第217話 いざ初迷宮
俺達はギルドを出ると、裏に回る。
すると、看板がかけられた宿屋があった。
「月影亭……ここかな?」
「…………確かにギルドの裏だし、ここじゃない?」
ナタリアとアリスが看板を見上げていると、リアーヌとアニーが扉近くに貼ってある料金表を見る。
「高いのう……」
「こういうところは高めになるからね。多分、安い方でしょ」
「致し方ないか……治安は良さそうだし」
リアーヌが周りを見る。
冒険者はいるものの、荒くれ者がいる雰囲気ではない。
「ギルドの裏だからね。あんたが一番知ってると思うけど、ギルドに睨まれた冒険者は悲惨よ。逆も然り」
「まあのう……」
パメラとリアーヌのおかげでめっちゃ優遇されてるからな。
何なら前に飯をおごってやった時にケネスに感謝されたわ。
おかげさまで忙しくはなったもののギルマスが丸くなって助かったって……
「ユウマ、ここにする?」
リリーが聞いてくる。
「まあ、おすすめされた場所だからな。入ってみよう」
俺達が店の中に入ると、掃除をしている女の子がいた。
「いらっしゃいませー。お泊りですか? 御休憩ですか? 御休憩の方は別の宿屋に行ってくださーい」
どんな挨拶なんだ?
というか、休憩ってなんだ?
宿屋じゃないのか?
「泊まりだ。今日、この町に来たんだが、表のギルマスにここを紹介されたんだ」
「へー、5番ギルドですか……お客さん、高ランクの冒険者?」
「Aランクだな」
「ほー……それでそんなに囲えるんですね」
店員が女性陣を見渡す。
この反応にも慣れてきた。
「まあ、そんなところだ。大部屋の部屋を借りたい」
「かしこまりました。夕食や朝食はどうされます?」
「いや、大丈夫だ」
家に帰るし。
「はーい。では、201号室です。1泊で金貨3枚になります」
店員は受付に戻り、鍵を取り出してくる。
「一応聞くが、高くないか?」
「迷宮都市はすべての物価が高いんですよ。これでも頑張ってる方です」
アニーの言う通りか。
「わかった。ちょっと部屋を見たら迷宮に行ってくるわ」
「気を付けてくださいね。そう言って帰ってこなかったお客様も結構おられます」
店員からしたら後味悪すぎるな。
「ああ、気を付ける」
俺達は階段を昇り、201号室に入る。
部屋は確かに大部屋であり、かなりの広さだ。
これで金貨3枚なら仕方がないかと思える。
俺達は奥にあるローテーブルとそれを囲む4つのソファーがある場所に行き、一息ついた。
面白いもので座る位置が家と一緒だ。
「マスター、とりあえず、拠点ができましたね」
隣に座るAIちゃんが両腕を伸ばす。
「そうだな。リアーヌ、ここまでありがとうな。助かったわ」
感謝しながらリアーヌの頭を撫でた。
「いえ、これくらいならお安い御用です。では、私は一度、セリアに戻ってから王都に行こうかと思います。夕方くらいにここに迎えに行きますので」
うーん、遅くなれば待たせることになり、早かったら待つことになるな。
「リアーヌ、蜂さんを連れていけ」
護符を取り出し、蜂さんを出す。
もちろん、でっかい蜂さんではなく、小さい虫サイズの蜂さんだ。
蜂さんはぶんぶんとリアーヌの周りを飛ぶと、リアーヌの服に止まった。
「おー……なんでですかね? 小さい方が刺してきそうです」
「蜂さんは温厚だったろ。そんなことせん」
こいつはまだ血肉の味を覚えてないからな。
「これで連絡を取るわけですか?」
「ああ。式神達はAIちゃんと通じているからな」
「わかりました……おい、知らせる場合は私の前を飛べよ。絶対に刺すなよ」
リアーヌが蜂さんにそう言うと、蜂さんがリアーヌの前を飛んで丸を描いた。
「大丈夫だってさ。俺の部屋は好きに使っていいからパメラと待っていてくれ」
「わかりました。では、ここで私は失礼しますが、お気を付けてください」
「わかってる」
「それでは……」
リアーヌが一瞬で消えてしまった。
「マスター、どうします?」
「いい時間だし、早めに昼食を食べて、迷宮に行こう」
昼にはちょっと早いが、迷宮内で食べるよりかはいいだろう。
「あ、お弁当作ってきたよ」
ナタリアが弁当を取り出して、皆に配る。
「お前一人で作ったのか?」
「ううん。リリーと2人で作った」
良い子達だわ。
「じゃあ、食べようか」
俺達は皆で弁当を食べだす。
「迷宮は弁当かね?」
「リアーヌさんがいませんからね。いたら帰れるから便利なんですけど」
確かになー。
でも、あいつはあいつで忙しい。
今回は王様の依頼ではなく、完全に俺達の仕事だから無理に連れていくことはできない。
「セーフティーエリアで食べるんじゃない? もしくは、交代交代」
「そんなところか……」
俺達は弁当を食べ終えると、一息つく。
そして、最後の確認をした。
「さて、俺達も5-1迷宮に行ってみるか」
そう言って立ち上がると、皆も立ち上がる。
「そうだね」
「…………初迷宮だ」
「頑張るぞー!」
「一生、縁がないと思っていたんだけどねー……」
俺達は宿屋を出ると、看板を見ながら街中を歩いていく。
なお、リアーヌがいなくなったのでアニーが狛ちゃんに乗っていた。
「マスター、看板だらけですね」
AIちゃんが言うように柱のようなものがそこら中に建てられており、迷宮だけでなく、ギルドや役所、さらには店なんかを案内する看板が埋め尽くすように建てられている。
おそらく、建物が乱雑に建てられ、道が複雑になっているからだろう。
ものすごいごちゃごちゃした町だ。
「多分、冒険者が集まって複雑化した町だからだろ」
都市計画がまるでなってない。
セリアの町を笑えんぞ。
「看板がないと迷子になりそうですね」
「多分、それで真ん中にでっかい時計台を建てたんだろ。ここからでも見える」
「目印なわけですか……住むには適した町ではないですね」
確かに住みたくない。
完全な出稼ぎの町だな。
「リリー、はぐれるなよ」
「大丈夫だよぅ」
リリーはそう言いつつ、俺のもとにやってくる。
そして、そのまま看板に指示されるがまま歩いていくと、建物を抜け、広場に出た。
「あれが迷宮ですかね?」
AIちゃんが聞いてくる。
確かに広場の先には洞窟が見えた。
しかし、辺りは平野なので縦穴なことがわかる。
「他にそれらしいのはないし、そうだろうな」
「なんか露天商もいますね」
数店だが、迷宮入口付近に集まっており、それらを覗く冒険者もいる。
「金になるんだろ。とりあえず、あの洞窟に行ってみよう」
俺達は広場を歩き、迷宮の入口らしき洞窟に近づいていった。
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