表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/241

第010話 盗み聞き


 盗賊討伐の成功報酬で揉めそうな雰囲気が漂っている。


『AIちゃん、どう思う?』

『ようやく私の仕事ができそうです。今回のケースの揉め事となる原因を解説します。まず、今回の仕事は冒険者ギルドと呼ばれる仲介組織がおそらくですが、町の領主などの権力者から依頼を受け、ギルドがその仕事をこの2人に紹介し、この2人はそれを受注したのだと思われます』


 冒険者ギルドなる組織があるわけだな。

 まあ、確かに直接依頼人と話すと揉め事が多そうだし、専用の仲介組織を置くのは正解だろう。


『それで?』

『この場合、依頼料を受け取る権利があるのは当然、この2人です。これがこの2人の主張。ですが、実際にはこの2人は何もしておらず、マスターがすべて討伐しました。当然、マスターにも依頼料を受け取るという主張が認められてもいいわけです』

『つまり俺が主張したら揉めるわけだ』

『そういうことです』


 なるほどねー。

 受注してない時点で論外だと思うが、その場合、討伐をしていないこの2人が報酬を受け取るのはおかしいことにもなる。

 このまままともにギルドとやらに報告すると、誰も報酬を受け取れない可能性もあるわけだ。


『どう思う?』

『主張すれば、半分以上の成功報酬を獲得できます。ですが、その場合、この2人との縁は切れるでしょう』

『縁は大事か?』

『優しそうな子達ではないですか。たかがあの程度の賊を討伐する依頼料を取るか、かわいらしくて私達が行く町に詳しい女性との友誼を取るかです』


 考慮にも値しないな。

 確かに今は無一文だから金が欲しい。

 だが、この程度の賊狩りならたいした金にはならないだろうし、それよりも大事な情報や手助けをしてくれる者との縁を取るべきだろう。


「いや、この賊の成功報酬はお前達が受け取るべきだろう」


 俺は長いAIちゃんとの作戦会議を終えると、口を開いた。


「そ、それはよくないです! せめて、半分は受け取るべきです」

「…………四分の一くらいなら」


 すでに2人が揉めてるし。


「いや、人の物を奪うのは如月の名に傷が付く。ここは譲ろうではないか。その代わりと言ってはなんだが、町まで送ってくれんか? ついでに食料をわけてほしい。あと、町を案内してくれ。さっきも言ったが、俺は昨日、この世界に来たばかりで何もわからないし、金も食べ物もないのだ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね! アリス」

「…………うん」


 ナタリアとアリスは俺達から離れると、馬車の裏に回った。

 2人が離れると、俺は耳に霊力を込め、聴力を上げる。


「どうする?」


 ナタリアがアリスに聞いた。

 普通なら聞こえない声量だが、俺には聞こえている。


「…………受けるべきでしょ」

「あなたもそう思う? 私は助けてあげるべきだと思うけど、あなたはなんで?」


 ナタリアは優しいな。


「…………まずだけど、あの……名前を聞いてなかったね。とにかく、あの男はヤバい。エアカッターに似た魔法を使っていたけど、威力もスピードも私のエアカッターよりもはるかにすごかった。間違いなく、私達より格上の魔術師だし、剣の腕もすごかった。それでいて、ギフト持ちの転生者。揉めて戦闘になったらまず勝てない」

「揉めるかな? 優しそうな人だったけど」


 うんうん。


「…………あの人の身なりや言葉遣い、それに如月の名がどうたらこうたら言ってたでしょ? 間違いなく、前の世界では上流階級の人間だと思う。だから優しい。でも、そういう人達は逆らう人に容赦しない」


 いや、するよ。

 暴君じゃねーぞ。


「そういえば、偉そうな言葉遣いだったね」


 え? そうかな?

 うーん、言葉遣いも気を付けるか。


「…………とにかく、揉めるのも機嫌を損ねるのも悪手だよ。ここは素直に向こうの提案を受けるべき。食料だって余分はあるし、町を案内するのだってたいしたことじゃない。強そうな護衛ができたと思おう」

「何か話を聞いてると、逆に私が心配になってきたんだけど、大丈夫かな? 襲われない?」


 襲わねーよ。


「…………その時は抵抗しちゃダメだよ。素直に抱かれて責任を取ってもらおう」


 あいつは何を言ってるんだ?


「それはどうかと思うけど、わかったわ。困った人を放っておけないし、町まで送りましょう。多分、女の子を連れているし、大丈夫でしょ」

「…………実はそれが気になっていたんだけど、なんで女の子が従魔なの?」

「知らない。後で聞いてみれば?」

「…………そうする」


 2人は話し合いを終えたようでこちらに戻ってくる。


「コホン。お待たせしました。えーっと、名前は何だっけ?」


 戻ってきたナタリアがわざとらしい咳をすると、名前を聞いてくる。


「俺は如月悠真だ」

「えっと…………」

「ユウマでよい」


 ナタリアとアリスの名前を聞いた時から名前が微妙に合ってない気はした。


「ユウマね」

「おー、この人、すごいですね。如月家34代目当主であり、偉大なる妖狐であらせられる金狐様のご子息であるマスターを呼び捨てです」


 いや、妖狐の子って言うなって言ったのはお前だろ。


「ユ、ユウマ様、ですね」


 ナタリアが汗を流しながら訂正する。


「呼び捨てでいい。下手に敬語を使われても粗が目立つだけだし、転生した今はそんなことどうでもいいわ」


 俺は文字通り、生まれ変わったのだ。


「う、うん。私はナタリア。よろしく」

「…………私はアリス。よろしく」


 2人がちょっとだけ頭を下げてくる。


「ああ、よろしく。ついでに紹介するが、こいつはAIちゃんだ。俺の弟子という設定だからそのつもりで」

「よろしくです」


 AIちゃんは胸を張って挨拶をする。


「よろしくねー」

「…………よろしく。ねえねえ、なんで少女が従魔なの?」


 早速、アリスが聞いてきた。


「式神は色々な形がある。そいつはそれの一つだ。あまり使っていないやつだが、AIちゃんが気に入っただけだな」

「…………幼女が好きなの?」


 そんなわけないだろ。


「間違ってはいませんね、お孫さんにデレデレのおじいちゃんでしたから。マスターにはその時の記憶がないのですが、本能が覚えています。たまに頭を撫でてきますが、ものすごく優しいです」


 いやー、なんか恥ずかしいね。


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

週末のんびり異世界冒険譚 1 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~
週末のんびり異世界冒険譚 2 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

【販売中】
~書籍~
最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜(1)

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua
― 新着の感想 ―
 まあ、年齢的に曾孫で、ひいお爺ちゃん的な……
[一言] 子供の嫁にすればよかった説 そうしない理由もあったんだろうけど
[一言] バカはいつもの事、そう思えば全てが許せる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