第199話 ネズミVSキツネ
転移すると、潮の香りと波の音を感じた。
暗いが、ここが海岸沿いの砂浜だということがわかる。
「ユウマさん、お願いします」
メレルが頼んできたので護符を取り出すと、投げた。
すると、巨大な大蜘蛛ちゃんが現れる。
大蜘蛛ちゃんは黒いうえに動かないため、目立っていない。
だが、怪しく光る8つの目がぎょろぎょろと動いている。
「こわー……間近で見ると、本当に怖い……」
メレルが上を見上げながらつぶやいた。
「大蜘蛛ちゃん、やれ。後でナタリアがクッキーを焼いてくれるから」
そう言うと、突如、大蜘蛛ちゃんが飛び上がった。
「え?」
「ん?」
「ほえー……」
「あの蜘蛛、飛べるんですね……」
大蜘蛛ちゃんは放物線を描きながら飛んでいくと、数百メートル先の港の方に着地した。
そして、遠目にも足を使って、船を破壊している様子が見える。
「これはもうじき兵が集まってきますね。この先に潜入しましょう」
「そうだな。その前に援軍の大ムカデちゃんも出しておこう」
護符をもう1枚出すと、砂浜に投げた。
すると、今度は大ムカデちゃんが現れる。
「で、出たぁ……」
メレルが涙目になって俺の後ろに回った。
「大ムカデちゃん、援護に行け」
そう言うと、大ムカデちゃんがたくさんの足を動かし、ゆっくりと港の方に向かう。
「よし、行くぞ」
俺達はこの場を大蜘蛛ちゃんと大ムカデちゃんに任せ、転移した。
そして、昼に来た廃アパートに転移すると、階段を降りていく。
「こちらです」
メレルがそう言って歩き出したのでついていった。
すると、幅が数メートルはある水路までやってくる。
「この下ですね」
「下?」
下を覗いてみると、水路の先には鉄格子で覆われた穴が見えた。
「下水道になります」
マジ?
「ここを行くのか? 濡れたら寒いぞ」
というか、汚い。
「ちゃんと管理道がありますよ」
メレルはそう言うと、近くにあった階段を降りていったので俺達も続く。
すると、確かに下水道の端には人が一人歩けるくらいの石作りの道があり、奥に続いていた。
「ここかー……」
「ネズミがいそうですねー……」
俺とリアーヌが嫌そうな声を出す。
「お貴族様はめんどくさいですねー。大丈夫ですって。ネズミもよく見たらかわいいですよ」
山ネズミはかわいいけど、町にいるネズミはかわいくないと思うなー……
不潔だし。
「よいしょ、よいしょ……」
AIちゃんが俺の背中によじ登ってきた。
そして、首に腕を回す。
「おい、子ギツネ、邪魔だ」
俺に抱えられているリアーヌが背中にいるAIちゃんに文句を言った。
「おばあちゃんもたまには歩いた方が良いですよ」
「私は寒そうなユウマ様を温めているんだ」
実際、温かい。
背中のAIちゃんも温かい。
目の前の魔族の目は冷たい。
「耳元でケンカするな。メレル、これはどうやって入るんだ?」
「爛れてるなー……あなたの部屋、女の匂いしかしないし……」
聞けよ……
「それはいいから……」
「実はこれ、外れるんです」
メレルはそう言うと、鉄格子に触れる。
すると、1本の鉄格子がポロっと取れた。
「ショボいなー」
「鍵をかけると中に入ろうとするのが人間です。ですが、鍵がないと入るところではないと認識するんですね」
わからんでもない。
「まあいいや。行くか」
「中はさすがにライトを使いますが、足元にはご注意を。あなたが落ちると自動的にチビ2人も下水です」
死なばもろとも。
一蓮托生。
旅は道連れ。
「ひえぇ……」
「マスター、晩年を思い出して、こけないでくださいね」
2人が抱きつく力を強くした。
「大丈夫だよ」
「行きますよー」
俺達が水路の中に入っていくと、メレルがライトを使ってくれたのでその灯りを頼りに奥に進んでいく。
ライトは明るいが、薄暗い。
しかも、微妙に臭いし、寒い。
「あわわ……ドブネズミです」
俺の足元でネズミが走っていくのを見たAIちゃんがビビる。
「キツネがネズミを怖がるなよ」
ビビるAIちゃんを見て、リアーヌが呆れた。
「あ、登ってきましたよ」
「ひえぇ……ユウマ様ぁ……」
リアーヌが情けない声を出して、抱きついてくる。
「嘘です」
「剥製にしてやろうか……?」
ケンカすんなっての。
「あまり大きな声を出さないでください。反響してうるさいから」
メレルが苦言を呈してきたので静かにしながら歩いていった。
「メレル、ここはどれくらいの人間が知っているんだ?」
「知っているのは私だけです。前の団長に聞きましたので」
フォルカーに殺された奴か?
「元カレですかー?」
AIちゃんが茶化す。
「前の団長は50歳前の人ですよ? ないない。単純に私が密偵だったから聞いていただけです」
「この道はどこに出るんだ?」
「本部の1階にある厨房ですね。この時間は誰もいないでしょうから大丈夫です」
俺達はその後も暗い水路を歩いていくと、どんどんと匂いが強くなっていった。
「あそこですね」
メレルが指差した先には梯子があった。
俺達は歩いていき、その梯子の前までやってくると、上を見上げる。
「この上なわけか……」
「そうですね」
うーん……
「大丈夫か、これ? 錆びてるだろ」
梯子は木製ではなく、鉄でできているが、かなり古いように見える。
「大丈夫ですって」
マジかよ……
「じゃあ、行ってみるわ。リアーヌ、手を離すからな」
「どうぞ」
俺が抱えている片手を離すと、リアーヌがぶら下がった。
「姉妹と遊んでいるパパにしか見えませんね」
「パパは娘を下水道に連れてこねーよ」
そう言い返すと、自由になった両手で梯子を掴む。
かなり冷たかったが、我慢をしながら登り始めた。
梯子はメレルが言うように思ったより丈夫だったらしく、特に問題なく登っていく。
すると、天井までやってきた。
「AIちゃん、誰かいるか?」
「いえ、いません」
なら行けるか。
俺は軽く天井を叩いてみる。
「ぶっ……」
「ひゃう」
「目がぁ……」
叩くと、砂やほこりが落ちてきて、俺達の顔にかかった。
「当たり前じゃないですか……やるなら思いっきりやってください」
そう言われたので目を閉じながら一気に押す。
すると、かなりの重さを感じたが、何かが浮いたので横にずらし、上に登りきった。
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