第204話 帰還
消えることのない金色の炎はフォルカーを燃やし尽くすと、灰になり、風で飛んでいく。
「死にましたよね?」
声がしたので振り向くと、メレルが立っていた。
「そうだな」
「あ、あの、怖いんでその目と魔力をどうにかしてくれません? ついでに爪も……」
そう言われたので妖力を抑える。
「これで諸悪の根源は倒した」
「そうですね……まさか人族とは……」
「だから言っただろう。種族より個人だ。転生者とはいえ、こんな奴もいる」
「はい。あなたのようなバケモノもいます」
バケモノ言うな。
「マスター、ご無事ですかー?」
「大丈夫ですか!?」
チビ2人が狛ちゃんと一緒にやってくると、お腹をさすってきた。
「問題ないが、ヒールとか使えんか?」
「ナタリアさんです」
「ナタリアですね」
使えないわけね。
まあ、帰ってヒールをかけてもらうか。
「さて、色々とあったが、まだ仕事が残っているな」
「地獄のバケモノでしたっけ?」
AIちゃんが確認してくる。
「らしいな。どんなもんか……リアーヌ、北に飛べるか?」
「はい。それは可能です。ですが、少し休まれた方がよろしいでしょう」
まあ、来るのは明日の夜らしいからな。
まだ1日ある。
「そうするか……帰る前に一度、港の方の海岸に飛んでくれ。ここにもう用はないし、援軍の船が気になる」
「わかりました。では、触ってください」
そう言いながら両腕を伸ばしてきたので抱っこし、抱える。
その時にリアーヌの匂いを嗅いだが、やはりあの賊とは全然、違う匂いだった。
「行くぞ」
そう言うと、AIちゃんとメレルもリアーヌに触れ、海岸に転移する。
すると、港の方が明るくなっており、大蜘蛛ちゃんが大暴れしているのが見えた。
「やってんなー……」
「あれは兵士と戦闘中ですね。まあ、相手にならないでしょう」
メレルが嫌そうな顔で言う。
「大ムカデちゃんもいるからな」
「もういいでしょう。船はほぼ見えなくなっています」
確かにあれだけあった軍船の姿はない。
「消すか……」
俺は遠くにいる大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんを消した。
「ありがとうございます。これで何とかなりそうですね」
メレルが礼を言ってくる。
「そうだな……お前はどうする?」
「これでお別れです。私はこれからフォルカーが死んだことを仲間に伝えます。頭を失えばあとはただの賊です。何とかなるでしょう」
「そうか……まあ、頑張れよ」
「私はここで終わりですけどね。十分に働きましたし、お暇してスヴェン様の所に行きます」
まあ、十分に働いたしな。
「スヴェンには上手く言えよ」
「そうします。あなたは死んだし、軍はなくなった」
あいつが信じるかねー?
「まあ、任せるわ」
「はい。では、これで……二度と会わないことを祈っています。ご飯をご馳走していただきありがとうございました」
メレルはそう言って頭を下げると、町の方に歩いていった。
「死なんかったか……」
「フラグがビンビンでしたのにねー……」
「フォルカーに殺されると思ったんですけど……」
なー?
「うるさい、浮気男とダメ女共! 揉めろ! 揉めて修羅場を起こせ! ばーか!」
メレルはそう言い捨て、走っていった。
「今度は捨て台詞を言えましたか……」
「やっぱり死にそうにない奴だなぁ……」
AIちゃんとリアーヌが呆れる。
「一旦、部屋に戻ろう」
「わかりました」
俺達はこの場をあとにし、転移で帰ることにした。
◆◇◆
部屋に戻ると、皆がコタツに入って待っていた。
俺達は靴を脱ぐと、いつもの席に座って、コタツに入る。
「どうだった?」
コタツに入ると、アニーが聞いてくる。
「その前にナタリアさん、マスターにヒールをお願いします。腹部を蹴られていました」
「え!? 大丈夫なの!?」
AIちゃんが要請すると、ナタリアが驚いた。
「命に別状はありませんが、かなりの重症です。やせ我慢していらっしゃいますが、肋骨が折れてますね」
……え?
マジ!? 折れてんの!?
確かにめっちゃ痛いけど、そんなに威力があったのかよ……
「折れてる!? 大変!」
ナタリアは立ち上がると、俺のところに来る。
そして、腹部に触れた。
「ヒール!」
ナタリアが回復魔法を使ってくれると、痛かった腹部が温かくなり、次第に痛みが消えていく。
「ユウマ、これを飲みなさい」
アニーがどこからともなく、紫色の液体が入った小瓶を取り出した。
「なんだこれ? 毒々しいな……」
「骨折ならヒールでは完全に治すことは無理よ。これで回復を早めて」
そう言われたので小瓶を受け取る。
「いやー、毒々しい……まあ、毒でも俺には効かんか」
「なんで私があんたに毒を渡すのよ」
アニーがジト目になった。
「わかってるよ」
そう答えると、小瓶を開け、一気に飲み干した。
「味も何もないな。これ、効いているのか?」
「即効性のものじゃないわよ。10日は安静にしなさい。どうせ、例の魔族の大将は倒したんでしょう?」
10日か……
「確かにフォルカーは倒したんだが、まだ残っているんだわ……」
「どういうこと?」
「敵の頭は倒したし、援軍の軍船も大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんが破壊した。でも、本命の援軍はすでに出航しているらしく、明日の夜にはトレッタの町に着くらしい」
「マジ? なんでそんなことになってるの?」
俺は皆にさっきまでのことを説明することにした。
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