第194話 俺は眠れそうにない
宿屋に入ると、中は薄暗く、すぐにそういう宿屋だと雰囲気でわかる。
そのまま受付まで歩いていくと、ひげを生やした男が座っていた。
「いらっしゃい……」
男はジロジロと俺達を見てくる。
「部屋を借りたい」
「お客さん、ここがどこかわかってるのか? ガキを連れてくるところじゃないぜ?」
「ガキ? 妻だ」
そう言うと、男が訝しげな表情でリアーヌを見た。
「……妻?」
「ああ。こう見えても妻は25歳で俺より年上だ」
嘘は言っていない。
「ホントかよ……まあいいか。こんな時にそんな見た目の嫁を連れて、うろつくんじゃねーよ」
「こんな時? 何かあったのか? 実は妻が海を見たいと言うから連れていったのだが、急に兵が増えたから慌てて、ここに来たんだ」
「あー……そういうことか。摘発だよ。レジスタンスの馬鹿達が下手を打ったらしい……ったく」
やはりバレたか……
「チッ! いい迷惑だ」
「まあ、そう言うなよ。あいつらはあいつらで考えていたんだし」
レジスタンスは割かし、好意的に見られているな。
税金のせいか……
「そういうことならなおさら外には出られん。一泊させてくれ」
「いいぜ。銀貨5枚だ」
そう言われたので懐から銀貨を取り出して受付に置く。
ちゃんとメレルに頼んで両替してもらったこちらの銀貨だ。
「はいよ。じゃあ、202号室だ」
銀貨を受け取った男が代わりに鍵をくれたので受け取った。
そして、受付近くにある階段を昇ると、202号室を探す。
すると、部屋のあちこちからくぐもった声やそういう声がわずかに聞こえてきた。
俺はうるせーなーと思いながら部屋を探していると、202号室を見つけたので中に入る。
部屋の中は質素な作りで狭かったが、ベッドだけは大きかった。
俺はリアーヌを抱えたままベッドに腰かける。
「ユウマ様、防音の魔法を使いましたので普通に話しても大丈夫ですよ」
リアーヌはそういうことができるらしい。
「そうか……」
俺は懐から護符を取り出すと、床に投げる。
すると、AIちゃんが現れた。
「ふう……とりあえず、これで一息つけますね」
出てきたAIちゃんが文字通り、一息つく。
「そうだな。追跡している奴は?」
「いません」
とりあえずは安心かねー?
「リアーヌ、お前は部屋に戻れ。俺はここを見張る」
「見張るんですか?」
「この状況だと、あの店員は俺をレジスタンスの人間と思うかもしれん。その場合、軍に売られると厄介だ。今晩はここで見張る」
客商売だし、レジスタンスに好意的っぽかったから大丈夫だとは思うが、信用できない。
「でしたら私も付き合います。私の転移で逃げられますし」
それが良いかもしれないな。
「リアーヌ、一度、戻って、あいつらに説明して解散させろ」
「わかりました。では、すぐに」
リアーヌは頷くと、すぐに消えていった。
「AIちゃん、お前は周囲をサーチしてろ。特にあの店員が動いたら要注意だ」
「わかりました。マスターはお休みに?」
「いや……」
懐から護符を取り出すと、投げた。
すると、小さな蜂さんが現れる。
「偵察ですか?」
「ああ。そんなに遠くには行けないが、周囲を見てくる」
本当はカラスちゃんが良いのだが、カラスちゃんは夜がダメなのだ。
まあ、蜂さんも得意ではないが、真っ暗というわけではないからなんとかいけるだろう。
「わかりました。では、私は周囲を見張ります」
「任せた」
AIちゃんが頷いたので蜂さんと視界をリンクすると、窓を開けた。
蜂さんは窓から出ると、通りまで降り、飛びながら進んでいく。
この辺りは本当に歓楽街のようで王都のような喧騒さは一切ないが、ぽつぽつと娼婦らしき女と歩いている酔っ払いの男が見えた。
そのまま通りを進んでいくと、視線の先がやたら明るかったのでそこを目指して進んでいく。
すると、そこは広場のようで多くの人が集まっていた。
その集まっている人々は2種類に分けられる。
兵士とその兵士に囲まれている者達だ。
そして、その囲まれている者達は皆、縄で縛られていた。
間違いなく、摘発されたレジスタンス達だろう。
ただ、見る限り、レジスタンスの中にメレルの姿はない。
蜂さんとリンクしても音を拾うことはできないため、何を言っているのかはわからないが、縛られているレジスタンス達は何かを叫んでいる。
すると、兵士の中から屈強な身体をし、斧を担いでいる男が現れた。
周りの兵士が敬礼をし、道を開けているところを見ると、階級が上なことがわかる。
そんな男は縛られているレジスタンス達のところに行くと、一人の男の髪を掴み、引っ張り出した。
そして、男を投げるように放ると、斧を振り上げる。
直後、斧を振り下ろすと、男の首が飛び、音は聞こえないが、兵士達が活気づいた。
「チッ……」
蛮族かよ。
俺が悪態をついていると、斧男が指で指示を出しながらレジスタンスを2つに分けていく。
すると、斧男は10人程度の兵士と共に一方を連れて、どこかに行ってしまった。
「何の分けだ?」
特に偏りは見えない。
俺が疑問に思っていると、残されたもう一方のレジスタンス達に悲劇が起きる。
俺はこれ以上見る必要ないなと思い、蜂さんに帰還するように伝えた。
「ひどいですねー……男は処刑、女は……」
どうやらAIちゃんも見ていたようだ。
「大陸を追い出されるわけだな。秩序がねーわ」
迫害って言ってたし、お互い様なところもあるだろうけどな。
俺は立ち上がると、窓に行き、帰ってきた蜂さんを護符に戻し、窓を閉める。
すると、リアーヌが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「皆は?」
「寝るそうです。明日の朝、また待機するって言ってます」
まあ、どちらにせよ、部屋に来るわな。
「わかった。お前も寝ていいぞ」
「ユウマ様と子ギツネは起きているんでしょう? 私も起きてます」
リアーヌがそう言うので抱えると、ベッドまで連れていき、寝かせる。
「いいから寝ろ。何かあったら起こす」
「は、はい……い、いつでも起こしていいですから!」
リアーヌはそう言うと、掛け布団を被った。
「他の部屋の熱気に当てられましたか、発情ロリ……」
まあ、ずっと顔が赤かったしなー。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!