第213話 大蜘蛛ちゃん「一緒にしないで……」
「あ、おかえりなさい」
リアーヌの転移で寮の部屋に戻ると、パメラが来ていた。
というか、パメラしかいない。
「ただいま。他の連中は?」
「ご飯を取りにいったわね。タマちゃんがコタツ机に上がって尻尾でバンバンと叩いたから」
飯出せってか?
「あ、私がもうそろそろ帰りますって伝えておいたんですよ」
AIちゃんがドヤ顔で言う。
「あー、そういうことね」
納得したので2人を降ろし、コタツに入った。
「リアーヌ様、空の旅はどうでした?」
パメラがリアーヌに聞く。
「悪くなかったな」
「ずっとマスターにくっついてましたもんね」
「子ギツネ、うるさい。私はお前と違ってバランス感覚とやらが良くないんだ」
リアーヌは身体は柔らかいけど、運動ができないし、体力もないからなー。
まあ、ウチは魔法使いばかりだし、リアーヌに限った話ではないんだけど。
そのまま待っていると、ナタリア、アリス、アニー、リリーの4人が料理を持ってきれてくれたので皆で食べだす。
「先に食べてても良かったんだぞ?」
待っててくれるのは嬉しいが、腹が減るだろ。
「んー? まあ、ご飯は皆で食べるものだよ」
「…………そうそう」
「実家でもそうだったよ」
「あまり1人で食べたことはないわね」
このクラン特有なものだろうか?
そう思って、パメラとリアーヌを見る。
「寮でも誰かと食べるわよ」
「私もですね。王都にいた時は忙しい時以外は両親と食べてました」
この世界はやはりそういう文化のようだ。
「俺が子供の頃は1人だったなー……」
理由は俺だけ食べるものが違ったから。
「マスター、ご飯は家族で食べるもの……と、強制し、奥さん方とお子さん達がずらっと並んだ食卓があなたの前世です」
すげーな……
毎日、宴会じゃん。
「うるさそう……」
「そりゃまあ……お子さんは騒ぎますし、お母さん方は叱りますからね」
子供が30人以上もいればなー……
女性陣が微妙に周りの仲間を気にしているような素振りをしているような気がしたが、気にせずに食事を続けていく。
そして、食事を終えると、一息ついた。
「それで? 思ったより遅かったけど、リアンには着いたわけ?」
生首ではないアニーが聞いてくる。
「リアンのちょっと手前だな。だからちょっと歩く」
「まあ、それは良いんじゃない? あんなでっかい蜂が町に近づいたら攻撃されるわよ」
魔物に見えないこともないからな。
「狛ちゃんはリアーヌに譲れよ?」
「わかってるわよ。見た目子供のリアーヌを歩かせて、私が乗っているって外聞が悪いじゃない」
チビのAIちゃんとアリスを歩かせて、狛ちゃんに乗っているがな。
「明日は全員で行くということでいいな?」
そう聞きながら見回すと、パメラ以外が頷いた。
「ユウマさん、ナタリアさん、リリーさん、ちょっといいかしら?」
パメラが俺を含めた3人を見る。
「どうした?」
「なーに?」
「私、何かした!?」
大丈夫だよ、リリー。
ナタリアを呼んだだろ。
「これを渡します」
パメラはそう言って俺達にカードを渡してくる。
「んー? 冒険者カードか?」
「あ、Bランクになってる!」
「ホントだ!」
2人が驚いたように喜んでいるので俺も見てみると、Aランクと書いてあった。
「そういやAランクになったんだったな」
「はい。更新してなかったのですが、外に行くなら必要となりますので急遽、用意しました」
「してなかったのか?」
しろよ。
「普通はするんですが、ユウマさん達は私のところにしか来ませんし、本格的に仕事を再開する春からでいいかなと……」
身内だから別に更新しなくてもランクをわかっているからどうでもよかったわけだ。
「まあいい。これで俺はリアンでもAランクか?」
「はい。それとこの書類があなた方のパーティーがBランクであることの証明になります」
パメラが紙を渡してきたので受け取り、中身を見ていく。
「ふーん……パーティー名が空欄だが?」
「それです。あなた達のパーティー名がないんですよね。何かあります?」
何かって言われてもな……
「風の翼じゃダメか?」
「それはクラン名じゃないですか」
まあ、そうだけど。
「必要なのか? 他の連中のパーティー名なんて聞いたことないぞ」
クライヴ達もあるのか?
