凡人と秀才
俺が事実を告げると、ヴィアクを含め、皆驚いたような顔をした。
「え……分身を先行させているのですか?」
「はい。既にバゼル配下の半数近くを処理しています」
「分身を構成するには相当な魔力量が必要なはず……そのうえで十五回も結界を破っていたとは……天野さん、相当な規格外ですね」
なんだか最近は規格外と言われてばかりだな。一応ヘルメス魔術学院を首席で卒業してはいるが、そんなに言われるとなんだか自分が異常者のような気がしてしまう。
「どうも……それより、突入するメンバーの選定が必要ですね。私はなにがなんでも行きますが」
「そうですね。私は拠点を維持する必要がありますので行けませんが、何人か候補は……」
話の途中だったが、俺は閃光魔法を放ち、敵の攻撃を逸らした。海面に炎が激突し、蒸気が立ち昇る
「な、何が起こって……」
リンが戸惑っている。
「ブレスを撃とうとしているドラゴンがいたんでな。麻痺魔法を三発叩き込んでやったが、全然効かなかったんで目くらましに切り替えただけだ」
高火力の魔法の詠唱を省略できるほどの技量は、俺にはない。早撃ち魔法を活かすとなると、こういう戦い方になる。
「さすが、魔法だけでなく状況判断も早いですね」
リンが褒めてくるが、そんな悠長なこと言ってる場合か。
「これくらいできなきゃ、東京上陸後は生き抜けないぞ」
「そうですかね? 私は大抵の攻撃には耐えられるので問題ないですが」
「それは魔剣があればの話だろ」
「うぐっ……」
俺に魔剣を弾き飛ばされたことを思い出したのか、リンは押し黙った。痛いところを突かれたらしい。
リンはすかさず魔剣アルマースを抜き、まだ200mほど先にいるドラゴンを一刀両断した。
剣圧を飛ばすだけでこの切れ味とは、さすがだな。
「そうですよ、所詮私は魔剣に選ばれただけの凡人です。先輩のような優秀な魔術師に敵わないことくらい分かってます」
亜空間に魔剣を収納しながら、リンは自嘲気味に呟く。
「だったら……」
東京上陸なんてやめたほうがいい。俺はそう言いかけた。
「でも私は先輩に勝ちたいんです。それに言ったでしょ? 先輩の敵は、私の敵でもあるんです」
「そうか」
これは言って聞かせても無駄だろうな。