第219話 迷宮の罠
その後も迷宮内を歩いていくと、魔物に遭遇した。
メイジベアなる熊を始め、でっかいトカゲに蛇、さらには人食いゾンビなんかも現れたのだが、俺が仕留めるか、後衛の女性陣の魔法や矢で倒していく。
「見事にBランク以上の魔物しか出ないね。さすがは上級」
「…………ほとんど見たことない魔物だよね」
「でも、魔石しか落ちないよねー」
「十分よ。魔石の質から見てもすでにかなりの儲け。迷宮が人気になる理由もわかるわ」
魔物を探さなくてもいいのが大きい。
勝手に質の良いのがコンスタントに出てくるし、これは儲かるわ。
「また来たな……アリス、ゾンビだ。燃やせ」
「…………わかった」
アリスが杖を通路の奥に向けると、奥からゆっくりと人型のゾンビが現れた。
そして、大口を開けて、走ってくる。
「…………燃えろ」
アリスが火魔法を放つと、ゾンビに直撃した。
しかし、それでもゾンビの勢いは落ちない。
「…………もう一発」
アリスが連続で火魔法を放つと、またもやゾンビに当たり、一気に燃え上がる。
すると、ゾンビの動きが緩やかとなり、数歩歩いて倒れた。
「…………うーん、すごい生命力。私の魔法ではきついかもしれない」
ただのゾンビじゃないからなー。
走ってくるし、明らかにこれまで俺達が倒してきたゾンビと異なっている。
「ユウマ、ユウマ、魔石じゃないのが落ちてるよ」
ナタリアが肩を叩いてきた。
「んー? ナイフか? でも、でかいな」
煙となって消えたゾンビが倒れているところに刃渡りが50センチくらいある赤い剣が落ちている。
すると、下がっていたAIちゃんが拾いにいき、戻ってきた。
「マスター、これはシミターですね。魔力がこもっているところを見ると、魔剣のたぐいかと思います」
「ふーん……」
AIちゃんからシミターを受け取り、見てみる。
「確かに魔力は感じるな」
でも、こんな短い剣はいらない。
女性陣も使うことはないだろう。
「どうする? 売るの?」
ナタリアが聞いてくる。
「そうなるかな……どこで売るんだろ? 武器屋か?」
「外の露天商は? そういう買取もしてるんじゃない?」
なるほどな。
「ちょっと待ちなさい。ああいうところにいる露天商はダメよ。安く買い取られるに決まってるわ。こういうのはちゃんとした店で売った方が良い」
アニーが止めてきた。
「ちゃんとした店ってどこだ?」
「知らないけど、ギルドでジーナに聞けばいいでしょ」
なるほどな。
「思うんだが、俺達、何も知らなすぎやしないか?」
「迷宮に入った時からずっとそう思ってる。出てくる魔物も知らないし、売るところもわからない。ちょっと考えた方が良いと思うわよ」
「そうだな……AIちゃん、セーフティーエリアは?」
AIちゃんに確認する。
「もうすぐです。まずはそこに行って相談しましょう」
「そうしよう」
AIちゃんにシミターを渡し、収納してもらうと、再び、歩き出し、セーフティーエリアを目指す。
その間もAIちゃんは地図を描きながら歩いていた。
「そういえばですけど、他の冒険者の方ともすれ違わないですね?」
AIちゃんが振り向いて聞いてくる。
「そうだな。上級らしいし、少ないのかもしれん」
「他の迷宮ならもっと魔石以外も落ちそうですね」
人が多い分、死ぬ人間も多い。
すなわち、落ちる物も多いということだ。
「安いものを拾ってもな……その辺の塩梅もわからんな」
情報不足がひどい。
「もうちょっと情報を集めた方が――うひゃぁぁー!」
「え!?」
「…………あれ?」
「AIちゃん!?」
「消えた?」
AIちゃんが消えた。
というよりも、AIちゃんの足元に穴が開き、一瞬にして落ちたのだ。
AIちゃんが持っていた描きかけの地図がひらひらと舞い、床に落ちる。
「AIちゃーん?」
落とし穴を覗くが真っ暗で見えない。
『マスター……死んじゃいましたぁ……穴の下にあった槍で串刺しです』
可愛いAIちゃんが串刺しかー……
懐から護符を取り出し、投げる。
すると、AIちゃんが現れた。
「ふっかーつ!」
AIちゃんがドヤ顔で胸を張る。
「いや、ふっかーつじゃないわ。何してんだ、お前……」
ちゃんとサーチしろ。
これが他の人間だったらお陀仏だぞ。
「いや、ちゃんとサーチはしていたんですけどね……」
AIちゃんが腰を下ろして落とし穴を見る。
「地図を描いてたからじゃないか?」
「うーん、マルチでハイスペックな人工知能の私はそんなことで集中力が途切れることはないです。これは……ちょっと高度な隠蔽魔法がかかってますね」
隠蔽魔法……
「ダメじゃん」
「と、とりあえず、この先がセーフティーエリアなのでそこで話しましょう。私が先導します。皆さんは私の歩いた後ろを歩いてください」
マジかよ……
俺達は慎重にAIちゃんのあとを追いながら進んでいく。
すると、とあるフロアに入ったのだが、違和感というか澄んだ空気を感じた。
「ここがセーフティーエリアか? 明らかに空気が変わったな」
「間違いないと思います。ここでは魔物も出ませんし、罠もありません。少し休みましょう」
AIちゃんはそう言うと、前にリリーが作ってくれた簡易のテーブルと人数分の椅子を取り出した。
俺達は椅子に座ると、一斉にふーっと息を吐く。
なんか緊張感が一気に取れるような気がしたし、心が安らいでいく気がした。
今週は明日も投稿します。
よろしくお願いします!