第207話 そりゃそうですよ
部屋に戻ってくると、アニーとナタリアに両脇を抱えられ、布団で横になった。
「ユウマ様、私は叔父上に報告してきます」
横になって休んでいると、立ったままのリアーヌが頭を下げてくる。
「ああ。頼むわ」
「これでユウマ様の仕事は終わりですし、ゆっくり体を休めてください。それでは……」
リアーヌはそう言うと、笑顔で消えていった。
「色々あったが、ようやくゆっくりできるな。冬休みを満喫しよう」
「お酒はダメだよ」
ナタリアが止めてくる。
「わかったから……お前らもコタツの方に行っていいぞ」
「うん」
頷いたが、2人は一向にコタツの方に行く気配がない。
そうこうしていると、コタツの中からタマちゃんが出てきた。
「にゃー……」
あ、こいつを連れていくのを忘れてた。
「ご、ごめんね!」
パメラが慌ててタマちゃんを抱く。
だが、タマちゃんはぷいっと明後日の方向を見た。
「忘れてたわけじゃないのよ! 危ないかと思ってね!」
いや、忘れているかもしれないが、そいつ、お前の護衛だぞ……
パメラはその後も必死にタマちゃんを宥め、俺はそれを横になりながら見続けた。
◆◇◆
ケルベロスを倒し、10日ほど経った。
さすがにそれくらいになれば肋骨も完治したのでコタツに戻ってゴロゴロしている。
布団で横になっているのとあまり変わらないような気がするが、酒も飲めるようになったし、ナタリアもアニーもコタツに戻っていた。
その間、リアーヌからはまったく連絡がない。
心配しないでもないが、さすがに忙しいのはわかっているので仕方がないだろう。
そして、その日の夜、夕食を食べ終え、食後のお茶を飲んでいると、リアーヌがやってきた。
「こんばんは。ユウマ様、ケガの方はどうですか?」
リアーヌが俺の前に来ると、身を屈めて聞いてくる。
「もう大丈夫だ。ナタリアのヒールとアニーの薬が良かった」
「それは良かったです。それでですけど、叔父上が会って話がしたいと言っています。大丈夫ですか?」
「今からか?」
「はい。なかなか時間が取れないようで……」
それは仕方がないだろうな。
俺もどうなったか気になるし、行くか。
「わかった。行こう」
「ありがとうございます。では……」
リアーヌが立ち上がって手を差し出してきたので手を取った。
すると、次の瞬間、視界が真っ暗になったが、すぐに王様の部屋に変わっていた。
そして、リアーヌの足にはAIちゃんが引っ付いている。
「セーフ!」
「お前、すごいな……」
さすがのリアーヌも感心した。
「この前も見たな、それ……」
声がしたので振り向くと、席についている王様が呆れた顔で俺達を見ていた。
「陛下、お元気そうで何よりです」
「ああ……忙しすぎて嫌になるがな。座ってくれ」
俺達は王様に勧められたので席につく。
「リアーヌから聞いていると思いますが、敵の将と魔獣を打ち取りました」
改めて報告した。
「うむ、聞いておるし、ご苦労だった。まさか魔族の大将が人族でこの前のルドガーと繋がっているとはな。しかも、転生者」
「あれはかなりの悪党だったようです」
相当だろう。
「だろうな。しかも、特殊なマジックアイテムを呼び出せるとか……よくやってくれた。もし、生かしておいたら今後の憂いになる」
国盗りが目的だもんなー。
「これでもう大丈夫でしょう。北の方は?」
「そちらもうまくやっておる。どうやらその魔獣が魔族の軍に甚大な被害を与えたようで船に乗って逃げていきおった。それで現在、掃討戦に移行している」
やはり魔族の方にも被害があったか。
どちらにせよ、もう終わりだな。
「それは良かったです」
「問題はあの大穴だがな」
「自然現象ということにしてください」
「ああ……隕石が降ってきたということにした」
それ、それ。
「これで私の仕事は終わりですね」
「そうなるな。褒美は何が欲しい? いくらでも出すし、叶えられることならば叶えよう。それだけの功績がある」
「不要です。今回のことは私の独断でやったことですので……」
というか、払える金がないだろ。
王様に払えるのは爵位と名誉だけだ。
どっちもいらないどころか足かせにしかならない。
「そうか……欲がないな」
