第208話 どうする?
首狩りフォルカーを仕留め、魔族の侵攻を止めてから1ヶ月が経過した。
その間、やはり冬だったのでたまに狩りに出るくらいで特に仕事もなく、寮の部屋でゴロゴロしていた。
今日もいつものように皆で夕食を食べ、その後も各々が好きに過ごしている。
斜め左にいるアニーはコタツで寝そべりながら薬を作っている。
正面のナタリアは編み物をし、その隣にいるリリーは小刀みたいなナイフで木彫りを彫っていた。
斜め右ではアリスがアニーと同様にコタツで寝そべって本を読み、その隣のパメラはタマちゃんと遊んでいる。
さらに俺の隣にいるリアーヌは何かの書き物をしていた。
この1ヶ月、毎日のように見ている光景であり、もう少ししたらワインなんかを飲みだすだろう。
そんな日常を眺めながら写経でもしようかなーと思っていると、コタツの中からAIちゃんがぴょんと顔を出した。
AIちゃんは半妖化しているようでキツネ耳をぴょこぴょこと動かしている。
「マスター」
「んー? どうした?」
「私、この1ヶ月ずっと考えていたんですけど、マスターはこの寮にいつまでおられますか?」
ん?
「どういう意味だ? もしかして、ここっていついつまでに出ていかないといけないみたいな入居制限とかあるのか?」
「ないよー」
「…………ないね」
ナタリアとアリスが答える。
「しいていうならいつまで客室にいるのかってくらいじゃない? 男は2階よ」
アニーが首を曲げて、こちらを見てきた。
「上は嫌なんだよ」
「まあ、私らは楽でいいけどね」
アニーが薬作りを再開する。
「AIちゃん、出なくてもいいそうだぞ」
良かった、良かった。
「いや、単純に狭くないですか? これからたくさんの奥さんとお子さんに囲まれるんですよ?」
あー、そういう意味ね。
「本当に勧めてくるな、お前……」
「そういう人ですもん。前世もすごかったわけですし」
まあ、そうらしいな。
「実際のところ、前世はどんな感じだったんだ? 俺の屋敷は確かに広かったけど、12人の嫁さんと30人以上の子供だろ? さらには孫がいるってことは狭くなかったのか?」
とんでもない家だ。
俺がそうしたんだけど。
「マスターの記憶しているお屋敷よりも広くなっていますよ。隣の家を買収して、増築したんです」
……とんでもない家だ。
「迷惑な奴だな」
「だから皇后様も苦言を呈されたんじゃないです?」
俺も呈するわ。
「ふーん、今世もそうしろと?」
「この寮を乗っ取るにしてもマスター、平屋好きじゃないですか」
平屋が好きというより、2階建て、3階建てが嫌なだけだ。
地震で倒れる。
「まあ、お前が言いたいことはわかった。でも、簡単に言うけど、屋敷を建てるってとんでもない金がいるだろ」
「パメラさん、どうなんです?」
AIちゃんがパメラに聞く。
「もちろん高いわよ。土地代も建物も高い。平屋がいいなら土地代はさらに高くなるわよ?」
そりゃそうだ。
「マスター、働きましょうよー。稼ぎましょうよー」
AIちゃんが身体を揺らしてきた。
「いや、それは構わんし、目標があった方が良いとは思う。でも、仕事ないだろ」
「誰も来ないだけであるにはあるんですけどね……」
パメラがボソッとつぶやく。
「あるのか? 冬はほぼないんだろ?」
「いえ……減るだけであるにはあるわよ。実は北のトレッタに向かった冒険者が帰っていないの」
トレッタは魔族に落とされた町だ。
魔族はすでに撃退されているはずだが……
「そういやウチの連中も帰ってきてないな」
クライヴがいないから食事は女共が作ってくれている。
美味いし、不満はないんだが、やはりクライヴの飯が恋しいと思ってしまう。
それくらいにあいつは料理が独創的で上手なのだ。
「ユウマ様、それについてですが、町が壊滅状態になったので国がお金を出して、冒険者を雇い、復旧作業をしているのです」
リアーヌが説明してくれる。
「そういうことね。じゃあ、仕事をするか? パメラ、どういう仕事だ?」
「清掃とか警備とか狩りとか……」
狩りはやってる。
でも、清掃と警備は嫌だな。
「それで屋敷が建てられんの?」
「無理かなー……日銭ぐらいの依頼料ね」
ダメじゃん。
「私がこうやって薬を作った方が儲かるわよ」
アニーが起き上がると、青い液体が入った瓶を見せてくる。
「何それ?」
「特製のポーション。金貨5枚で売れる」
アニーは本当にすごいな。
「アニーさんにお薬御殿を建ててもらいます?」
それはどうなんだ?
如月の名が泣くぞ。
「それでも屋敷は建たんだろ。パメラ、良い仕事はないのか?」
「まあ、ないこともないです」
パメラがお仕事モードに入った。
「なんだ?」
「遠征ですね。この国は冬に仕事が減りますし、稼げません。こればっかりは仕方がないことです。でも、南の方の国とかは問題なく稼げますから遠征して、仕事をするのがベストです。ユウマさんはAランクですし、このパーティーはBランクですのでいい仕事もあると思いますよ」
なるほどな。
「お前的にはそれでいいのか? ギルド職員だろ」
「この時期は諦めています。暖かくなった時に働いてくださればいいです。もしくは、魔石だけでも卸してくだされば助かります」
これまでもドラゴンを追って西に行ったり、魔大陸に行ったりしたが、魔石はすべてパメラに渡している。
「ナタリア、どう思う?」
副リーダーに確認する。
「はっきり言ってリアーヌ様次第。リアーヌ様の協力がないと無理」
転移ね。
「リアーヌ、暇か?」
「先月の件がありますから暇ではないですけど、ウチにはケネスがいますので大丈夫です。それに稼げそうな町をピックアップし、そこまで連れていってくだされば朝晩の送り迎えなら余裕です」
なるほどね。
「だとさ」
「リアーヌ様が協力してくれるならいいんじゃない? 暇なのは確かだし」
「じゃあ、そうするか」
正直、俺はめっちゃ暇。
こいつらはやることがあるんだろうけど、俺は昼間にやることがないし。
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