第202話 首狩り
「き、貴様! 人族の分際で私達の上に立っていたのか!?」
「その人族の分際と並んで立っているお前は何だよ?」
ごもっとも。
「メレル、下がれ」
「くっ!」
俺はメレルの肩を掴み、強引に下がらせる。
「よう、兄ちゃん。昼間に黒い鳥を飛ばしていたのはお前か?」
フォルカーがニヤニヤと笑いながら聞いてきた。
「そうだな。見事な弓の腕前だった」
「ありがとよ。港に出た化け蜘蛛とムカデもお前だな?」
「ああ。決まっているだろう」
「そうか、そうか……ということはお前がスヴェンを退け、ドミクをやったユウマとかいう魔人だな?」
フォルカーがそう聞いてきたのでメレルを見る。
「……報告は義務でしょう?」
やっぱりこいつが報告してるし。
まあ、他にいないんだけどさ。
「魔人とかいうのはよくわからんが、合ってると思う」
「そうか! それはすごいな。スヴェンもドミクもウチの精鋭中の精鋭だぜ?」
「あれでか?」
「あれでだ。ははっ! こりゃ魔人だわ。転生者っていうのはすげーな」
転生者ねー。
「お前もだろ」
「わかるか?」
やはりか……
「ああ。わかる。お前はどう考えてもこの世界の人間ではない。特殊な道具に魔族に化ける能力。それにこの世界の人間は魔族にアレルギーがあるから魔族の上に立とうとは思わん」
「ああ……確かにな。そういうお前もこんなところに来るなんてすごいな」
「たいしたことじゃないだろう? 魔族なんてちょっと魔力が大きいだけだ」
あと、ちょっと凶暴。
でも、そんなのは人族の中にもいる。
俺の国の東の方にも戦となれば親兄弟の死体を踏み越えて襲ってくるという蛮族な士族共がいる。
「だよなー? 全然、怖れることなんかない。ただの考えなしのバカ共だ。でもな、俺はそういう奴らが大好きなんだよ」
「そうか……ロクな前世ではなかったんだろうな?」
「ははっ! その通りだ! 俺の前世は盗賊だよ! 大盗賊フォルカー様だ!」
聞いたことあるねー。
「ルドガーのご兄弟かな?」
そう聞くと、フォルカーの笑みが消えた。
「チッ! ここのところ連絡が取れないと思っていたらやられちまったか……」
「弟? 兄?」
「弟だ。デイヴィス盗賊団のデイヴィス兄弟だよ」
似てるわ。
「あいつの兄貴ねー」
「お前がやったのか?」
「お前の弟、お姫様を攫ったんだよ。それで俺が依頼を受けた」
おおまかにはこんなものだろう。
「でっかい獲物を連れて帰るって聞いていたが、あのアホが……生意気なクソガキじゃなかったのか?」
んー?
「私のことかな?」
リアーヌが自分のことを指差す。
「あん? なんだこのガキは?」
「王都のギルマスのリアーヌだ」
「あー、そんな名前だったな」
狙いはリアーヌか。
まあねー……
この子、俺達以外にはクソガキそのものだからな。
「リアーヌだけじゃなく、俺の仲間も狙ったから死んでもらったんだよ」
「欲張りな奴だわ……バーカ」
ホント、バカ。
「悪いが俺は身内に手を出す者は許さないんだ」
「はっ! しかし、そうなるとますますもうここにいる意味がねーな」
「どういう意味だ?」
「人族の俺がなんでこんなことをしているかわかるか?」
大陸に返り咲くため……ではないだろうなー。
こいつは魔族じゃないし。
「大盗賊だったか? 人族と魔族を争わせ、戦争を起こしたい感じか?」
「まあ、それで大体合ってる。この世界は平和でつまんねーんだわ。人はもっと争うもんだろう? そう思わんか?」
「思わないでもない。俺の世界でも戦争はよくあった。でも、俺は士族ではなく、陰陽師だから興味がない」
平和が良い。
女子供の笑顔を見ていたい。
「何を言っているのかはわからんが、戦争に関係ない役職なのはわかった。俺は人が泣き叫ぶのが好きなんだよ」
「相容れないな。俺は逆だ」
「だろうな。見るからにそんな感じだ。もっと楽しめよ。男の首を刎ねろ。女を犯せ。子供を泣かせろ」
鬼だな、こいつ……
醜い……
「そんな趣味はない。女は愛するものだ。子供は笑わせるものだ」
男は知らない。
「ダメだこりゃ。全然、話が合わねー」
「嬉しいよ。賊程度と話が合ったら俺の名が落ちる」
「そうかい……ルドガーとも合わなかったんだろうな」
あんな人攫いと合うわけねーだろ。
「さて、賊。一応、勧告してやろう。降伏しろ。援軍は大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんが潰しているし、お前ももう逃げられんぞ」
「援軍を潰す? そりゃ無理だ」
ん?
