第216話 迷宮説明
「どんな内容かは知らんし、お前がどう思おうが勝手だが、俺はセリアから出ないからな」
これだけ言っておかないと。
「はいはい。たまにいるんだよなー、こういう連中。男は一人で我慢できず、女も喜んでついていく……やれやれ」
「こういうことを言っていた女性が10番目の奥様でしたね。でも、秒で――」
AIちゃんの口を塞ぐ。
「お前はちょっと黙ってろ」
AIちゃんを下がらせ、ナタリアに任せた。
すると、頬を染めたリアーヌが無言でAIちゃんの頭を叩く。
「あ、即落ちはリアーヌさんもでしたね」
「うるさい」
ナタリアも目を逸らしてるな……
「嫌なのが来たなー……」
「気にするな。それよりも迷宮について聞きたい。50を超える数があると聞いたのだが……」
「53ヶ所あるね。その内、ウチが担当しているのが5ヶ所だ」
5ヶ所が多いのか少ないのかはわからない。
「どこがいい?」
「まずは5-1に行きな」
5-1?
「なんだそれ?」
「迷宮名だよ」
「数字なのか?」
「昔は各迷宮にちゃんとした名前があったよ。でも、覚えられなかったり、管理が面倒だったりしたんですべて数字を割り当てたんだ。ウチのギルドの番号が5で、その中の1番目の迷宮って意味さ」
なるほど。
管理側の都合か。
「一番儲かるっていう意味の1か?」
「うんにゃ、逆。一番楽って意味。5-5が最難関だね」
楽なのか……
「稼ぎたいんだが?」
「実力があるのはわかったけど、迷宮は危険なんだよ。まずは慣れな。言っておくけど、5-1だって上級者エリアだからね」
まあ、お試しか……
「場所は?」
「北だね。あちこちに看板があるからすぐにわかるよ」
迷宮が中心だからだな。
「じゃあ、そこに行ってみようかな……アドバイスはあるか?」
「罠には気を付けな」
「罠?」
「そこも知らないのにいきなり上級の迷宮に挑むのかい……」
ジーナが呆れる。
「その辺を聞きに来たんだよ」
「わかった、わかった。迷宮は洞窟だけど、中はかなり広い。道も一本道ではないし、複雑な迷路なんだよ。その中で魔物が出てくるし、罠もあるから危険なんだ」
「地図はないのか?」
「あるよ。めちゃくちゃ高いけどね。ただ、魔物がリポップする場所や罠の位置は常に変わっているんだ。行きは大丈夫だったけど、帰りに落とし穴に落ちるっていうのは初心者が最も死ぬパターンだよ」
そりゃ死ぬわ。
「危ないなー」
「それが迷宮。でも、リターンもある。魔物は魔石や高価なものを落とすし、宝箱なんかもある」
「宝箱ってなんだ?」
「宝が入った箱。良いもんが入ってるよ。もちろん、場所はランダムだけど」
へー……
俺ならその手前に落とし穴を設置するな。
「罠ねー……」
「まあ、あんたのパーティーはエルフがいるだろ」
んー?
「確かにいるが、なんで?」
「エルフはそういう罠を見つけるのが得意な種族だ。見た感じ斥候だろ?」
「斥候……」
リリーを見る。
「弓は得意だよ!」
無理だな。
ドジだもん。
「AIちゃん、できるな?」
「お任せを! 私のサーチで罠なんて簡単に見つけられます!」
さすがは人工知能。
「罠は問題ないな。なあ、ちょっとだけでいいから地図を見せてくれないか? 大体の広さが知りたいんだ」
「しょうがないねー……本当は有料なんだよ?」
ジーナがごそごそとカウンターの下の方を漁り始めた。
『さすがマスター。ジーナさん、モテ男に褒められたからご機嫌です』
『いいからスキャンしろよ』
『お任せを』
念話していると、ジーナが顔を上げる。
「これが5-1の地図だよ。ここが入口」
地図は本当に迷路のようで細かい道と部屋がたくさんあった。
「これ、どれくらいの広さなんだ?」
AIちゃんがカウンターを覗き込み、じーっと地図を見始めたので時間稼ぎをする。
「この迷宮は1キロ平方あると言われてるね」
「広いなー……この赤い丸はなんだ?」
とある部屋が赤い丸で囲まれている。
そういう部屋がいくつかあった。
「そこはセーフティーエリアさ。そこは絶対に魔物が出ないし、罠もない。休息地だね」
「親切だな」
「人食い迷宮さんも考えてるんだろ。そうやって優しくしてエサを集めるんだよ」
俺らがエサね。
「なるほど。でも、入口手前でちょこちょこやってれば良くないか?」
「奥の方が良いアイテムが出る。わかりやすいだろ?」
確かに迷宮とやらは意思があるな。
人間の欲望を刺激している。
「わかった。とりあえず、お試しで行ってみるわ」
AIちゃんのスキャンが終わったので話を終える。
「気を付けなよ。あんたらはまだ若いんだから」
99歳だがな。
「わかってるよ。あ、それと良い宿屋を知らんか? 適度に治安が良くて、適度に安いところだ」
「わがままなことを言うね……まあ、メンツを見ればわかるけど……」
女子供ばっかりだからな。
「贅沢は言わん」
「ハァ……何部屋だい?」
「一部屋でいい。俺達は稼ぎに来たんだ」
「そういう奴が歓楽街で稼いだ金を浪費するんだよ」
王都に行った際のウチのクランメンバーね……
「俺はしない」
「……まあ、それだけいれば娼館は不要か」
そもそもそういうところには行かんがな。
「まあ、飲みには行くかもしれんな。初めて来るところだし、観光がてらだ」
王都の飲み屋も賑やかで楽しかったのは確かだ。
「行くとしたら宿屋の人間にいいところを聞くことをお勧めするね。間違っても女子供を連れて変なところに行くんじゃないよ? ちゃんと治安も良い飲み屋街もあるんだから」
ふーん……そうなんだ。
じゃあ、こいつらと行ってもいいが、パメラとも行こうかな?
あいつは外で飲むのも好きだし。
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