第143話 森の奥を歩く
俺達は朝起きると、朝食を食べ、準備をした。
そして、リアーヌがやってくると、今日は行かないアリスとリリーを含めた全員が俺の部屋に集まる。
「いってらっしゃーい」
「…………頑張って。私達はここで皆の無事を祈って待っているから」
リリーは笑顔で手を振ってくれ、アリスは顔だけを出して言う。
「アリス、ちゃんとしなさい」
「…………アニーにだけは言われたくない」
ホントだよ。
何を真面目な顔で窘めてんだ。
「楽しそうな連中だのう……さて、ユウマ様、参りましょうか」
リアーヌにそう言われたので肩に触れる。
すると、AIちゃん、アニー、ナタリアもリアーヌに触れた。
「いいぞ」
「はい。では、行きます」
リアーヌがそう言うと、一瞬、視界が暗くなったが、すぐに緑溢れる森の中に移動した。
そして、真っ黒に焦げた跡もあったのでここが魔族のスヴェンと会った西の森の奥で間違いないだろう。
「あー、寒い、寒い」
アニーがそう言うと、俺達に手を向けてくる。
すると、寒気が少し弱まった。
寒さを和らげる魔法をかけてくれたのだろう。
「感謝するが、お前、本当にその格好で行くのか?」
リアーヌが呆れた目でアニーを見る。
「放っておいて。それより、ドラゴンを追うとしても具体的な道筋を考えましょう」
「道筋?」
「これから西に行くわけでしょ? 歩いていくの? よく考えたらユウマが蜂さんを出して、リアーヌと飛んでいくのが一番早い気がする」
まあ、早さで言えばそうだろう。
「蜂さん……あれか……」
リアーヌが嫌そうな顔をする。
この前のお姫様を救った時にお姫様を抱えて飛んでいく蜂さんを思い出したのだろう。
「俺もそれを考えたんだがな……どうもあのドラゴンは俺やレイラの蛇に反応している感じがする。だから蜂さんを出して刺激したくない。あの速度で飛ぶドラゴンと空中戦になったらまず勝てんぞ」
蜂さん、毒もないから飛ぶことしかできないし。
「じゃあ、地道に歩くわけね。それでもいいけど、この森を突破するってことでいい? 確か、森を抜けたら平原に出るはずだけど」
「そうなのか?」
その辺の地理がわからない。
「ええ。南の森は広いけど、ここはそこまで広くない。数日も進んでいけば、森を抜けられるわ。その先に町があったはず」
なるほどね。
そこまでにドラゴンがいればすぐに仕事が終わる。
「リアーヌ、まずはその町を目指す感じで良いな?」
「はい。私もそれが良いと思います。森を抜けた先にはフォール伯爵が治めるイブルという町があります。フォール伯爵は私の家の派閥の者ですから問題はないです」
そこで再度、情報を集めるか。
「よし、じゃあ、それでいこう」
そう言うと、護符を取り出し、狛ちゃんを出す。
すると、アニーが狛ちゃんをあやし始めた。
「アニー、リアーヌに譲れよ。お子様だぞ」
「85歳ですよー……」
リアーヌが小声で訴えてくる。
「わかってるわよ。それに私は歩きながら素材を採取する」
冬だけにしか採れないって言ってたやつか。
「地面を掘るやつ?」
「あんなことをしてたらいつまで経っても森を抜けられないわよ。足を止めなくてもいい。その辺に生えている花をむしったり、落ちている実や種子を拾うだけ」
まあ、それくらいならいいか。
「わかった。あまり離れるなよ。リアーヌ、乗れ」
「あ、はい」
リアーヌは頭を下げてくれている狛ちゃんに乗った。
どう見ても子供である。
「じゃあ、行くか。AIちゃん、探知を頼んだぞ。今日はリリーがいないからお前しか獣を索敵できない」
俺は魔力がないものは探知できない。
「わかりました。お任せを」
「よし、行こう」
俺達は西に向かって歩き出す。
ちょうどスヴェンが逃げていった方向だ。
「ユウマ、この辺りからオークも出てくると思うから気を付けて」
歩いていると、ナタリアが教えてくれる。
「オークは森の奥だったな」
「うん。そんなに数が多いわけではないと思うけど、この前のスタンピードのことを考えると、多くなっているかもしれない」
ありえるな。
「ナタリア、アニー、絶対に俺のそばから離れるなよ」
「うん」
「言われなくても離れないわ。狛ちゃんがあれだし、私達なんか一発でお陀仏よ」
狛ちゃんはリアーヌを乗せているしなー……
「護衛に大蜘蛛ちゃんでも出すか? 小っちゃいやつ」
大蜘蛛ちゃんならオークなんか相手じゃない。
むしろ、近づいてこないまである。
「大蜘蛛ちゃんには悪いけど、ちょっと嫌かな……」
「というか、ドラゴンを刺激したくないって言ったのはあんたじゃん。大蜘蛛ちゃんなんか刺激しまくりでしょ」
それもそうだな……
レイラの蛇と同じで好戦的だし、やめた方がいいか。
俺達はその後も警戒をしながら歩いていく。
アニーは言っていた通り、花をむしったり、落ちている実や種子を拾っており、まったく警戒していないが、ナタリアは周囲を見渡しながら歩いていた。
AIちゃんはいつの間にか出したキツネ耳をぴょこぴょこと動かして、警戒している。
まあ、意味はないんだろうが、かわいいから良しとする。
「魔物があまりいないなー……」
昨日もそうだった。
「冬は魔物もあまり活動しなくなるからね」
ナタリアが教えてくれる。
「そうなのか? あいつらも寒いのかね?」
「さあ? その辺の生態はよくわからないけど、冬は明らかに減るよ。東の遺跡のリビングデッドは変わらないけど、ゴブリンやオークは半分くらいになるね」
スケルトンやゾンビなんかは寒さに強いのかもしれない。
もう死んでいるし。
「魔物がいないのは良いことだけど、つまらんな」
「マスター、しりとりでもします?」
しりとりねー。
「リアーヌか?」
「私でもいいですが、すぐに終わると思いますよ」
「AIちゃん……」
あ、終わった。
本日、書籍の第1巻が発売となりました!
是非とも読んで頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。