第146話 カー……カー……
翌日、朝早いというか、まだ暗い中でナタリアに起こされた俺達は朝食を食べ、準備をする。
「頑張って」
AIちゃんと着替えていると、コタツに入って作業をしているアニーが声をかけてきた。
「お前、なんで起きてるんだ?」
まだ暗いぞ。
「仲間が早起きしているなら早起きするわよ。何があるかわからないし、ここで待機してる。リリーはまあ、寝てるけど」
さすがにクランの副リーダーを任されるだけあって真面目だな。
コタツから出てこないけど。
「ユウマ様の仲間は個性豊かですねー」
扉の近くで待っているリアーヌが苦笑する。
「自由なクランだから自由な人間が集まったんだとさ」
「なるほど。そういうクランも良いかもしれませんね。楽しそうです」
かつて縛られた人生を送っていたリアーヌが深く頷いた。
「楽しいわよー。無理もなく、自分のペースでやる。そうじゃなかったらナタリアもアリスもリリーも無理よ。あの子達は人に合わせるタイプの子達だから無理をして潰れるか、事故って死ぬ」
「お前は合わせそうにないな」
リアーヌが笑う。
「だからクランに所属しているのにソロだったの。今は楽ね。かっちょえー人が全部やってくれるから」
「さすがはユウマ様」
リアーヌがうんうんと頷いた。
すると、扉が開かれ、準備を終えたナタリアとアリスが戻ってくる。
「お待たせ」
「…………お待たせ」
2人がやってきたので俺とAIちゃんも扉のところに行き、靴を履く。
「いってらっしゃい」
俺達はアニーに見送られ、転移した。
視界が戻ると、朝日が昇りかけている平原が見える。
そして、近くには馬車が置いてあった。
「…………私は地味にこっち側に来るのは初めて。あっちがセリアの町か」
アリスが後ろの森を見る。
「私も初めてだね。こっちに来ることなんかないもん」
当然、俺とAIちゃんも初めてだ。
「本当は北に迂回する道があるんですが、かなりのショートカットで行けましたね。まあ、普段は魔物がいるので厳しいですが、運が良かったです」
普通は森なんか通らずに街道を行くわな。
「森の中にドラゴンはいなかったということはさらに西か」
「はい。イブルの町です。馬車に乗ってください。出発しましょう」
俺達はリアーヌに促され、馬車に乗り込む。
AIちゃん、俺、リアーヌの並びで座り、正面にはナタリアとアリスが座った。
すると、馬車が動き出す。
「強い魔物は出てこないですし、出てきても街道に着くまでですのでご安心を」
「まあ、その辺は問題ないだろう」
探知はしているし、魔物が出てきても昨日からやる気を見せているアリスが撃退するだろう。
本当はカラスちゃんを出せば索敵はバッチリなのだが、ドラゴンのことがあるから飛ぶ式神は出せない。
馬車は揺れながらも進んでいき、昼前には街道に着いた。
そして、今度は街道を進み、イブルの町を目指す。
昼になると、一旦、俺の部屋に帰り、部屋で待っていたアニーとリリーと一緒に昼食を食べた。
昼食を食べ終え、街道に戻ると、さらに進んでいく。
すると、ふいに馬車が止まった。
「ん?」
魔力は何も感じないが……
「何でしょうか?」
AIちゃんもわからないということは何かがいるというわけではないか。
「お前らは中にいろ」
そう言うと、隣にいるリアーヌをどかし、扉を開ける。
「…………私も行く」
俺とアリスが馬車の外に出ると、目の前には幅が10メートルはある川があり、その川を渡る橋が落ちていた。
「なんだこれ?」
「…………川が増水して落ちたのかな?」
「それだったらそういう跡がある。違うな……」
俺とアリスは川に近づき、落ちている橋を見下ろす。
「…………ぐちゃぐちゃだね。自然に落ちた感じじゃない」
確かに破壊されたって感じだ。
「盗賊か? ん? 何だこれ?」
橋がかけられていたであろう杭の近くにきらりと光る30センチくらいの先が尖った楕円形の薄いものが落ちている。
それを拾うと、まじまじと見てみる。
「硬いな……鱗か?」
「…………ドラゴン?」
ありえるな……
「水でも飲もうとして橋にとまったけど、壊したか……」
「…………迷惑なドラゴンだね」
ホントだわ。
「マスター、どうしたんですか?」
「何々ー?」
「こら、ユウマ様が待ってろって言っただろ」
馬車に残っていた3人も降りてきた。
「リアーヌ、橋が落ちてるぞ」
「え? あ、ホントだ。フォール伯爵は何をしているんだ……」
リアーヌがぶつくさ言いながらこっちにやってくる。
「これが落ちてた。ドラゴンが水を飲もうとして壊したんじゃないかって話してたんだよ」
「鱗? え? ドラゴンの鱗です? これ、金貨100枚はしますよ」
マジ?
ドラゴンさん、道にそんなもんを落とすなよ。
「すごっ」
「…………私が見つけたような……」
「マスター、そんなことより、どうしましょう?」
AIちゃんが聞いてきた。
「リアーヌ、あそこまで飛べんか?」
対岸を指差しながら聞く。
「行ったことがないので……」
10メートル先じゃん。
「俺が投げるのと蜂さんが運ぶのと大蜘蛛ちゃんか大ムカデちゃんに橋になってもらうのだとどれがいい?」
「カラスちゃんに頑張ってほしいです」
リアーヌが即答した。
仕方がないので護符を出すと、カラスちゃんを出す。
「カー……」
カラスちゃんはちょっと嫌そうだ。
「頼むぞ、カラスちゃん」
そう言うと、カラスちゃんが羽ばたき、リアーヌのもとに行く。
そして、リアーヌの肩を足で掴むと、必死に羽ばたき、飛んでいった。
「カラスちゃん、頑張れー」
AIちゃんが応援していると、カラスちゃんがなんとか対岸に渡り終える。
すると、リアーヌの姿が消え、すぐに隣に出てきた。
「これで大丈夫です。行きましょう」
俺達はリアーヌの転移で川を渡ると、そのまま街道を進んでいく。
そして、日が落ちそうになるくらいでイブルの町に到着した。
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