第197話 帰る
俺達は港をあとにし、再び、町中を歩いている。
昼に近づいてきたせいか、町を歩く住民が増えだし、大通りが混みだした。
広場であんなことがあったのに皆、普通に歩いているし、活気もある。
「普通だな……」
「慣れっこなんですよ。それに弱肉強食の魔族にとってはそこまで変なことではないのです。ね? 相容れないでしょ?」
セリアの町で同じことが起きたら皆、家に籠るだろうな。
俺も多分、無理やりにでも女共を連れて、違うところに引っ越すだろう。
「でも、やりすぎだからレジスタンスが立ったんだろ?」
「はい。昼間はまだこんな感じですが、夜は静かだったでしょう?」
確かに夜は静かだった。
歓楽街はまだ人がいたが、そこ以外は見回りの兵士しかいなかった。
「夜は危険なんですよ。兵士が酒を飲みながら見回りをしていますし、前は絡まれて殺されたり、襲われたりしたんですよ。それ以来、夜はほとんどの人が出歩きません。力に自信のある者や生活がかかっている娼婦くらいでしょうね」
そうなると、あの宿屋の店員は俺とリアーヌを完全に怪しんだだろうな。
そんな状況で夜に出歩いているんだもん。
それでも通報もしなければ、何も聞いてこなかったところを見ると、やはりレジスタンスを好意的に見ているのだろうか?
「昨日、歓楽街の宿屋に泊まったが、大丈夫か?」
「歓楽街? あの辺は大丈夫ですよ。軍の横暴のせいで商売あがったりですからね」
それもそうか……
客が減っているだろうし。
「いずれは昼間も怪しくなりそうだな」
「だと思いますし、そうなるだろうと予想している者が少しずつこの町から離れています」
だろうなー。
ターブルの町の方が絶対に良い。
俺達がそのまま歩いていると、メレルがとある建物の中に入っていった。
「ここは?」
「もう使われていない廃アパートです。ここから軍の本拠地が見えます」
メレルがそう言って階段を昇っていったので俺も続く。
そのアパートの最上階である3階まで昇ると、とある部屋に入り、窓から外を覗いた。
すると、視線の先には20メートル以上はある高い壁が見えた。
「あれか?」
「はい。あの壁の向こうに軍の本拠地があります。入口は1つ。もちろん、警備は厳重です」
「見えんなー……」
壁の向こうはさすがに見えない。
『マスター、カラスちゃんの出番です!』
脳内にいるAIちゃんがカラスちゃんを勧めてきたので懐から護符を取り出して投げる。
すると、カラスちゃんが現れた。
「カー」
カラスちゃんは一鳴きすると、窓から飛び立ち、壁の方に向かって飛んでいく。
「あなた、変な動物をいっぱい出せますねー」
変は余計だ。
カラスちゃんが壁まで飛んでいったので視界をリンクした。
そして、壁の中を見ていくが、大きな建物が2つあるだけで後は敷地内を兵士が歩いているだけだ。
「建物が2つあるが?」
「小さい方が宿舎で大きい方が本部ですね」
ふーん……
「壁を越えても木なんかの遮蔽物がないから厳しいな……お前、元軍人だったら中も詳しいよな?」
「ええ。もちろんです」
だったら蜂さんを使ってまで中を見なくてもいいか……
時間がかかるしな。
それにしても……ん?
カラスちゃんが旋回していると、本部の方の屋上に男が立っており、こちらを見ていた。
そいつはニヤリと笑うと持っていた弓を引く。
『カラスちゃん、逃げろ』
カラスちゃんは急速旋回をすると、引き返していく。
しかし、次の瞬間、カラスちゃんの視界が暗くなり、リンクが切れた。
「撃墜されたか……」
『カラスちゃんを打ち落とすなんて……』
さっきの男はフォルカーだった。
何故、カラスちゃんに気付いたのか?
それに飛んでいるカラスちゃんを弓で撃ち落とすなんて相当の腕だ。
「どうしたんですか?」
メレルが聞いてくる。
「気付かれた。すぐに移動しよう」
「わかりました。偵察はもういいでしょう」
それもそうだな。
「メレル、リアーヌに触れ」
「こうですか?」
メレルがリアーヌの頭を撫でると、リアーヌがメレルを睨んだ。
「怖っ……撫でていいのは旦那様だけですかね?」
メレルはニヤつきながらリアーヌの肩に触れる。
「リアーヌ、俺の部屋に帰ろう」
「わかりました」
俺達は転移をし、部屋に戻った。
すると、部屋で待っていた5人が昼食を食べており、帰ってきた俺達を見てくる。
「あ、戻ってきた。ご飯、持ってくるね」
「あ、手伝うー」
ナタリアとリリーが箸を置くと、立ち上がって、部屋から出ていった。
俺達は定位置に座ると、コタツに入る。
「あー、腹減った」
何も食べてない。
それにまだ眠い。
『マスター、出してくださいよー』
AIちゃんがそう言ってきたので護符を取り出し、隣に出した。
すると、ナタリアとリリーが4人分の食事を持ってきてくれる。
「あ、私のもあるんですか……どうもです」
アニーの隣に座っているメレルが礼を言う。
「ついでだしね。それにしても、メレルさん、無事だったんだね」
「ええ。必死ですよ。捕まったら地獄ですからね」
だろうなー……
「とりあえず、食べなさいよ。話はそれからでいいでしょう」
アニーがそう言ったので先に食べてしまうことにした。
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