第201話 正体
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「マスター、いかがしますか?」
AIちゃんが聞いてくる。
「行くに決まっている。どんな罠があるのか、それとも単純に自信があるのかはわからないが、他に兵がいないなら好都合だ。ここで始末する」
「私も賛成です。元よりそれが目的です」
メレルも同意した。
「ユウマ様、下ろしてください。戦闘になるなら私は邪魔でしょう」
リアーヌにそう言われたので身を屈めると、リアーヌを下ろす。
「リアーヌ、攻撃より逃げることを優先しろ。それと何があろうと俺達を救おうとするな。俺達はどうとでもなる。だが、お前は魔法を除けば、弱い。わかるな?」
「わかっています。私が優先するのは自分です」
貴族はこの辺のことをよくわかっているだろう。
「よろしい。AIちゃん、リアーヌを頼んだぞ」
「了解です。一応、狛ちゃんをお願いします」
「それもそうだな」
懐から護符を取り出すと、リアーヌの前に投げた。
すると、狛ちゃんが現れ、リアーヌの前で身を屈める。
そして、リアーヌが狛ちゃんに跨ると、狛ちゃんが立ち上がった。
「メレル、死にたくなかったら絶対に俺の前に出るなよ。焼死するぞ」
「絶対に出ませんよ。焼死はごめんですし、私は正面から戦うタイプではありませんから」
確かにそんな感じはする。
「よし、行こう」
俺達はこの胸糞悪い部屋から出ると、今度は警戒もせずに歩いていった。
すると、階段を見つけたので昇っていく。
「この建物は3階建てになっており、奴の部屋は最上階の3階です」
階段を昇っていると、メレルが教えてくれた。
「そうか……だが、奴の魔力はそれより上だ。多分、屋上だろう」
昼も屋上にいたし、屋上が好きなのかもしれない。
「屋上……奴の部屋から上がれます」
絶対に屋上が好きだな。
まあ、この建物を建てたのがあいつかは知らないが……
俺達はそのまま階段を昇っていくと、3階に到着した。
「フォルカーの部屋は?」
「あっちです」
メレルが指差した方向を歩いていると、多くの扉があるが、奥に無駄に豪華な扉が目に入る。
「あれか?」
「はい」
わかりやすいな。
「マスター、上に敵性反応です」
AIちゃんが天井を見上げた。
「間違いなく、屋上ですね。行きましょう」
俺達は豪華な扉まで行くと、メレルがドアノブを握り、押した。
すると、やはり鍵はかかっていないようでゆっくりと開かれる。
部屋の中は誰もいないが、灯りがついており、明るい。
豪華な部屋であり、気品もあるのだが、壁に立てかけられている斧や剣がその品を台無しにしていた。
「趣味わる」
「マスター、あの斧、血が付いてますよ……」
「ユウマ様の部屋は質素ですけど、品があるからその差がすごい……」
俺達は部屋を見渡しながら好き勝手に言う。
「私もこの部屋には初めて来ましたが、良い部屋とは言えませんね」
「スヴェンの部屋は悪くなかったな。物が少ないが、ちゃんとしていた」
一回見たスヴェンの家を思い出す。
「ありがとうございます。スヴェン様はまったく興味がないので私がインテリアを考えました。燃えましたけど……」
「また作れよ」
「そうします。さて、屋上へはベランダから行けます」
メレルが窓を指差した。
「わかった」
俺は窓の方に向かって歩いていく。
その間、上に感じる魔力は一向に動いていない。
しかし、何か違和感がある。
下でこの魔力を感じた時から思っていることだ。
俺は考えてみるが、よくわからなかったのでそのまま窓まで行くと、窓を開け、ベランダに出た。
外は寒く、冷たい風が顔に当たる。
「ユウマさん、あちらです」
メレルが左方向を指差すと、階段があった。
「ここからはいつ戦闘が起きてもおかしくない。気を引き締めろ」
「わかってます」
メレルが頷いたので階段を昇っていく。
すると、塀も鉄格子もない屋上に到着した。
風が強いのでちょっと怖い。
「あいつか……」
屋上のど真ん中には男がおり、俺達に後ろ姿を見せていた。
俺がそんな男の後ろ姿を見ていると、メレルが一歩前に出ようとする。
俺はそんなメレルを手で制した。
「正解だ。後ろからやるのがお前の戦闘スタイルだろうが、それを知っていて背を見せている人間を襲うのはバカがやることだぞ」
男が背を向けたまましゃべる。
「フォルカー! 何故、スヴェン様の家を燃やした!?」
メレルが怒っているようで怒鳴るが、怒るところはそこか?
「てめーが敵に回ったからだろーが」
「私はスヴェン様の命で潜入捜査をしていたんだ」
メレルが用意していた嘘をついた。
「はっ! そうかよ! スヴェンにそんなことを考える頭はないし、どう考えても嘘だろうが、信じてやろう! だがな、どっちみち、お前もスヴェンももういらん」
「何!? スヴェン様を愚弄するか!?」
「いや、そんなつもりはない。スヴェンは強い。それに戦うことしか興味のない純粋な魔族だから非常に役に立つ男だった。だが、もういらん」
「意味がわからない。お前は何を言っている?」
メレルがそう聞くと、男がこちらを振り向く。
その顔は広場で斧を振り下ろし、カラスちゃんを弓で射抜いたフォルカーだった。
だが、何かが違う。
「お前らは本当にアホだ」
フォルカーがそう言ってニヤリと笑った。
「お、お前! 人族か!?」
メレルがそう叫んだことで気付いたが、確かに魔族特有の青白さがなく、人族にしか見えない。
もちろん、昨日、広場で見た時も昼にこの屋上で見た時もそんなことはなかった。
そして、そこで気が付いた。
俺は下で魔力を感じた時からずっと違和感を覚えていた。
それは魔力の質だ。
魔力は種族によって、微妙に質が異なっている。
人族、エルフ、魔族、獣人族……
俺はこれまでに色んな種族を見てきたが、どれもわずかにだが魔力の質が異なっていた。
そして、フォルカーから感じる魔力は魔族のものではなく、人族のものだ。
「ようやくか……俺がこの組織に入って何年にもなるが、ようやく気付いてくれたか……それもこうやって真の姿を見せて、やっとだ…………バーカ! 本当に無能集団だな! ははは!」
フォルカーが高らかに笑った。
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