第148話 聞かなかったことにしよう
翌日、目が覚めると、すでに女性陣がコタツに入って思い思いに過ごしているのが見える。
「あ、起きた」
「ホントだ。おはよー」
ナタリアとリリーが笑顔で声をかけてきた。
「…………相変わらずの寝坊助さん」
「ホントよね」
生首2人に言われたくないな……
「寒いですー……」
寝ていた半妖化しているAIちゃんがそう言いながら這いつくばるように布団から出て、コタツに潜っていく。
『マスター、絶景ですよー』
「子ギツネ、コタツの中で尻尾を動かさないで。くすぐったいでしょ」
アニーは肌色面積が大きいからなー。
生足だし……
俺は2人を無視して、コタツに入ると、ナタリアが淹れてくれたお茶を一口飲んだ。
「リアーヌは?」
「まだだよ。午前中は王様に報告があるって言ってたじゃん」
言ってたな。
「そうかそうか」
「朝御飯、食べる?」
「そうだな……AIちゃん、食べるか?」
コタツをめくり、中で丸まっている子ギツネに聞く。
「食べまーす」
「動かすなっての……」
AIちゃんの尻尾がアニーの太もも辺りで動いているのが見える。
確かにあれはくすぐったいだろう。
「食べるって」
「じゃあ、持ってくるよ」
ナタリアがそう言って出ていったので待つ。
そのまま待っていると、ナタリアが俺とAIちゃんのご飯を持ってきてくれた。
「子ギツネ、ご飯だぞ」
そう言うと、AIちゃんがコタツから出てきたので2人で食べる。
「他の皆さんは何をしておられるんですかねー?」
さあ?
「クライヴさんは料理の研究をしてたよ」
「あいつは真面目だな」
「飲んでたけどね」
前言撤回。
「朝から飲むとはダメ人間だな、あいつ」
「多分、向こうもマスターのことをそう思っていると思いますよ」
なんでだよ。
「俺はちゃんと仕事をしている」
「そういうことではないんですけどね」
俺とAIちゃんは朝食を食べ終えると、準備をした。
そして、昼になり、皆で昼食を食べ終えると、リアーヌがやってくる。
「お待たせしました。では、参りましょう」
俺とAIちゃんがリアーヌに触れると、自室から宿屋の部屋に転移した。
宿屋の主人に料金を払い、宿屋を出ると、リアーヌに案内され、伯爵さんの屋敷を目指す。
「あそこですね」
歩いていると、大きな屋敷が見え、リアーヌが指差した。
「来たことあるのか?」
「いや、ないですけど、どう見ても典型的な貴族の屋敷です」
まあ、大きいし、鉄格子の門があって門番もいるからそうだろうな。
俺達がそのまま屋敷に近づくと、槍を持っている門番の兵士が槍を下ろした。
どうやら俺達のことがわかっているらしい。
まあ、リアーヌは特徴がわかりやすいからだろう。
「私は王都のギルドマスターであるリアーヌだ。フォール伯爵はおられるか?」
「はい。伺っております。すぐに呼んでまいりますので少々お待ちください」
兵士はそう言うと、屋敷の方に駆けていく。
「呼ぶ?」
「本人が来るじゃないんですかね?」
王家の人間ともなると、自ら来るのかね?
そう思いながら待っていると、ひげを生やした中年の男性が兵士と共にこちらにやってきた。
「おー! リアーヌ様! お久しぶりでございます!」
「うむ、久しいな。王都のパーティーで会って以来だ」
「ですな! こちらは?」
伯爵さんが俺を見てくる。
「Bランク冒険者のユウマ様だ」
「ほうほう…………例の?」
例のって何だい?
