第157話 美味しい!
朝早くに起きた俺達が朝食を食べ、準備を終えると、山の麓に転移した。
「さて、どうやって行くか……」
俺達は上を見上げた。
「一応、登山道もあるし、洞窟の中から上にも上がれるよ」
リリーが教えてくれる。
「お前は来たことがあるのか?」
「あるにはあるけど、エルフはあまり来ないね。ここはグリフォンが出るんだけど、風が強くて弓で狙うのが厳しいんだよ」
グリフォン?
「なんだそれ?」
「空飛ぶ獣。Cランクの魔物だけど、空を飛ぶから脅威度はそれ以上だよ」
確かに脅威だな……
「ドラゴンがいれば隠れていると思うが……」
「どうだろうね?」
危険か。
いくらなんでも空から襲われるのは危険すぎる。
探知があるとはいえ、上空は人間の死角なのだ。
「洞窟とやらは?」
「リザードが出るね。こっちの方が楽だと思うよ。風を防げるからそこまで寒くないし」
リザードって大きいトカゲだったっけ?
結局、森でも見なかったな。
やはりドラゴンの影響だろうか?
「洞窟がいい」
「…………賛成」
寒がり2人は外が嫌らしい。
まあ、わからんでもないし、俺もそっちが良い。
「どうする?」
ナタリアとリアーヌに確認する。
「私も洞窟かな。寒さもだけど、グリフォンが怖い」
「私もです」
まあ、そうか。
AIちゃん、アリス、リアーヌは小さいから余計に狙われそうだし。
「じゃあ、洞窟にするか。リリー、洞窟で頼むわ」
「わかった! こっち、こっち!」
リリーがそう言って案内してくれるので右の方に歩いていく。
しばらく歩いていくと、山の岩肌に開いた穴が見えてきた。
「ここ!」
リリーがそう言って、穴の前で立ち止まったので穴というか洞窟を見てみる。
洞窟は幅も高さも十分にあり、この人数でも通れる大きさはある。
中は暗くてよくわからないが、よく見ると、壁にはたいまつをさせる金属の籠が設置されていた。
「人工の洞窟か?」
「うん。昔の採掘場だったらしいよ」
鉱山か何かだろうか?
「落盤とか大丈夫か?」
「うーん、大丈夫だと思うけど……里の人達が石材を採るのにたまに来るらしいけど、そういう話は聞いたことがないし」
そうは言ってもエルフって特殊だからなー。
「リアーヌの転移があるし、最悪はそれで脱出はできるんじゃないの? 外よりよっぽど良くない? 山って突風が吹くし、転移が使えるリアーヌや死んでも死なないAIちゃんはともかく、アリスとか吹き飛びそうよ」
まあ、その時はカラスちゃんか蜂さんを出すが、危ないことは確かか。
「…………落ちたくない」
アニーの言ったことを想像したであろうアリスが首を横に振る。
「外は落石も怖いしなー……まあ、こっちか」
「…………そうそう」
首を横に振っていたアリスが今度は縦に振った。
「しかし、暗いな……」
洞窟の中は真っ暗だ。
「私がライトを使おうか?」
「…………私も使える」
「あ、私も」
「私も!」
「私は…………太陽を出せますね」
皆、使えるわけね。
リアーヌの魔法はあのめちゃくちゃ明るくなるやつだろう。
尽きるほど魔力を使うからなしだな。
「じゃあ、リアーヌ以外は頼むわ。AIちゃん、サーチを頼むぞ」
「任せておいてください」
洞窟だと、前後の2方向しかないからAIちゃんのサーチが生きるだろう。
「よし、行くか」
俺達は洞窟に入ることにした。
そして、洞窟に入ると、4人が一斉にライトとやらを使ったので一気に明るくなる。
「おー! 普通に見えるな」
「ですねー。私も覚えようかな?」
「それがいいな。便利そうだ」
どうせ買えるんだろうし。
「ところで、皆さん。明るいのは良いんですが、その状態で攻撃魔法を使えるんですか?」
「使えない」
おい……
「えー……」
「洞窟の中で魔法なんか使ったら危ないじゃない。ユウマがやって」
まあ、確かに危ないか……
「じゃあ、俺がやろう」
懐から護符を取り出すと、霊力を込め、剣を作る。
「頼りになるなー」
「ねー」
「…………かっこいい」
「さぞ、前世でもモテたんでしょうね」
「Aランクにしよう」
女共が賛辞を贈ってくれる。
「マスター、狛ちゃんがリアーヌさんを乗せていますし、後衛に何かいた方がいいのでは?」
確かに……
「そうだな。これまでと違い、一本道なわけだしな。後ろをどうにかしよう」
そう言って、懐から護符を取り出すと、後ろに投げる。
『………………』
皆が護符を眺めていたが、さっきまでの賛辞を贈っていた笑顔は消え、無言のまま嫌そうな顔になった。
「大ムカデちゃんですね。これなら安心でしょう」
大ムカデちゃんは上体(?)を起こし、見下ろしている。
その大きさは俺達の身長をゆうに超えていた。
「頼むぞ」
そう言うと、大ムカデちゃんはキョロキョロと周囲を見渡す。
「ドラゴンはどこって言ってますね。溶かして食べたいそうです」
好戦的だなー……
それに誰かさんを食ったせいで捕食者の血が目覚めている。
「後ろに来たトカゲを食え」
「仕方がないって言ってますね」
「よし、行くぞ」
俺達は後ろを大ムカデちゃんに任せ、俺とAIちゃんを先頭にして洞窟を進み始めた。
「ねえ……」
「振り向いちゃダメだよ」
「…………こっち見てない? すごい圧を背中に感じるんだけど」
「魔族を溶かして食べたやつでしょ?」
「そう聞いている……この中で美味そうなのはアニー……お前だな」
後ろの女共がひそひそと話している。
「マスター、前方にリザードと思わしき魔物がいます。距離は30メートル…………え?」
「ん?」
気配がしたので上を見ると、大ムカデちゃんが壁を伝ってかさかさと動いていた。
そして、ものすごい速さで奥に向かっていく。
「おーい、お前は後ろだろー?」
相変わらず、全然言うことを聞いてくれないな。
「マスター、敵の反応が消失。大ムカデちゃんが撃退したようです」
「早いなー……でも、戻ってこない」
「ここで待つことを推奨します。ショッキングな映像を見せない方がよろしいかと……」
食べてるのね……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!