアから来たんだ」
「ん? セリア?」
金髪の女性が後ろにいる自分のパーティーメンバーの1人を見た。
その女性は青みがかかった黒髪であり、気まずそうにしている。
「いや、すまん。迷宮に行くんだろ? 俺達も帰るところだし、行ってくれ。またどこかで会えたら話そう」
AIちゃんが手を離したし、もういいだろう。
「そうか? では、またな」
俺達は道を譲り、4人が迷宮には行っていくところを眺める。
そして、4人が階段を降り、姿が見えなくなったのでAIちゃんを見た。
「インストール完了」
AIちゃんがにやりと笑う。
「性悪だなー」
母上にだけには似てくれるなよ。
「マスターこそ、ちゃっかりまたどこかで話そうと次に繋げているじゃないですか。あの人、絶対に既婚者じゃないでしょ」
まあ、既婚者ではなかったと思うが……
「有益な情報を得るためだ」
「そうですか。では、そういうことで……」
AIちゃんがニターっと笑う。
その顔、やめろ。
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