「欲など不要です。貴族の当主たるものは俗に侵されてはならぬのです」
もう当主じゃないし、どうでもいいけど。
「ウチの貴族に聞かせてやりたいわ…………あ、いや、お前はお前で生粋の女好きか」
違うわ。
「どうとでも……長居をするとお邪魔でしょうし、この辺で失礼いたします。忙しいのはわかりますが、よく寝てください」
「そうするか……うむ、ご苦労だった。お前もゆっくり休め」
「はい。では、これで……リアーヌ」
一礼をすると、リアーヌに声をかけた。
そして、リアーヌに触れ、部屋に戻る。
「あー、終わった、終わった。酒でも飲むか」
俺は部屋に戻ってくると、コタツに入った。
AIちゃんとリアーヌも俺の両隣に来て、コタツに入る。
「じゃあ、ワインを取ってくるよ」
ナタリアがそう言って立ち上がって部屋を出ていくと、すぐにワインと人数分のグラスを持って戻ってきた。
そして、皆でお疲れ様と言いながらワインを飲む。
もちろん、飲めないリリーはお茶だ。
酒を飲んでいると、いい時間となったのでこの日は解散となった。
俺は風呂に入ると、布団に行き、横になる。
「マスター、明日からどうされます?」
同じ布団に入っているAIちゃんが聞いてきた。
「何もせん。冬休みだからゴロゴロだ」
今日も明日も一緒だ。
春までは何もしない。
「ですかー……まあ、たくさんの奥さん方がいますし、暇なことはないでしょう」
「奥さんじゃないがな……」
「でしたら呼んできましょうか? ナタリアさん、アリスさん、リリーさん、アニーさん、最初は誰がいいです?」
まあ、呼ぶとしたらこの寮にいる人間だわな。
「余計な気を回さなくていい。寝るぞ」
「はーい。おやすみなさい……」
「おやすみ……」
俺は目を閉じると、眠気に任せて、就寝した。
◆◇◆
俺は何かの夢を見ている。
理由はわからないが、何故か夢だとわかる。
俺はいつものように仕事をし、いつものように家に帰る。
家では家族が待っていた。
そんな家族と夕食を食べる。
だが、そんな家族の名前も顔も思い出せない……
いや、思い出せる。
というよりも知っている。
こいつは……こいつらは……
そう思ったところで目が覚めた。
俺は上半身を起こすと、コタツの方を見る。
すると、そこにはナタリア、アリス、リリー、アニー、リアーヌ、パメラの6人がコタツに入っており、起きた俺を見ていた。
「おはよう」
ナタリアはいつもの笑顔を向けてくる。
リリーの言う黒さは一切、見えない。
「…………どうしたの?」
アリスもいつもの小さな声だ。
そして、眠そうな目をしている。
「怖い夢でも見た? 私も一昨日見た!」
リリーもいつも通りだ。
ただ、怖い夢を見たのに笑顔な理由はわからない。
「あんた、本当によく寝るわね」
アニーはジト目で見上げてくる。
生首に言われたくない。
「おはようございます。よく寝るのは健康的で良いと思います」
リアーヌは笑顔だが、頬が染まっている。
理由は不明。
「ユウマさん、私達が勝手にこの部屋に来ても全然、起きないよね」
パメラは呆れている。
その後ろではタマちゃんがパメラの背中を登ろうとしていた。
うーん……こいつらも馴染んだなー。
この部屋にいるのが当たり前になっている。
そして、俺自身もこいつらがそばにいるのが当たり前になっている。
「まあいいか……子ギツネ、起きろ」
「えー……寒いですぅ……」
AIちゃんが布団に潜っていった。
AIちゃんがいるのも当たり前か……
「まあいい……」
俺はAIちゃんを布団から引っ張りだすと、抱えて、コタツまで行く。
そして、コタツに入ると、もう一度、6人を見渡した。
たくさんの嫁と子供達、そして、孫達に囲まれた人生か……
AIちゃんが言うにはそれが俺の幸せらしい。
「どうしたの?」
正面にいるナタリアが聞いてくる。
「別に。二度目の人生も同じでいいなと思っただけだ……茶」
「う、うん……」
ナタリアがお茶をくれた。
「あー、美味い……」
絶対に男と飲む酒より、自分の女達と飲むお茶の方が美味いわ。
ここまでが第5章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第6章もよろしくお願いいたします。