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第021話 ビッグボア


 門を抜け、しばらく歩いていると、前方に森が見えてきた。


「あー、疲れた」


 歩くのはしんどいわ。


「…………おじいちゃん、大丈夫?」


 アリスが冗談めいて、笑いながら聞いてくる。


「体力的には問題ないんだけど、暑いわ」


 太陽が憎い。


「…………なんでそんな真っ黒な服なの? 熱を吸収して暑いでしょ。しかも、長そで長ズボン」


 袴はズボンではないがな。


「俺が祓う妖なんかは夜に出るんだよ。だから暑くなかった」


 昼間は寝てるか、書き物の仕事だ。


「…………冷やす魔法をかけてあげる」


 アリスがそう言って、杖を向けてくると、身体がひんやりし始めた。


「おー、すごい。涼しい」

「ヒールもかけてあげるよ」


 今度はナタリアが杖を向けてくると、わずかに感じていた疲労感が抜け、それと共にずっと重かった頭が軽くなっていく。


「お前らの魔法ってすごいな」


 こりゃいいわ。


「ユウマの魔法の方がすごいと思うけど、特化しすぎなんだね」

「…………色んな魔法を覚えた方がいいよ」


 まあ、そうなんだろうなー。


「お前らってどういう魔法が使えるんだ?」

「色々使えるよ。仕事の報酬は先行投資ってことで魔法を買ってたしね。でも、回復魔法が得意かな」


 回復魔法……

 さっきのか。


「回復魔法はいいな。マジで回復した。お前は?」


 今度はアリスを見る。


「…………私もナタリアと変わらないよ。どちらかと言えば、ナタリアとのバランスを取って、攻撃魔法に重点を置いている」


 パーティーだもんな。

 そういう風に魔法を覚えていったわけだ。


「こんな便利なら魔法使いって多いのか?」

「いや、そんなことはないよ。確かに魔導石を使えば、簡単に魔法が覚えられるけど、魔力が少ない人は無理だからね」

「…………魔力の量は生まれつき決まっている」


 生まれつき決まっている?


「そうなのか? 霊力を上げるために色んなことをしてきたが……」


 AIちゃん曰く、出力が違うだけで魔力も霊力も同じエネルギーらしいし、上げられると思う。


「上げられるの?」

「…………教えて」


 教えてもいいが、こいつら、ムカデとか蜘蛛みたいな毒虫を食べるかな?

 食べないよなー……


「精神統一だな。自分の身体の中にある霊力……お前らは魔力か。それを大きくするように想像するんだ。寝る前にでもやりな。あと、特別な薬があるから夜にでもやろう」


 原型をなくしたらこいつらでも食えるだろ。

 後で調合して、団子にでもして食わせてやろう。


『鬼ですねー』


 AIちゃんが一心不乱に地図を描きながら念話で言う。


「そういうのがあるの? じゃあ、やってみようかな」

「…………お薬は苦手だけど、我慢する」


 罪悪感を覚えないと言えば、嘘になるが、こいつらだって、もっと上に行きたいだろう。

 うんうん。


 俺達がそのまま進んでいくと、立ち止まった。

 何故ならちょっと先の森の前には地面に鼻先をつけながらゆっくりと歩く大きな猪がいたからだ。


「あれか……でかいな、おい」


 俺の世界にいた猪の3倍以上はある。

 下手をすると、もっとだ。


「私もあんなに大きいビッグボアは初めて見た。あんなの森の奥でも見ないよ」

「…………緊急依頼が出るわけだね」


 2人も見たことがないサイズらしい。

 なお、AIちゃんはビッグボアには見向きもせずにただただ地図を描いていた。


「パメラに燃やすなって言われたし、肉のことを考えると、毒や呪いもないな」


 俺は問題ないが、売り物にしたり、こいつらが食べることを考えると、毒や呪いはまずい。


「どうするの?」

「…………私がエアカッターで足を切ろうか? もしくは、エアハンマーで攻撃する?」


 うーん……

 毛皮も売れるらしい、あまり傷は付けたくないな。


「アリス、あれをこっちに呼べるか?」

「…………石でも投げれば襲ってくるよ。警戒心が強い魔物だけど、好戦的でもあるし」

「石か……」


 俺はアリスに言われた通り、その辺に落ちている石を拾うと、猪に向かって投げてみる。

 すると、石は放物線を描き、地面に鼻先をつけていたビッグボアの背中に当たった。


 ビッグボアは頭を上げると、周囲を見渡し、俺達の方を向いて止まった。


「もう一回投げてみるか」


 俺はまたもやその辺に落ちている石を拾うと、ビッグボアに向かって投げようとする。

 すると、ビッグボアは俺が石を投げる前にものすごい勢いで突っ込んできた。


「ど、ど、どうするの!? もちろんだけど、あんな突進を食らったら死んじゃうよ!?」

「…………撃っていい?」


 ナタリアはあたふたし、アリスはいつもの眠そうな半目のまま杖をかかげた。


「待ってろ」


 俺はそう言いながら指を猪の足元に向けた。

 そして、タイミング見計らいながら待つ。


「早くー! 早くー!」

「…………ナタリア、揺らさないで」


 ナタリアはアリスの両肩を掴みながら激しく揺すっている。


「まあ、待てと言うに…………行くぞー……3、2、1、地獄沼!」


 俺が術を使うと、突進してくるビッグボアの周囲の地面が沼に変わった。

 そして、ビッグボアは突っ込んできた勢いのまま、沼に沈み、暴れている。

 だが、暴れれば暴れるほど沈んでいっていた。


「無理無理。そこからは抜けられん」


 ビッグボアはもがき、なんとか脱出しようとしているが、10メートル四方は沼になっているのでどうしようもなく、沈んでいった。


「怖っ……」

「…………どうしてもやられたことを考えてしまう」


 人には使わんわ。

 あれは大きい妖の足を奪うための術だ。


「窒息するまでしばらく待とう」

 あそこまででかいとなかなか死なんだろうな。


「戦いにすらならなかったね……こんな簡単にCランク級の仕事をこなしたのは初めてだわ」

「…………ナタリアは何もしてないのに大騒ぎだったけどね」


 確かに大騒ぎだった。

 涙目だったし。


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