「何故だ? 大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんに勝てる戦力があるのか?」
スヴェンが来ても無理だぞ。
「ははっ! そんなもんはいらねーし、お前らは思い違いをしている。お前らは援軍が魔族だと思っているだろう?」
「他にないだろ。それとも、人族の仲間でもいるのか?」
「ちげーよ。援軍は三日前に出港しているんだ。明日の夜には向こうに着くだろう」
何?
「そんなバカな! 軍は出ていないと聞いている!」
メレルが否定する。
「軍なんて役に立たねーよ。どれだけ軍船や兵士を集めても圧倒的に数で勝る人族に勝てるわけがない」
俺もそう思う。
あの戦いも俺達がここに来たのも少しでも被害を少なくするためだ。
「では、何だと?」
「そうだな……せっかくだから教えてやろう。お前、俺が色んなマジックアイテムを持っていることに疑問を抱かなかったか?」
確かに抱いた。
例の鏡に魔法封じの護符……
「何かあるのか?」
「それが俺のギフトだ。前世で集めた財宝を取り出すことができる」
そういうことか……
「お前の世界は色んなものがあったんだな」
「ああ。この世界より魔法が発展していた。転送装置だってそこら中にあったんだぜ?」
便利だねー。
「下のゾンビは?」
「ありゃ、そういう実験をしていたマッドサイエンティストが俺の部下にいたんだよ」
クソみたいな盗賊団だな。
「それで? そのマジックアイテムを使った援軍って何だ? まさかまたスタンピードか?」
「ありゃダメだ。転送できる魔物が弱すぎて、ある程度の被害は出せるが国は滅びない」
国を滅ぼす……
「では何だと?」
「とある神殿から盗んだとっておきのマジックアイテムだ。地獄のバケモノを呼び出せる呪いの護符さ。あっちについたらそれを呼び出す手はずになっている」
護符なら小さな船でも運べる。
そりゃレジスタンスも見落とすわ。
「どんなバケモノだ?」
「地獄の魔獣ケルべロス。一度、現れたら見境なく生物を滅ぼすバケモノだよ」
知らんけど、すごそうだ。
「お前の部下も死ぬぞ」
「実に残念だ。でもまあ、駒はまた集めればいい。面白いものでどんな世界だろうが、どんな種族だろうが、暴れるしか能のないバカ共は一定数いる。また集めて楽しい宴をするぜ」
救えんな、こいつ……
「宴か……まるで理解できん」
「気の合う仲間と女を犯し、酒を飲むのは最高だぜぇ?」
「仲間はいらん。俺は一人で女と酒を飲む」
そっちの方が楽しい。
「いや、お子様は酒を飲めねーだろ」
フォルカーがAIちゃんとリアーヌを見る。
「リアーヌは大人だ」
リアーヌは確かに子供みたいな見た目だが、俺はこいつを子供として見たことがない。
「そうですよ。私は飲めませんが、マスターは奥様方と楽しむんです」
AIちゃんが口をはさんできた。
「あー……そういう人間か……そりゃ話が合うわけないわ」
「最初から合ってないわ、賊」
「はいはい。でも、根っこは同じだと思うぜ?」
まったく違う。
断じて違う。
「話にならんな。ケルべロスとかいう魔獣の処理もせんといかんし、さっさと片付けるか。これ以上、お前の言葉をリアーヌの耳に入れたくない。リアーヌは俺の言葉だけを聞いていればいい」
ナタリアもアリスもリリーもアニーもパメラもだ。
「……ルドガーはお前を殺そうとしなかったか?」
「したな。身の程知らずが」
「ははっ! ルドガーの気持ちがよくわかる。お前、死ねよ」
フォルカーはどこからともなく斧を取り出した。
「愚かな……」
死ね、ゴミ。
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