第145話 休みの日
森を抜けた翌日は休みとなったため、部屋でゴロゴロと休んでいる。
部屋にはいつものAIちゃん、アニー、アリスに加えてナタリアがおり、本を読んでいた。
「マスター、明日はどうされます?」
AIちゃんが聞いてくる。
「ナタリア、どうする?」
休みを決めるのはナタリアだ。
「行ってもいいんじゃない? 暇だし」
まあな。
「…………私が行く」
アリスが起き上がった。
「どうした? えらいやる気だな」
「…………私は行かないといけない。今、皆が私のことを役立たずなくせにわがままなチビと思っている。Bランクを返上しろという心の声が聞こえてくる」
それ、病気だろ。
被害妄想だ。
「誰もそんなことを思ってないぞ」
「…………ユウマはそう言う。でも、アニーはそう思っている」
アリスがアニーを見る。
「思ってないっての。私は採取した素材の加工で忙しいからあんたが行きなさい」
アニーは朝から採取した素材を乾燥させたり、加工したりしている。
「…………よし、アニーは大丈夫。きっと幼馴染で心の友のナタリアも大丈夫。でも、AIちゃんは思っているよね?」
こいつ、自傷癖でもあるのか?
「思っていませんよ。アリスさんはとても大事ですし」
AIちゃんがニコッと笑う。
「…………あー……この人工知能ちゃんはそっちの評価しかしてこないか。お前はマスターの子供を産めばいいという声が聞こえてくる」
被害妄想だな。
「何でもいいけど、じゃあ、お前は明日、来るわけだな。もう1人はどうしようかねー?」
「アニーさんは忙しそうですね」
AIちゃんがアニーを見る。
「とっても忙しい。これが金貨何十枚にもなるのよ」
薬師って儲かるんだなー。
「私が行くよ。リリーは最近、働きすぎだし」
ナタリアが立候補した。
「狩りとか色んなものを作らせたしなー。じゃあ、そうしようか」
「うん。それで何とかの町ってどれくらいなの?」
「何とかの町は歩いて数日らしい。今、リアーヌが馬車を転移できるかの実験中だとさ。馬車があれば1日だって」
試したことがないらしい。
「そんなに遠くないわけだね。ドラゴンの影も形もなし、もう国外にまで飛んでいったのかなー?」
「さあ? ドラゴンの考えていることはわからん」
大人しくどっかの山にいればいいものを。
「ユウマさー、実際のところ、ドラゴンに遭遇したらどうするの?」
アニーが聞いてくる。
「どうするとは?」
「あんた、ドラゴンを倒せるんでしょ? 倒したら一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入るわよ?」
「今も遊んで暮らしているから別にいらん」
献金もないし、住まいもある。
十分だ。
「そう……じゃあ、まあいっか。それと一つ気になっていることがあるんだけど、西ってリリーの地元のエルフの里がないっけ? 寄る?」
あいつの実家って西にあるんか。
「まあ、どこかは知らんが仕事がさっさと終わるか、余裕があったら寄ってもいいんじゃないか?」
リリーもこの前帰ったばかりとはいえ、寄りたいんじゃないかな?
「それもそうね」
俺達が明日の予定を決め、まったりと過ごしていると、急にリアーヌが現れた。
「最初はびっくりしたけど、もう慣れたなー。まあ、座れよ」
「はい」
リアーヌは靴を脱ぐと、俺の隣までやってきて、コタツに入る。
そして、ナタリアがお茶を淹れ、リアーヌの前に置いた。
「すまんのう……ん? 何か違和感が……」
リアーヌが首を傾げる。
「アリスじゃないか?」
「んー? あ、起きてる。怠惰なわがままチビが起きてるじゃないか。お前、Bランクなら働けよ」
「…………ほらぁ」
まあ、リアーヌはなー……
こういう奴だし。
「明日から頑張るってさ」
「まあ、森も抜けましたけど……」
「それで? 馬車はどうだった?」
アリスが可哀想だからこの話題はもうやめよう。
「あ、そうでした。馬車も馬も普通に転移できましたね。ですので、明日は馬車で行きます」
「そうか。一日で着くんだったな?」
「はい。朝早くに出れば夕方には着きます。イブルの町に着いたら宿を取り、それで一旦、帰りましょう。あ、別に泊まりたかったら泊まっても良いですよ」
あー、どうでもいいけど、イブルって名前だったな。
「俺は帰りたい。自分の部屋でまったり過ごす方がいいわ」
「まあ、ここの方が過ごしやすいでしょうね」
リアーヌが苦笑いを浮かべながらだらだらと過ごしている女性陣を見渡した。
「伯爵さんは翌日か?」
「はい。いくら派閥の貴族とはいえ、そんな時間にアポなしで伺うのは失礼ですし、フォール伯爵には翌日の昼にでも伺います。ユウマ様もご同行願ってもいいでしょうか?」
「ああ。俺はお前の護衛も兼ねているからな」
「いや、フォール伯爵はそんな危ない人ではないんですけどね」
「知らん。誰であろうと俺のやることは変わらない」
そう言うと、リアーヌが斜め右にいるアリスの首根っこを掴み、顔を寄せた。
「……かっちょえーな! かっちょえーな! そう思うだろ!?」
「…………そうだね。良かったね。暴れてもいいけど、せめてその左手の熱いお茶はテーブルに置いて。怖いよ」
アリスが訴えると、リアーヌが手を離し、お茶を一口飲む。
「それでフォール伯爵に頼んで目撃情報がないかを聞きましょう。ギルドに頼んでも良いです」
リアーヌは平静を取り戻し、話を再開した。
「わかった。明日はアリスとナタリアが行くから迎えにきてくれ」
「はい。早めですのでよろしくお願いします…………起きろよ」
リアーヌがそう言って、アリスを睨む。
「…………私は起きるよ。起きないのはそっちのかっちょえー方」
アリスが俺を指差した。
「俺も起きるよ。AIちゃん、起こせよ」
「任せてください!」
AIちゃんが胸を張る。
「…………そっちの小さいキツネちゃんも起きないね」
「私が起こすよ……」
ナタリアが起こしてくれるらしい。
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