第144話 静寂の森
俺達はその後も歩いていくが、本当に魔物が出ない。
もう昼になろうとしているが、ゴブリンが3匹にオークが1匹だ。
「こんなに少ないもんか?」
半分くらいって言ってなかった?
「いや、少なすぎだね。森の奥なのに……」
「私達は楽でいいけど、冬も活動する冒険者は困るわね」
確かに……
「スタンピードの時はめちゃくちゃ多くて、今はめちゃくちゃ少ない……極端だなー」
「ホントだよね。適度がいいんだけど」
「今年は楽しかったけど、ロクなことがないわ」
スタンピードにドラゴン探しだもんなー。
「マスター、おそらくですが、魔物達はドラゴンを恐れて隠れたのだと思います。ですので、ドラゴンがいなくなればすぐに元に戻ると思われます」
あー……なるほど。
あんな魔力を持つ巨大なものがいたら逃げるわな。
「ということは今の内に森を抜けた方がいいか……」
「私もそう思う。明日は休みにしてゆっくり行こうかと思っていたけど、森だけは早めに抜けようよ」
休みを決める係のナタリアが提案してくる。
「賛成」
「私もそれがよろしいかと思います」
アニーとAIちゃんも賛同した。
「リアーヌ、それでいいか?」
「私的には早いことに越したことはありませんし、それで問題ありません」
「お前の体力は?」
「狛ちゃんに乗っているだけですし……」
そりゃそうだ。
「じゃあ、そうするか」
「はい。とはいえ、一度、戻って昼食にしましょう」
いい時間か……
「頼むわ」
狛ちゃんが足を止めたので、皆でリアーヌに触れる。
すると、視界が変わり、自室に戻ってきた。
「あ、おかえりー。ご飯を取ってくるよ」
「…………取ってくる」
リリーとアリスはコタツから出ると、部屋を出ていく。
俺達は逆にコタツに入った。
「寒い、寒い……」
アニーがいつもの生首になる。
そのまましばらく待っていると、リリーとアリスが昼食を持ってきてくれたので皆で食べる。
「昼食も家で食べられるのは楽で良いな」
周囲の警戒をしなくていいし、ゆっくり食べられる。
「ホントよ。しかも、暖かいコタツで温かいご飯」
「転移ってすごいよね。リアーヌ様様」
アニーとナタリアは嬉しそうにご飯を食べていた。
「まあのう……しかし、楽すぎだな」
リアーヌは狛ちゃんに乗っていただけだしな。
「森はどうだったの?」
リリーが聞いてくる。
「昨日の比じゃないくらいに魔物も動物もいない。AIちゃんが言うにはドラゴンのせいで皆、隠れたんだろうって」
「あー、ありうるね。動物ってそういうのに敏感だもん。昔から動物がいなくなったら気を付けろって言われている」
俺の世界でもあったな。
そういう異変があったら大抵、地震が起きる。
「そういうわけで今が森を抜ける好機だと思うんだ」
「良いと思うよ。森は何が起きるかわからないからさっさと抜けるべき」
森に詳しいリリーもこう言うならそうするべきだろう。
「…………私もそれで良いと思う。だから今日はなるべく進んで。どうせ、明日はアニーに代わって私だろうし」
うん、お前だよ。
なお、明日も今日と同じくらい進む予定。
「マスター、午後からは少しペースを早めてもいいかもしれません」
「まあなー……」
どうしたものかね?
「午後からは私も行こうか? 私は森で疲れることなんかないし、索敵もできるよ」
森では頼りになるリリーが立候補してきた。
「明日もになるが、行けるか?」
「森は私のフィールドだから問題ないよ。西の森より危険な森に住んでいたわけだし」
動物が襲ってきてもリリーなら返り討ちにして晩飯にしてくれるか……
「じゃあ、そうしよう。ナタリア、お前、午後から休んでいいぞ」
「いいの?」
「狭い森で何人も並んで進む必要もない」
「まあね。でも、アニーさんじゃなくていいの?」
ナタリアがさっさと食事を食べ終え、生首になっているアニーを指差す。
「私は採取があるから行く。森の奥に行ける時ってそんなにないし」
「…………アニー」
アリスが期待したように声をかけた。
「明日は行かない」
「…………アニー……」
アリスが落ち込む。
「お前、そんなに行きたくないのか?」
「…………そういうわけじゃないけど、索敵もできなくて攻撃魔法しか能のない私は森ではちょっと……平原が良い。ことわざ、森の中の私、平原の私」
意味は人には得意不得意がある、か。
「ナタリア、明日も出てくれ」
「いいよ。私はどこでもいいし」
どこでもビビってるもんな。
「…………ごめんね、ナタリア。リンゴあげる」
「どうも……」
こいつら、リリーが留守の時によく2人で冒険者をやってこれたな……
「じゃあ、それで。適材適所でさっさと抜けよう」
俺達は昼食を食べ終えると、ナタリアとリリーを交代させ、森に戻った。
そして、歩く速さを上げ、森の中を進んでいく。
「これは見事に何もいないね……」
歩いていると、リリーが周囲を見渡しながらつぶやいた。
「そうなのか?」
「うん。気配がまったくない。わかりやすいのは鳥だよ。昨日の狩りの時は結構いたのに今はまったく見ないし、鳴き声一つない」
そう言われると、鳥の声がしないな。
「マスター、もう少しペースを上げても良いと思います。私とリリーさんで十分に索敵できます」
「そうするか」
俺達はさらに歩く速度を速めて進んでいく。
そして、日が落ち始めたので寮に帰ると、夕食を食べ、早めに就寝した。
翌日、アニーとナタリアを入れ替え、この日も5人で森を歩く。
やはり、魔物がほとんど出ないうえに動物に限ればまったく見かけなかった。
そうやってこの日もペースを早めて進んでいくと、夕方になる前には森を抜けることができた。
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地方によってはまだかもしれませんが、是非ともご購入頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。