「それだ。失礼のないように」
「お初にお目にかかる。私はこの辺り一帯を治めているフォールです」
伯爵さんが握手を求めてきたので手を握った。
「初めまして。【風の翼】に所属しているユウマと申します。お会いできて光栄です。こっちはAIちゃんです」
「こんにちは」
AIちゃんがぺこりと頭を下げる。
「うむ…………しかし、急で驚きましたが、何にせよ、寒いでしょうし、我が家にお入りください。話は中で伺いましょう。どうぞ」
俺達は伯爵さんと共に屋敷に入ると、案内され、応接室に通された。
応接室にあるソファーに腰かけると、執事が入ってきて、お茶を淹れてくれる。
そして、執事が退室すると、伯爵さんがお茶を飲んだので俺達も一口飲んだ。
「お話があるとのことでしたが、その前に昨日、我が領地の橋が落ちていたとか……大変申し訳ございません。それと報告していただきありがとうございます。今朝より復旧にかかっております」
「まあ、そういうこともあるだろう。私達は魔法で渡ったから何も問題ない」
カラスちゃんが大変だったくらいだ。
「そうですか……しかし、昨年、架け替えたばかりの橋だったんですがねー。施工ミスでもあったのかな?」
「あー、いや、それはないと思う。あれは外的要因だろう」
「外的要因? 賊ですか?」
普通はそこを疑うわな。
橋を落として足止めし、迂回したり、立ち尽くしている商人を襲うのだ。
「いや、そういうわけでもない。フォール、実は聞きたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「ええ。構いません。ウチの領地に何かありましたか?」
「別に詰問に来たわけではない。この辺りで上空に大きな鳥を見たとかいう目撃情報がないだろうか?」
「鳥…………それはグッドタイミングですな。昨日、近くにあるエルフの森の民がそういうのを目撃したと報告に来ましたよ」
エルフか……
もしかして、昨日の美人さんだろうか?
「詳しく聞きたい」
「と言われましても……見たことがない鳥だったから一応、報告に来たという感じでしたよ。自分達は目が良いから見えたが、それでもかなりの上空を飛んでいたので細かいところはわからない、だそうです。私もその報告を聞いて、詳細の調査をとも思いましたが、飛んでいる鳥を探すのは一苦労ですし、そんな中に落橋でしょう? あの橋は王都に繋がる主要な街道の橋ですから急いで復旧しないといけないのです」
少なくとも、ドラゴンが問題になっていることはなさそうだ。
「その鳥はどこに飛んでいった?」
「西ですね。えーっと、ご存じでしょうが、この町より西に行けば山脈があります。そちらの方に飛んでいったそうですよ。その山脈の麓の森に住むエルフの情報なので確かかと」
山脈ねー……
「そうか……実は我らはその鳥を追っていてな。ちょっと行ってみようかと思う」
「あの山脈に行くんですか? この辺りは雪は降りませんが、それでも寒いですよ?」
山だもんなー。
「問題ない」
「えーっと、エルフが住む森はものすごい迷いやすいですよ? それにエルフは温厚とはいえ、人族が行くのは危ないような……」
「そこは問題ない。ユウマ様の仲間にその森の出身のエルフがおる」
「あー……あのドジ……失礼」
ドジ!?
「すまん……リリーが何かしたのか?」
リアーヌが伯爵さんに聞く。
「冒険者になりたいって言って森から出てきたエルフでしょう? 町にやって来て、飲食店で飲み食いをしたんですが、お金が足りなかった娘です」
あいつ、何してんだよ……
「伯爵、申し訳ない。世間知らずなところがある子なんです」
謝っておこう。
「まあ、そんな感じはしましたね。すぐに仕事をして金は返したようですが、よほど恥ずかしかったのか、すぐに違う町に行きました」
それでわざわざ遠いセリアの町に来たんか……
「マスター、この辺りの話をする時にリリーさんがまったく話に加わってこなかった理由がわかりましたね」
ドラゴンが西に行ったからイブルの町に行く……あのおしゃべりが地元の話なのにまったく話題に出さなかった。
アニーからリリーの出身地の話を聞かなかったら俺はリリーがこの辺りの出身なことすら知らなかっただろう。
「このことは聞かなかったことにしよう。リアーヌ、お前も言うな。あいつ、すぐに泣くぞ」
「わかりました」
「お口にチャックです」
しかし、ホント、ドジだな。
「なんか申し訳ないですな……」
「あ、いえ、こちらのことですので……」
伯爵さんは仕方がないだろう。
「フォール、そういうわけだから我らはエルフの森に向かう」
「わかりました。深くは聞かない方がいい案件なんでしょうね…………こちらから森のエルフに手紙を送っても良いのですが、お仲間にエルフがいるのでしたら特にいらないでしょう」
リリーが地元に帰るだけだしな。
「うむ。そういうわけだ。忙しいところをすまんな」
「いえいえ。久しぶりにお会いできて嬉しかったですし、落橋の連絡をありがとうございました」
「よい。では、これで失礼する」
「はっ!」
俺達は屋敷を出ると、一度、戻るため、またもや宿を借り、転移した。
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