第153話 時すでに遅し
俺達がリリーの家で待っていると、リリーの親父さんがやってきた。
「あ、おかえりー」
「おかえりなさい」
リリーとお母さんが出迎える。
「ああ……リアーヌ様、村長が会って話がしたいと言っております」
親父さんはリアーヌのもとに行くと、声をかけた。
「うむ、行こう。ユウマ様、お願いします」
リアーヌが俺を見る。
「そうだな。お前らは待ってろ。ぞろぞろと行っても迷惑になるだけだ。あ、リリー、お前は来い」
「わかった!」
俺達は親父さんと共に家を出た。
そして、親父さんの案内のもと、家と家を繋ぐ板の上を歩いていく。
すると、2、3軒隣の家の前で親父さんが立ち止まった。
「ここだ」
親父さんがそう言って家に入っていったので俺達も続く。
家の中は先程のリリーの家の作りとそうは変わらず、老エルフがテーブルのそばで座っていた。
「村長、リアーヌ様をお連れした」
「ご苦労。リアーヌ様、お久しぶりです」
村長さんがリアーヌに頭を下げる。
「お久しぶりです。お元気そうで何より」
どうやら会ったことがあるらしい。
「いえいえ、どうぞ、お座りください。床で申し訳ないですが……」
「いや、私は元々そういう世界の人間です。それに最近はほぼその生活ですので問題ありません」
コタツに入っているもんな。
「さようですか。では、どうぞ」
俺達は勧められたのでテーブルを囲むように座る。
すると、奥から奥さんらしき老エルフがお茶を持ってきてくれた。
「村長、アポもなしに急に訪れて申し訳ない。これをどうぞ。王都のワインです」
リアーヌが謝罪すると、ワインを渡す。
「これはわざわざありがとうございます。聞けばリリーがお世話になっているとか……それについてもありがとうございます」
「リリーは優秀な冒険者です。特に森では大変活躍してくれました」
リアーヌがそう言うと、リリーがドヤ顔になった。
「そうですか……おっちょこちょいなところもある子なんですけど……」
うん。
「とんでもない。弓も魔法も優秀ですし、とても明るく良いムードメーカーとこちらのパーティーリーダーであるユウマ様も評価しておりました」
リリーがニマニマしだした。
「そうですか……貴殿がユウマ殿ですかな? はじめまして。リリーが迷惑をかけていませんか?」
村長が聞いてくる。
「いえいえ。とんでもありません。大事な仲間ですし、とても優秀です」
リリーが顔を赤くし、照れたように頭をかいた。
表情がコロコロ変わり、非常に忙しそうだ。
「なら良かったです。リリーをお願いします」
「お任せください」
村長が頭を下げてきたのでこちらも下げ返す。
「うむ……それで村長、聞きたいことがあるのですが」
リアーヌが本題に入った。
「空を飛んでいた鳥のことですな?」
「はい。詳しい話を伺いたいです」
「その前に単刀直入に聞きます。あれは何ですか? あまりにも遠くでしたが、わずかに魔力を感じました。逆を言うと、それだけ離れているのに感じ取れるほどの魔力があるということです」
そうなるね。
「ドラゴンと思われます」
「やはりそうですか……」
リアーヌがはっきり告げると、村長が肩を落とす。
「見当がついていましたか?」
「他に覚えがありませんので。そんな中、たかが鳥のためにこんなところまでリアーヌ様が参られたということはそういうことでしょう」
「何と言っていいか……」
「天災みたいなものですので仕方がないでしょう」
あの程度が天災かね?
「経緯を説明しますと、我らがいるセリアの町でこの者達が森で仕事をしていたらドラゴンを見たとのこと。我らはそれを追って、この地まで来たのです」
「リリー、お前も見たのかね?」
村長がリリーに聞く。
「見たよ。翼と長い尻尾があるでっかいのが空を飛んでた」
「本物か……つまりそんな天災があの山にいる可能性があると?」
「そうなります。ただ、山を越えていった可能性もありますし、あくまでも調査と確認です」
「リリーも連れていくのですか?」
あー、そこを気にするか。
「ドラゴンは温厚ですし、戦闘になることを想定しておりません。あくまでも調査です」
「まあ、リアーヌ様がいるということはそうでしょうが……しかし、ドラゴンがこの地に来るなど聞いたことありません。何らかの異常が起きているのでしょう」
「それはまあ、そうですが……」
リアーヌが言い淀んだ。
「村長、別に問題ないよ。普通に行って見てくるだけ」
リリーがあっけらかんと言う。
「お前はドラゴンを見たのだろう? 何か感じるものがなかったのか?」
「別に……飛んでるなー、大きいなーとだけ」
「ハァ……」
村長がため息をついた。
「だってねー……ユウマ、ドラゴンを倒せるんでしょ?」
「は?」
村長が呆ける。
「いや、倒さないっての。温厚で人を襲うことがないんだろう? だったら倒す意味がない。俺は無駄な殺生はしないんだ」
「襲ってきたらどうするの?」
「アニーが血と心臓を欲しがっていたからくれてやる。飛行能力は厄介だが、あの程度の魔力なら俺の相手ではない」
大蜘蛛ちゃんの出番だ。
「ほらー、こう言っている! ユウマは強いんだよ!」
「あと、かっこいい」
「そうだ、そうだー」
チビ2人が後ろから追加する。
「……おぬし、魔族か?」
村長さんが目を細めて聞いてきた。
「あの程度と一緒にしてくれるな。魔族なんかお前らとそう変わらんだろ」
「あ、ユウマは転生者なんだよ。何とかっていうお偉い家の当主様」
如月な。
「転生者か……リアーヌ様、問題ないので?」
リアーヌに聞いても無駄だぞー。
「何も問題はないです。ええ、何も。とても素晴らしいお方だと思います」
ほら、よいしょしかしない。
「そうですか……まあ、リリーもすでに大人です。自分で判断できるでしょう」
「そうだよ! 全部、ユウマに任せておけばいい! 皆、そうしてる!」
自分で判断してないな。
いや、そういう判断か。
うん、それでいいな。
「ハァ……まあ、そういうのもあるでしょう。しかし、ドラゴンと戦うのはなるべく避けてもらいたい。ユウマ殿が強かったとして逃げられて被害が出るのは避けたい」
飛べるもんなー。
「わかっている」
その時は煉獄大呪殺か妖狐無間地獄で消滅だな。
もったいないけど。
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