第195話 無事
宿屋で待機していると、なかなか寝なかったリアーヌもようやく眠りに就いたようでスースーと寝息が聞こえてきた。
「抱いちゃえばいいのにー……絶対に待ってましたよ」
AIちゃんが俺の腰に抱き着いて寝ているリアーヌを見る。
「アホ言うな。あれを見た後にそんな気分になれるわけないだろ」
もちろん広場での惨劇のことだ。
「まあ、そうですけど……」
「それよりも店員は?」
「動きなしです」
店員は問題ないだろうな。
「一応、朝まで待機な」
「はーい……メレルさん、大丈夫ですかねー?」
「さあな」
俺達はそのまま夜が明けるのをひたすら待ち続けた。
そして、ようやく朝になると、リアーヌが目を覚ます。
「あれ?」
リアーヌは掛け布団をめくると、中を見た。
「紳士ですね」
何も言うまい……
「とりあえず、問題はなかったし、部屋に戻るぞ」
「はい」
俺達は一度、部屋に戻ることにする。
リアーヌの転移で部屋に戻ると、朝早い時間だというのにパメラを含めた全員が部屋で待っていた。
「早いなー。パメラ、仕事は?」
「休み。さすがにねー……」
心配してくれたようだ。
「マスター、少し仮眠を取ってください。説明は私がしておきますので」
「そうするか……」
俺は布団まで行くと、横になった。
「あ、出ようか?」
ナタリアが聞いてくる。
「いていいぞ。俺はまったく気にしない」
「そう?」
「マスターは1人が嫌な方なんです」
AIちゃんが説明してくれたのでそのまま目を閉じ、眠りについた。
◆◇◆
「マスター、そろそろ起きて宿屋を出ないとマズいですよー」
身体を揺すられたので目を覚ますと、AIちゃんが起こしてくれていた。
「そうだな……AIちゃん、消すぞ」
「はーい」
AIちゃんを護符に戻すと、立ち上がる。
「ご飯はいいの?」
ナタリアが声をかけてきた。
「後でいい。まずは安全な宿屋を探す。そこからだな。リアーヌ、行くぞ」
「はい」
リアーヌに触れると、すぐに転移で宿屋に戻ってくる。
「とりあえずは出よう」
そう言いながらリアーヌを抱えた。
「あの、今日もこの体勢ですか? わ、私は嬉しいんですけど……」
「いつでも逃げられるようにしておきたい。指示をしたらすぐに飛べ」
敵は想像以上に蛮族だし、俺はともかく、リアーヌが捕まるとマズい。
「わ、わかりました」
リアーヌが頷いたので部屋を出ると、階段を降りていく。
「遅かったな。そろそろ呼びにいこうかと思っていたんだ」
階段を降りると、受付にいる昨日の男が声をかけてきた。
「妻がすっかり怯えてしまってな。内気な子なんだ」
「それで抱えているわけね。まあ、もう大丈夫だとは思うが、気を付けな。またどうぞ」
俺とリアーヌは店員に見送られ、宿屋を出た。
外はすっかり明るくなっており、昨日の歓楽街の雰囲気は消えている。
俺達は人通りが増えた街並みを歩きだした。
「リアーヌ、少しの間、目を閉じていろ」
そう言いながら片手でリアーヌの後頭部を抑える。
「わかりました」
リアーヌが素直に頷いたため、そのまま歩いていき、人が集まり、騒がしくなっている広場までやってきた。
広場では昨日のレジスタンス達の首が晒されていた。
「……レジスタンス共、ついにバレたのか?」
「……裏切者がいたんじゃないかって噂よ」
「……それにしてもここまでするか」
「……そろそろこの町を離れる時かもな」
広場でさらし首を見ていると人々はヒソヒソと話をしている。
俺はリアーヌの後頭部を抑えたまま、広場を離れた。
「もういいぞ」
そう言うと、リアーヌが顔を上げる。
「子ギツネに聞いていましたけど、本当だったんですね……」
顔を上げたリアーヌがポツリとつぶやいた。
AIちゃんはそこまで説明したらしい。
「ああ。やはり援軍を来させないようにしないと」
「ですね……」
そのまま歩いていき、今度はスヴェンの家に向かう。
すると、スヴェンの家が黒焦げになっているのが見えた。
「……反応するなよ」
「……ええ、わかっています」
俺とリアーヌは周囲の人と同じように軽く火事場跡を眺めると、すぐにその場から離れる。
「少なくともメレルは逃げたな」
スヴェンの家からある程度、離れると、歩きながら言う。
「だと思います。そうでないと、家を燃やす意味はありません」
軍はメレルを探しているんだろうな。
しかし、あいつの能力なら逃げ切れるだろう。
もうこの町から離れ、スヴェンのもとに行った可能性がある。
「仕方がない。俺らだけでやろう」
「ですね」
俺達がそのまま歩いていると、屋台が立ち並ぶ区画にやってきた。
周囲を見渡しながら歩いていると、朝食を食べていない俺には少々、きつい。
「お客さーん、昼食を食べていかないかい?」
歩いていると、店の前で立っているウェイトレスが声をかけてくる。
「いらない」
「そう言わずさー、安くしとくよ。奥さんもお腹が空いてるって」
「それもそうだな。じゃあ、食っていくわ」
「どうぞー」
俺はウェイトレスに招かれて、店に入った。
店に入ると、そこそこ広い店内だったが、俺達以外には客も店員もいない。
「逃げたかと思ってたわ」
リアーヌを抱えたまま、空いている椅子に座ると、ウェイトレスに声をかける。
すると、ウェイトレスの姿がメレルに変わった。
「おー、よくわかりましたねー。わかってーっていう念を送った甲斐がありました」
メレルが感心する。
「俺に抱えられているリアーヌを見て、奥さんって言う奴はいねーよ」
どう見ても子供だ。
「あなたがバカじゃなくて良かったです。それに無事で何より」
「お前もな」
とっくに彼氏のところに逃げたかと思ったわ。
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