「この町の冒険者はほとんどありませんね。パーティー名は迷宮に入るために必要なんですよ」
「なるほど……」
管理しないといけないからかな?
「別に何でもいいですよ? 私の知っているパーティー名で一番適当なのはABCです」
それはひどい。
「うーん……AIちゃん、何かあるのか?」
人工知能の出番だぞ。
「如月」
「それは家名なんだが?」
しかも、俺だけ。
「何でもいいわけですし、シンプルに行きましょう。ファミリーです」
「それでいいか?」
他のメンツに確認する。
「いいよー」
「…………まあ、いいんじゃない?」
「私はそれがかっこいいと思うな」
「あんたがリーダーだしね」
異論はないようだ。
「パメラ、如月って書いとけ」
「わかりました。それとですが、メンバーはユウマさんがリーダーとして、副リーダーがナタリアさんでいいですか?」
パメラが書類に如月と書きながら聞いてくる。
「そんなのまでいるのか?」
「迷宮は特殊なんですよ。個人よりパーティー単位で管理されます。迷宮でソロはほとんどいませんからね」
ふーん……
「じゃあ、ナタリアでいいわ。実際、そうだし」
「アニーさんじゃないんです?」
俺以外、全員Bランクだが、この中で一番キャリアがあり、頼れるクランの副リーダーなのがアニーだ。
「私はパス。ユウマにおんぶに抱っこって決めてるから」
「いいんですか?」
「このメンツの副リーダーなんて絶対にごめんよ」
なんでだよ。
「あー……確かにナタリアさんの方が良いでしょうね」
絶対に冒険者パーティーの話じゃないだろ。
「そういうこと」
「わかりました。では、そのように……それとメンバーにAIちゃんとリアーヌ様がいませんけど、大丈夫です?」
その2人はなー……
「AIちゃんはスキルだし、他国とはいえ、ギルマスが冒険者はマズいだろ」
「まあ、そうなんですけど、迷宮は冒険者しか入れませんよ? 消えることができるAIちゃんはともかく、リアーヌ様は入れません」
うーん……リアーヌが迷宮に行くことはないと思うが……
いや、転移があるしなー。
「パメラ、AIちゃんとリアーヌを冒険者登録してくれ。最低ランクでいい」
「構いませんか?」
パメラがリアーヌに確認する。
「それでいい。別に悪用するわけではないからな。見つかっても低ランクなら咎められん」
「わかりました。明日、朝一で作って、持ってきます」
「悪いな」
「いえ、それが仕事ですから。では、御二人の名前もメンバーに加えておきます」
パメラが書類に2人の名前を書いていく。
「お前は?」
「さすがにないです。迷宮には絶対に行きませんしね」
だろうな。
「じゃあ、留守を頼むわ」
「そうするわ」
「奥さんムーブ!」
無視無視。
「それとこれが紹介状」
パメラが封筒を渡してきた。
「休みだったのに悪いな」
「いえいえ。暇ですから。ユウマさん、あなたなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね。リアンは世界各地の有力な冒険者が集まっていて、Bランク、Aランクもそう珍しくないわ」
パメラが仕事モードをやめ、そっと手を取ってきた。
「オットーもといルドガーレベルだろ? 敵じゃないわ」
「そうですよ! マスターを誰だと思っているんですか! 他の冒険者なんて大蜘蛛ちゃんか大ムカデちゃんのエサですよ!」
「それもやめてね……」
やらんわ。
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